第二十五話 運命の掛け違い
すももの対面に、マネージャーの絆と彼の知人の蓮井ゆかりが並んで腰掛けている。
二人は忍者の学校の同級生だという。
三人は同い年という共通点があるし、すももは、ゆかりとも仲良くできる気がしていた。
人見知りの彼が名前で呼んでいるくらいだから、ゆかりという娘と絆は相当親しいはずだ。
すももはレストランの席に着くなり、単刀直入に切り出してみた。
「二人はさ……付き合ってたりするの?」
絆はその言葉を聞くなり、咳き込んで、飲みかけのコップをテーブルに置いた。
「そ、そんなんじゃないよ」
「そ、そうです」とゆかりも慌てた様子で頷く。「私と有島君はただの同期で、それ以上のことは何も……」
「ふ~ん……」とすももは対面に座る二人を見ながら、レストランのメニューを開く。
「どれどれ……」
隣りの席で人形のフリをして固まっていた点点は、テーブルの上のメニューを覗き込む。
三人と一匹は、駅前にあるイタリア料理のチェーン店に来ていた。
安さが売りの店だけあって、全体的に客層は若い。
大学生らしき十代のグループも多かった。
すももはメニューを見ながら、恐縮した様子の彼女に笑顔を向ける。
「ゆかりさんは何にします?」
「えっと……」と彼女は慌ててメニューをめくる。
点点はそんなゆかりの様子に首を傾げる。
「ふむ。さっきからどうした?お主らしくない?いくら天巫女の前とはいえ、緊張することはなかろう?」
ゆかりは単に大人しい子なのかとも思ったが、旧知の点点からも見ても、彼女の様子は少しおかしいらしい。
「天巫女ってそんなに偉い存在なの?」すももは未だに自分の役職について、よく分かっていなかったりする。「その何とかって忍者の里の中で……」
「義賀の里じゃ」と点点が突っ込む。「ふむ。まあ、確かに里にとって、なくてはならない存在ではあるが……」
「そ、そうじゃないんです……」ゆかりは気恥ずかしそうに顔を赤らめる。「すももさんが天巫女だからというわけではなく……」
「ではなく?」点点は首を傾げる。
「じ、実は……私……ヘルシングのファンでして……」
もじもじと俯くゆかりに、すももはパッと笑みを浮かべる。
「そうなんですか?ありがとうございます。忍者の人にまで知っててもらえるなんて……。絆君なんてヘルシングのこと何も知らないから……」
絆という男の子は、文句を言いたくなるくらいアイドルに興味がないように見えた。
なぜマネージャーをしているのか疑問だったが、彼が自分の護衛のために派遣されたと知って、すももはようやく腑に落ちたのだった。
「有島君は変わってますから」とゆかりも笑顔を見せる。
「変わってて悪かったな……」と黙っていた絆が口を開く。
「だって有島君……。義賀の里に来る前は、普通に東京の中学校に通っていたじゃないですか?それなのに信じられない」
「まあ、そうだけどさ……。実は、この任務を頼まれた時、ゆかりの方が適任だと中隊長には言ったんだよ……」
「え?そうだったんですか?」ゆかりは絆の言葉に目を丸くする。
「ああ。だって、護衛対象が人気アイドルだっていうから……。ゆかりの方がそういうのは詳しいだろ?でも、点点が俺を推薦してたらしくて、聞いてもらえなかった……」
「点点さん?」とゆかりは神の使いを睨んだ。「どういうことですか?」
「う、うむ。まあ、お主に任せてもよかったんじゃがの……。お主の夢を叶えるためには、この任務は遠回りになってしまうからな。同じ新人の中では、有島絆が適任だと考えた」
「……そういうことなら分かりました」ゆかりは一応納得したらしく、笑みを浮かべた。
すももはいまいち、よく分からなかったが、もしかしたら護衛として現れる忍者が、別人かもしれなかったということは理解した。
「へえ、そうなんだ。ゆかりさんがマネージャーかぁ……」
「何だよ」と絆はすももに文句を言う。「俺より、ゆかりの方がよかったか?」
「ううん」とすももは首を横に振る。「そういうわけじゃないけど……」
前のマネージャーが辞めると聞かされた時、次も女の人がいいと思っていたのは秘密だ。
「まあ、ゆかりの方が学校の成績もよかったたしな……」と絆は謙遜する。「護衛だけじゃなく、マネージャー業も、そつなくこなせそうというか……」
「いえいえ。私なんて別に……」
慌てて否定するゆかり。
彼女を横目に、すももは冗談めかして絆に言う。
「ふ~ん……じゃあ、やっぱり、ゆかりさんの方がよかったかも……」
「お前な……」と絆が突っ込むと、ゆかりと点点も笑った。
ちょっとした運命の掛け違いで、絆はすももの前に現れたのだと知った。
彼と出会ったのは、ある意味、奇跡なのかもしれない。
二人は全く違う人生を歩んできたのだから。




