第十九話 辛い思い出?
「少しは分かったか?すももが巫女に選ばれた理由が……」
彼女は絆に頷くと、暗い雰囲気を変えるように明るく振る舞った。
「何となく。それで、巫女って具体的に何をするの点点?アイドルと両立できるかなぁ?」
「多分、大丈夫じゃろう」点点は尻尾を左右に振った。「天巫女は里の外部の人間を使う代わりに、業務はあまり多くないのじゃ。年に何回か、忍者の里に行ってもらい、神楽を奉納してもらうことにはなるが……」
「神社に行った時に観たことある。巫女さんが舞台の上でやる踊りね」
神楽は神事において、神に奉納される舞いのことだ。
古代から行われている神道の伝統であるが、すももが言っているように一般的な神社でも普通に観れる。
「すももはダンスをやっておるから、そういうのは得意なんじゃないか?」
点点が適当にそんなことを言うと、すももは苦笑して首を横に振った。
「点点、アイドルのやる踊りと巫女さんがやる踊りは全然違うと思う。あたし、日本舞踊とか全然経験ないもの……」
「違うのか?」と点点はしょんぼりする。「では、特訓が必要かもしれんのう。できれば、夏までには基本的な型は習得してもらわんと……」
「よかった」すももはほっと息をつく。「すぐにやるってわけじゃないのね。それなら、何とかなるかも……。でも、忍者の里かぁ……。どんなところなの?」
「俺が所属しているのは義賀っていう所」と絆は答える。「忍者の里といっても割と普通だぞ。山奥にある田舎町だな。俺はそこの忍者塾っていう学校で、今年の春まで忍術を学んでいたんだ」
「ふ~ん……忍者の学校って楽しそう……」とすももは何気なく言った。
「いや……別に楽しくは……」
絆は露骨に嫌そうな顔をするが、点点は心配するでないと、すももに言った。
「義賀の里はよきところじゃぞ。東京にはない魅力がある。異国情緒の漂う不思議な場所じゃ。行けばきっと気に入るはず。まあ、有島絆には辛い思い出があるようじゃが……」
「異国情緒?」とすももは首を傾げる。「日本にあるんでしょ?」
「もちろん。じゃが、一般人は立ち寄り禁止の場所ゆえ、独特の雰囲気がある。異国情緒とはそういう意味じゃ。まあ、行けば分かるじゃろ」
「うん。楽しみにしとくね。あたしが行った時は、里を案内してよね絆君?」
すももはにっこりとほほ笑んだが、絆はまだ顔をしかめている。
「俺が?里のくノ一にでも案内してもらえよ。俺、休日は学校の寮に引きこもってたから、あんまり里の地理には詳しくないんだよな……」
「そうなの?」とすももは呆れたように苦笑した。「くノ一って女の忍者のことだよね?絆君、モテなかったんじゃない?」
「ほっとけよ」とぶっきらぼうに返す絆の脳裏に、なぜか同級生のゆかりの顔が浮かんだ。
そんなことなどつゆ知らず、すももはご機嫌な様子で、絆の肩を叩いた。
「まあ、とにかく案内よろしく」
ついさっきまでヴァンパイアに怯えていた彼女はどこへやら、すももはまだ見ぬ忍者の里に思いをはせていた。
彼女を里へ連れて行くのは、しばらく先になりそうであるが、その時のために、ある程度のプランくらい考えておいた方がいいのかもしれない。




