第二十七話 非公開の情報
三人と一匹は食後のデザートを食べ終え、それぞれ帰路につくことにした。
レジで会計を済ませ、店を出る。
代金は点点を除く三人で割り勘だ。
さすがに神の使いにお金を払わせるわけにはいかない。
というより、点点はお金を持っていなかった。
駅の改札口に入ってすぐ、ゆかりは有島君をよろしくお願いしますねと、すももに言った。
すももは、いやいやと手を振る。
「とんでもないです。守ってもらってるのは、あたしの方ですから」
すももの言葉に絆は照れくさそうにするが、ゆかりはこともなげに言う。
「いえいえ。私も彼もプロとしては半人前なので」
「そうなんですか?絆君は強かったと思いますけど……。この前、ヴァンパイアに襲われた時も、あっという間にやっつけちゃったし……」
「まあ、一体だけ取り逃がしたがな」
点点がそう言うと、ゆかりは絆の方に視線を向ける。
「取り逃がした?」
「ああ」まいったなと絆は頭を掻いた。「一体だけ仕留め損なった」
「隊には報告したんですか?」
「したよ。実は、そのことで電話しようと思ってたんだ」
ゆかりは考えるような仕草をすると、おもむろに絆に言った。
「……その件と関係があるかは分かりませんが、最近、都内で女性が夜間に襲われる事件が多発しています。そのことはご存じですか?」
ゆかりの言葉に、すももはピンときた。
「あ、知ってる!ニュースで見たもん。秋場社長からも注意された」
「実はその犯人……」ゆかりはもったいぶった言い方をした。「ヴァンパイアらしいのです。報道はされてないと思いますが、監視カメラに透明人間から暴行を受ける被害者が映っていて、警察内では、ちょっとした騒ぎになっています」
「ヴァンパイアはカメラには映らないから、そう見えるのかもな……。そのヴァンパイアが、すももを襲った連中と繋がっていると?」
絆の質問に、ゆかりは頷いてみせる。
「かもしれません。私の方でも調べてみます。何か分かったら連絡をしますね。有島君は引き続き、すももさんの護衛をお願いします」
「ああ、分かった。頼むよ」
またヴァンパイアが現れると思うと緊張するが、絆も点点もいるし大丈夫だろう。
「それでは、私はそろそろ……」
ゆかりとは帰る方向が違うので、ここで別れることになった。
すももは笑顔を見せて、絆の友人を見送る。
「そう。じゃあね、ゆかりさん。また一緒にご飯食べに行きましょう。あ、そうそう……実は今度、ヘルシングの新曲が出るので、よかったら聴いてくださいね」
「新曲?」とゆかりが驚く。
一方、絆は慌てた様子で、すももの腕を小突いた。
「まだ発表されてない情報だろ。勝手にばらしていいのか?」
「あっ……いけない!」すももは両手で口を塞ぐ。「ゆかりさん、今のなし。聞かなかったことにして」
「あははは……分かりました。何も聞いてません。すももさん、お仕事頑張ってくださいね。応援してます」
ゆかりの言葉に、すももはほっと胸をなでおろす。
ヘルシングの楽曲やイベントなどの情報は、全て公式の発表を待たねばならない。
今、一生懸命振り付けを練習している楽曲は、何の情報も公開されていない。
そもそも曲名すら決まってはいないのだ。
すると、ゆかりは恥ずかしそうに、すももに視線を向けてくる。
「あ、あの……最後に一つだけ、よろしいですか?」
「何?」とすももは首を傾げる。
「……握手してください」
すっと差し出された右手に、一瞬、きょとんとしてしまったが、すぐに笑顔を返す。
「うん。いいですよ。嬉しい。普段ほとんど気付かれることもなくて……。握手会以外で握手するの、あまり経験がないの……」
すももは両手で包み込むように、ゆかりの手を握った。
きれいな手だったが、何となくたくましい感じもする。
絆と同じ忍者の手だ。
「ゆかりって案外ミーハーだよな」
二人のそんな様子を眺めていた絆が、ぼそっと呟く。
ゆかりの様子がおかしいらしかった。
すももが手を離すと、ゆかりはありがとうございますとお礼を言った。
「陰ながら応援してます。あまり気にしないでください。昔からああいう人なので……」
「うん」すももは笑顔で応じる。「大体どういう人かは、ここ何日かで分かりました。あまり気にしないようにします」
「いや、どういう意味だよ」と絆は不服らしい。
「ほっほっほ」鞄から顔を出している点点が笑う。「二人は馬が合うようじゃのう」
点点の言葉に、すももとゆかりは目を合わせて笑う。
すももは忍者の友達ができたと嬉しく思った。
それに、忍者の人にまで知っててもらえるヘルシングというグループを、改めて誇りに思った。




