第十五話 握手ですか?
駐車場に現れたのは三人組の男だった。
若干、強面の男達はわずかに停められた車ではなく、すもも達の方に真っすぐに向かってくる。
すももは思わず後ずさったが、スキンヘッドの男は、にっこりとほほ笑んで肩をすくめてみせた。
「こりゃあ驚いた。ヘルシングの内野すももじゃないか?俺、ファンなんだよ」
「俺もっす山岡さん」
スキンヘッドの男に続いて、両脇の男達も口々に騒ぎ出す。
スキンヘッドは仲間から山岡と呼ばれていた。
繁華街にある駐車場だというのに、辺りはやけに静かだった。
それだけに、男達の声がよく響く。
すももがガラの悪い男達に唖然としていると、スキンヘッドの男・山岡は構うことなく右手を差し出してくる。
「握手してもらってもいいかな?」
拍子抜けしたように、すももはほっと息をついた。
ファンの人だったらしい。
つい見た目で悪い人だと勘違いしてしまったが、自分の握手で喜んでくれるなら、いくらでもしよう。
そう思った矢先、有島が差し出したすももの右手を遮った。
「待って。内野さん、その男は危険だ」
有島は山岡とすももの間に割って入るように立ち塞がった。
いつの間にか、有島は両手に革の手袋を付けていた。
まるで、これから始まる戦いを予見していたかのように。
「何だあんた?」と山岡が悪態をつく。「俺は内野すももに握手してもらいたいだけだぜ」
「俺は内野すもものマネージャーだ。悪いけど、お引き取り願おうか?」
有島は語気を強めるが、山岡はなかなか諦めない。
「何だよいいだろ?ちょっとくらい」
「そうだ!そうだ!」
後ろに控えていた取り巻き達も騒ぎ出す。
「ち、ちょっと有島さん!」
すももはあまり騒ぎを起こしたくはなかった。
近くにはダンススタジオもあり、メンバーに迷惑がかかる恐れがあるからだ。
「頼むぜ。今度の総選挙は、すももちゃんに入れるからさ」
スキンヘッドの男はねっとりとした笑みを浮かべる。
すももはその時、男の口元から二本の牙が伸びているのに気付いた。
吸血鬼のコスプレでもしているみたいに。
牙は山岡という男だけでなく、後ろの二人組にもあった。
男達は有島に負けじと色白で、本当に吸血鬼なのではないかと思えた。
有島は下がっててと、すももを押しのけて前に出ると、今度は山岡達に言った。
「悪いけど、ヴァンパイアのファンはお断りだ。気付かないとでも思ったのか?牙、見えてるぞ」
有島が自分の口元を指差した。
忍者にヴァンパイア。
一体どうなっているの。
すももは次から次に起こる異変に頭が混乱し始めた。
自分は夢を見ているのかもしれない。
天照と出会ってからの一連の出来事は、全て夢なのかも。
すももはそう考えて、自分を納得させようとしたが、点点の呼び声にハッとする。
「すもも!何をぼーっとしておる。下がれ!」
「う、うん」
すももは咄嗟に有島のそばから離れる。
男達は喋るぬいぐるみに驚いたように視線を向ける。
「なるほど。神の使いか。……ということはお前は義賀の忍びだな」
山岡に指摘され、有島は頷く。
「ああ。逃げるなら俺はいちいち追わないぞ。掛かってくるなら全力で相手をするがな」
絆はスーツの内ポケットから小型の刃物を取り出し、両手に構えた。
苦無というやつだろうか。
忍者が使ったという武器だ。
もちろん、すももはアニメや時代劇でしか見たことがない。
スーツ姿の有島はとても忍者には見えなかったが、やはり本物の忍者なのかもしれない。




