ギルドの宿
こんにちは。
星谷瀬奈です。
今回もお楽しみください。
「魔法研究班…ですか?」
キョトンとして聞き返す。
「ええ。魔法を研究する機関、ってところかな。そこに行ったら、アリアちゃんの魔法について何かわかるかもしれないよ」
「じゃあ、明日一緒に行ってみる?アリアちゃん」
アリエスに顔を覗き込まれて、びくっとしてわずかに身を引くアリア。
「アリエスちゃんがいいなら…」
俯きがちにそう告げる。
「よし、決まりだね!」
「ったく…アリエスは…」
呆れたように頭をガシガシと掻くレオ。
コウはもう慣れたと言わんばかりにスケジュールを確認している。
ミラも、慣れているのか「じゃあアポ取っとくわね」と紙に走り書きをする。
(みなさん…慣れてる…)
呆然としながらアリアはアリエスの方をチラリと見やる。
そのとき、ミラが何かのメモを男性に手渡してこちらに向き直った。
「…そうだ。せっかくだし、しばらくここに泊まったら?」
女神さまかと疑うようなミラの突然の一言に目を溢れんばかりに見開くアリア。
「い、いやっ、悪いですよ…!」
わたわたと手を振って断ろうとするアリア。
ミラはそんな様子を見てふふっ、と微笑んだ。
「明日もう一回詳しい話がしたいし、あなた泊まる場所ないでしょう?」
その言葉に、ぐっと言葉に詰まる。
確かに、泊まる場所のツテはない。
「それに、もう陽も沈んでるし」
トドメの言葉に、アリアはがっくしと頭を垂れる。
「じゃあ…申し訳ないですけど、泊まらせていただきます…」
アリアは申し訳なさで恐縮しつつも、内心嬉しい気持ちでいっぱいだった。
(これで野垂れ死ぬ可能性がグンと減った…!)
他の誰かに聞かれたら「そこかいな」とツッコミが飛んできそうなことを考えながら、アリアはカバンを持って宿の部屋の鍵を受け取って3階へと向かっていた。
「やっぱミラちゃん優しいな〜」
とほっこりしたような表情で言うアリエス。
実はアリエスの部屋とアリアの部屋はお隣同士。
慣れない場所で不安だろうというミラの配慮によってアリエスの部屋と隣にしてくれたのだ。
レオとコウは、2階にある男性専用の宿に泊まっているそう。
ロウは魔獣なので2階の宿には行かず、狼の姿に戻ってアリアの肩にちょこんと乗っかっている。
「ここか〜。305号室」
「私は304号室だから、何かあったら言ってね!」
アリエスは無邪気な笑顔を見せると部屋の鍵を開けて入っていく。
その背中に手を振ってからアリアは鍵をポケットから取り出した。
『アリア、早く入ろ?』
動物姿のロウが待ちきれない様子でアリアに訴えかける。
アリアはその可愛らしい姿にクスリと笑ってから鍵を開けた。
「おお〜っ…!」
アリアは目を輝かせた。
ふかふかのベッドはもちろん、トイレやお風呂まで完備しているのだ。
窓からは綺麗な夜景が見える。
今まで離れで石のベッドで寝ていたアリアにとっては充分過ぎるほどの贅沢だった。
アリアは早速ベッドに飛び込んでゴロゴロと喜びを体現し始めた。
ゴロゴロ、ゴロゴロ。
アリアが幸せの絶頂にあったそのとき。
ーーコンコンッ。
控えめなノックが聞こえた。
「ぴゃっ!?」
アリアは驚いてベッドから転げ落ちる。
入ってきてまず、アリエスは不審そうな目で部屋の中を見まわし、床で潰れた蛙のようになっているアリアを見つけて「…なんか、ひよこがずっこけたような声が聞こえたけど…?」と言った。
「ソ、ソウナンダア…」
羞恥で顔をりんご色に染めながらカタコトで誤魔化すアリア。
ベッドの上の狼、ロウはやれやれとばかりに頭を振っている。
アリエスは不審そうな目をしたものの、それ以上追求することはしなかった。
「ねえ…にしても不用心すぎるよ、アリアちゃん」
アリエスが呆れたような声を上げる。
アリエスの視線の先には、先ほど彼女が入ってきた扉が。
「ちゃんと鍵かけなよ〜」
その言葉にハッとするアリア。
先ほどまで舞い上がっていたので、すっかり鍵のことを忘れていたのだ。
「ギルドは安全にしても、鍵をかけるに越したことはないよ」
そのアドバイスに、コクコクと頷く。
「それにしても、アリエスちゃんはどうしてこの部屋に?」
「ああ、そうそう。本題を忘れるところだった」
不思議に思いそう問うと、アリエスはぽんと手を打って「今思い出した!」という表情をした。
「一緒に食堂で晩ご飯食べようと思って」
その言葉に目を輝かせるアリア。
(ここには食堂もあるっていうの…!?)
嬉しい感情が表情に出ていたのか、アリエスは微笑ましそうにこちらを見ている。
慌ててアリアがほっぺをつまんで、むにむにと表情筋を戻そうとしたらアリエスが吹き出した。
そのまま口元に手を添えて俯きぷるぷると震えている。
「アリエスちゃん?」
キョトリとしつつアリエスの様子を伺おうとすると、アリエスはガバリと顔を上げて言った。
「…と、そうそう!アリアちゃん、この部屋に着替えがあるからそれに着替えなよ!」
普段より一オクターブほど高い声で誤魔化している。
だがアリアは全く気づかない。
「え、着替えていいの…!?」
おおよそ貴族の令嬢とは思えない反応に、アリエスは目を瞬かせたのち何かを堪えるようにぱっと笑顔を作った。
「もっちろん!私は2階の食堂で待ってるからさ、ゆっくり着替えてね〜!」
風のような身のこなしで部屋の外に出ると、アリエスはひらひらと手を振ってから去っていった。
アリアは部屋の机の上に着替えが置いてあるのを見つけ、今まで着ていたボロボロの服から新品の綺麗な服に着替え始める。
もちろん、ロウに「見ないでね」とキッチリと釘を刺してから。
着替えは、ステラログの紋章が胸の辺りに入ったゆったりとしたワンピース。
肌触りがいいので、かなり値の張る代物なのだろう。
「こんないいもの、着ちゃっていいのかなぁ…」
思わずぽつりと呟くと、ロウが「いいに決まってるじゃん!」とくぐもった声で言う。
ロウに視線を向けると、なんと枕に顔を埋めて私が見えないようにしていた。
思わず苦笑いしつつ、「もう大丈夫だよ」と言うとロウがバッ!と素早く振り返る。
「似合っ…」
「似合ってるよ!!!」
アリアが言いかけたときにロウが言葉に被せて大絶賛する。
「ありがとう」とアリアは嬉しそうにお礼を言ってから、ロウを肩に乗せて二階へと向かうのだった。
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それではまた。




