第二十六話 振り回されるタイプ
「……はあ」と絆はため息を吐く。
そんな彼に険しい視線を投げかけているのは、すももとゆかりだった。
一方の点点は素知らぬ顔で、パスタをすすっている。
騒がしい店内の客は、ぬいぐるみが食事をしていることに、全く気付いていなかった。
こうなったのには事情があった。
食事をしながら、ゆかりの話を聞いているうちに、彼女に同情するようになってしまったからだ。
「絆君、ため息つきたいのは、ゆかりさんの方だよ。卒業してから、ろくに連絡もしなかったんでしょ?」
ゆかりは頷いている。同じ忍者学校の絆には、かなりの不満が溜まっているらしい。
「一応、反論させてもらってもいいか?」と絆はフォークを置く。
「反論?何?」とすももは訊ねる。
確かに、片方の言い分だけ聞くのは公平じゃない。
「今日、ここへ来る前、ゆかりに電話をかけるつもりだった」
「なら、掛ければよかったじゃない?」
「すももが来たから掛け損なったんだよ」
「あっ……」
すももはダンススタジオでの一件を思い出す。
確かに、彼はスマホを持って、誰かに連絡を取ろうとしていた。
「気にせずに掛ければいいのに……。それに、絆君が今日まで、ゆかりさんのことを、ほったらかしにしてたのは事実じゃない?」
すももに指摘されて、絆は一瞬ひるんだが、それでも反論してくる。
「卒業してから、いろいろと大変だったんだよ。秋場プロの採用試験があったからな。マネージャーとして採用されるために、不慣れな就活の勉強を必死でしてたんだ。車の免許もあった方がいいからって、教習所に通ったりな……」
インドア派の絆が、車の免許を持っていたのは、そういう理由があったらしい。
それでも、すももは完全に納得したわけじゃない。
「でも、さすがに全然連絡を返さないのは、ちょっと……。ゆかりさんとは同じ隊に所属してるんでしょ?」
「同じ隊といっても、天巫女の護衛は単独任務だから、他の隊員には関係ないしなぁ……。それに、すももだってヘルシングのメンバー全員と連絡取り合ってるわけじゃないだろ?」
「そ、そうだけどさぁ……」
ヘルシングは四十名以上のアイドルが所属している。
当然、全員と仲がいいわけじゃないし、あまり話したことのない娘もいる。
「有島君、ちょっといいですか?」
黙っていたゆかりが、二人の話に割って入ってくる。
「何だよ?」と絆は訊ねた。
「有島君は班決めのことは聞いていますか?」
「班?塾生時代に実習とかでやったやつか?ゆかりとはよく一緒になったよな。それがどうしたんだ?」
首を傾げる絆を見て、ゆかりはため息を吐いた。
「やっぱり聞いてないんですね。私と有島君は同じ班になったんですよ。十三中隊でも」
「えっ本当に?」
「第三十三班……それが私達の所属する班です。というわけですから、何か護衛任務で困ったことがあれば、同じ班の私にも相談してくださいね」
「あ、ああ。そうだったのか。頼りにしてるよ」
絆のその言葉に、満更でもないのか、ゆかりはほほ笑んだ。
「仕方ないですね。まあ、あなたが変わっているのは、塾生時代によく分かりましたから。少しの期間、放置されたくらいで、かっかとする私も私です」
「おーさすが、ゆかり」と絆が褒めると、彼女は嬉しそうな表情になる。
すももは、この二人が忍者学校にいた時代を知らないが、何となく想像はできた。
きっとゆかりという女性は、これまでも絆に振り回されてきたのだろう。




