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ダンシング・ヘルシング  作者: 逸見 秋仁
第一章 忍者とアイドル
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第十一話 気になる新人

 すももは持参した衣装の中から、秋場(あきば)やカメラマンさんと相談した上で、撮影用の服を選んだ。

 メイクや着替えを済ませて、いざ撮影スタートだ。


 一年を通して、さまざまな場面で使用される宣材写真は、季節感のない衣装の方がいい。

 清純派のグループに所属しているため、衣装は露出が少なく、清潔感のあるものを選んだ。

 というわけで、すももが着用しているのは、淡いピンク色の花柄のワンピース。

 ロング丈のスカートで、足首が僅かに見える程度に露出は抑えている。


「すももちゃん、視線はカメラから少しそらして」

 カメラマンの指示が飛ぶ。

 言われた通りにすると、いいねとカメラマンさんは大げさに褒めてくれた。

 次々にポージングを決めて、撮影は順調に進んでいく。


 デビュー時は苦手意識のあった撮影も、今では周りの人を観察するくらい余裕がある。

 この場にいたのはカメラマンさんのほかに、秋場社長とマネージャーの有島(ありしま)、それにスタジオのスタッフが複数出入りしている。

 すももは有島の何気ない行動が気に掛かった。

 それに、彼が「点点(てんてん)」と呟いたことも頭から離れなかった。


「すもも、集中!」

 集中力が途切れてしまい、秋場に怒られてしまった。

 慌ててカメラに意識を向ける。


 撮影を終え、すももは更衣室で衣装から私服に着替えを済ます。

 彼女の鞄からは狐のぬいぐるみが顔を出していた。

 あなたの名前は点点というの?

 誰もいない更衣室で、すももはぬいぐるみに語り掛ける。

 やはり、何も反応を示さない。


 すももは諦めると、衣装とぬいぐるみをバッグにしまい、廊下に出た。

 角を曲がったところで、有島は手持ちぶさたにしていた。

 一方、秋場の方は電話を掛けている。

 社長は多忙な人だから、本来はすももの仕事現場まで足を運ぶことは少ない。

 新人の有島のために一緒に同行しただけだ。

 

 通話を終えると、秋場は二人に声を掛ける。

「悪いが、私はもう行かなくてはならん。車は私が使ってもいいかな?」

「大丈夫です」とすももは言った。「次の現場には電車で向かいますから」

「そうですね」と有島も頷く。「鍵はお返しします」


「ああ」秋場は社用車の鍵を受け取った。「すまない。それじゃあ、後は二人に任せた。有島君は、今日は一日すももに付いて行くように」

「はい」と素直に応じる有島。

「それじゃあ」と秋場は足早にスタジオの玄関に向かった。

「今日はありがとうございました~」とすももは手を振って忙しい社長を見送る。


 有島には訊いてみたいことがあったが、いざ二人きりになると、すももはなんて言ったらいいか分からなかった。

 意外にも、この気まずい沈黙を破ったのは、有島の方だった。

「次の現場って何をするんですか?」

「えっと……次はダンスのレッスンがあるんです。メンバーも紹介できるかな?」

「ヘルシングって……メンバーがたくさんいるんですよね?」

 有島の言う通り、ヘルシングはかなりの大所帯で、グループ全体で四十人以上はいる。

「そうですね。でも、今日は自主参加のレッスンだから、そんなにたくさんはいないかな?あっ……でも、さっき話した佳叶(けいと)は来ると思います。今日の衣装のお礼も言わなきゃ」


 宣材写真の衣装を選んでくれたのは佳叶だ。

 すももの同期であり、親友だった。

 有島にも親友と言える人がいるのだろうか。

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