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ダンシング・ヘルシング  作者: 逸見 秋仁
第二章 夢
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第二十六話 振り回されるタイプ

「……はあ」と絆(ばん)はため息を吐く。


 そんな彼に険しい視線を投げかけているのは、すももとゆかりだった。

 一方の点点(てんてん)は素知らぬ顔で、パスタをすすっている。

 騒がしい店内の客は、ぬいぐるみが食事をしていることに、全く気付いていなかった。


 こうなったのには事情があった。

 食事をしながら、ゆかりの話を聞いているうちに、彼女に同情するようになってしまったからだ。

「絆君、ため息つきたいのは、ゆかりさんの方だよ。卒業してから、ろくに連絡もしなかったんでしょ?」

 ゆかりは頷いている。同じ忍者学校の絆には、かなりの不満が溜まっているらしい。


「一応、反論させてもらってもいいか?」と絆はフォークを置く。

「反論?何?」とすももは訊ねる。

 確かに、片方の言い分だけ聞くのは公平じゃない。

「今日、ここへ来る前、ゆかりに電話をかけるつもりだった」

「なら、掛ければよかったじゃない?」

「すももが来たから掛け損なったんだよ」

「あっ……」


 すももはダンススタジオでの一件を思い出す。

 確かに、彼はスマホを持って、誰かに連絡を取ろうとしていた。

「気にせずに掛ければいいのに……。それに、絆君が今日まで、ゆかりさんのことを、ほったらかしにしてたのは事実じゃない?」


 すももに指摘されて、絆は一瞬ひるんだが、それでも反論してくる。

「卒業してから、いろいろと大変だったんだよ。秋場(あきば)プロの採用試験があったからな。マネージャーとして採用されるために、不慣れな就活の勉強を必死でしてたんだ。車の免許もあった方がいいからって、教習所に通ったりな……」


 インドア派の絆が、車の免許を持っていたのは、そういう理由があったらしい。

 それでも、すももは完全に納得したわけじゃない。


「でも、さすがに全然連絡を返さないのは、ちょっと……。ゆかりさんとは同じ隊に所属してるんでしょ?」

「同じ隊といっても、天巫女(あまみこ)の護衛は単独任務だから、他の隊員には関係ないしなぁ……。それに、すももだってヘルシングのメンバー全員と連絡取り合ってるわけじゃないだろ?」

「そ、そうだけどさぁ……」


 ヘルシングは四十名以上のアイドルが所属している。

 当然、全員と仲がいいわけじゃないし、あまり話したことのない娘(こ)もいる。


「有島(ありしま)君、ちょっといいですか?」

 黙っていたゆかりが、二人の話に割って入ってくる。

「何だよ?」と絆は訊ねた。

「有島君は班決めのことは聞いていますか?」

「班?塾生時代に実習とかでやったやつか?ゆかりとはよく一緒になったよな。それがどうしたんだ?」


 首を傾げる絆を見て、ゆかりはため息を吐いた。

「やっぱり聞いてないんですね。私と有島君は同じ班になったんですよ。十三中隊でも」

「えっ本当に?」

「第三十三班……それが私達の所属する班です。というわけですから、何か護衛任務で困ったことがあれば、同じ班の私にも相談してくださいね」

「あ、ああ。そうだったのか。頼りにしてるよ」


 絆のその言葉に、満更でもないのか、ゆかりはほほ笑んだ。

「仕方ないですね。まあ、あなたが変わっているのは、塾生時代によく分かりましたから。少しの期間、放置されたくらいで、かっかとする私も私です」

「おーさすが、ゆかり」と絆が褒めると、彼女は嬉しそうな表情になる。


 すももは、この二人が忍者学校にいた時代を知らないが、何となく想像はできた。

 きっとゆかりという女性は、これまでも絆に振り回されてきたのだろう。

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