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ダンシング・ヘルシング  作者: 逸見 秋仁
第一章 忍者とアイドル
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第十七話 新しい天巫女

 スキンヘッドのヴァンパイア山岡(やまおか)は、絆(ばん)に向けて発砲すると、そのまま尻尾を巻いて逃げ出した。

 点点(てんてん)が結界を張って天巫女(あまみこ)を守っている以上、手が出せなかったようである。


「痛(い)って……」


 絆は仰向けになってアスファルトの地面に寝転んだ。

 幸い山岡の銃弾は致命傷にはならなかった。

 絆はスーツの下に、義賀(ぎが)製のボディアーマーを装着していたからだ。

 放たれた銃弾はアーマーがほとんど弾いてくれた。

 だが、一発だけ腕に銃弾がかすめ、血がどくどくと流れている。


 倒れたまま絆は視線を動かし、周囲を確認する。

 敵はもう完全に撤退したらしい。

 山岡の取り巻きだったヴァンパイアは、青い炎を出して、燃えている。

 ヴァンパイアは死後、灰になって消えてしまうのだ。


 絆が腕を押さえたまま瞳を閉じると、大丈夫かと言って、駆けつけて来たのは点点である。

 内野(うちの)も遅れて絆の様子を見に来た。

 動揺しているらしく、足取りは弱々しい。

「有島さん……私のせいで……。死なないで……」


「そ、そこまで重傷というわけじゃ……」

 内野からは、何発も銃弾を受けたように見えたのかもしれない。

 絆はまぶたを開けて、釈明する。

「下に防弾服を着てるから大丈夫です。一発だけ腕にかすってしまいましたけど……」


 彼女は拍子抜けしたように絆を見つめる。

「一応、訊くけど……これってテレビのドッキリ企画とかじゃないですよね?」

 内野は目の前の出来事を、現実だと認識できていないらしい。

 泣いていたかと思えば、今度は絆を疑い始める。

「カメラなんてないでしょう。今、起こっていることは全て現実です。痛(い)っ……」

 興奮して声を荒げたら、痛みがひどくなってきた。


「ご、ごめんなさい。あ、あたし……自分でも何が何だか分からなくて……。どうしたらいいんだろ?そ、そうだ!救急車呼んだ方がいいですよね?」

 内野は慌てた様子でスマホを取り出そうとする。

 だが、点点がそっと彼女をたしなめた。

「いや、儂に任せてくれんか?この程度の傷、儂にかかれば医者は無用じゃ」

 狐のぬいぐるみは自慢げに言う。

 点点は神の使いだ。

 絆の知らない不思議な術を使う。


「……そっか。なら、頼んでもいいかな?」

 致命傷とはいえないまでも、絆は痛みと痺れで腕をまともに動かすことができなかった。

「任せるのじゃ」と狐は頷く。

「点点、お願い」

 すももが祈るように言うと、神の使いは地面に横たわる絆に寄り添い、傷口を確認した。

 点点のつぶらな瞳から淡い光が放たれ、絆の腕に照射される。

「温かい……」

 不思議な光に包まれて、痛みがみるみるうちに引いていく。


「終わったぞ」点点の目の光が消えた。「ほれ、動かしてみよ」

「よし……」と絆は肘を曲げたり伸ばしたりする。「完全に治ったみたいだな。さすが点点。もう大丈夫そうだ」

 絆は起き上がって、スーツに付いた土埃(つちぼこり)を払った。

 元気になった絆とは対照的に、内野すももは脱力して地面にぺたりと腰を下ろす。

 緊張の糸が切れたらしい。

「どうなってるの?もうあたしには何が何だか……」


「えっと……立てますか内野さん?」

 絆は気を遣って手を差し伸べたのだが、不機嫌な彼女はバチンと手をはじいた。

「その変な敬語は止(や)めて!」

「でも……自分は一応、内野さんのマネージャーですから……」

「いいから。あたし達、同い年なんでしょう。あなたが言っていることが本当なら」

 彼女の言い方には棘があった。


 絆がまだ隠し事をしている、とでも言いたいのだろうか。

「分かった。敬語は止めにしよう。同い年というのは本当だから。嘘じゃない。それで、何て呼べばいいかな?」

「すももでいいよ。ファンの人やメンバーからは『すも子(こ)』って呼ばれることが多いけど」

「すも子?恥ずかしいし、すももでいいかな?確か石川(いしかわ)さんも、そう呼んでたし……」

「それじゃあ、あたしも名前で。呼び捨てもなんだし、絆君で」


 すももは絆の手を取って、起き上がった。

 さっきまで不機嫌そうだったのが嘘だったみたいに。

 軽快な仕草で、お尻の埃を払って、いいでしょと絆に詰め寄ってくる。

「いや、職場では名字で呼んでくれないか?妙な勘違いされても困るし……」

「だ~め。変な勘違いって何?アイドルとマネージャーが仲良くしたらいけないの?大丈夫だよ別に」

「はあ」と絆は曖昧(あいまい)に頷く。

「それじゃあ、よろしくね絆君。それに点点も」


 すももは絆ににっこりとほほ笑み、狐のぬいぐるみを抱き寄せた。

 点点は子犬のようにしっぽを揺らしている。

 夜の街灯で照らされた彼女達は、神々しくさえ思えた。

 巫女服を着ていないのに、巫女と神の使いからは、後光が差しているようにも見える。


(これが新しい天巫女か……)


 前任の巫女は、絆が忍者塾を卒業する同時期に退任した。

 彼女とすももは何となく似た雰囲気を感じる。

 前任の巫女に仕えた点点も、同じことを思っているに違いない。

 だから彼はこれほど嬉しそうなのだ。

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