追放
こんにちは。
星谷瀬奈です。
今回もお楽しみください。
「…輸送役って、こういうことだったんだ…」
雪が降りしきるなか、馬車に揺られていたアリアはぽつりと呟いた。
あのあと、アリアは僅かしかない荷物をカバンに詰めて屋敷をすぐにあとにした。
「監視役兼輸送役」のギルバートは馬車の御者席に座り、相変わらずの無表情で馬を操っている。
つまり、アリアの監視をしながら御者の役割までこなしているのだ。
『あーもう!アリアを追放するなんてさ!あんな家、滅んじゃえばいいんだ!!』
尻尾をバシバシと馬車のソファに叩きつけながらぶすくれるのは、ロウ。
彼はアリアが追放されると聞き、こっそりカバンの中に入ってついてきたのだ。
「あいつらに、毎朝部屋を出たときに3回すっ転ぶ呪いをかけてやる!!」
瞳の奥で怒りの炎をメラメラと燃やすロウを宥めつつ、アリアは心配そうな瞳で聞いた。
「ほんとになんで来たの、ロウ?」
これから向かうアビス・フォレストは国内でも有名な危険地帯。
いくら魔獣といえど危険が多すぎるのだ。
そんな彼女の心配を読み取ったのか、ロウはふふんっと胸を張って自慢げに言った。
『心配しなくても大丈夫だよ。僕もそれなりに強いからさ!』
「え、そうなの?」
目を丸くして聞き返すと、ロウはコクコクと自信ありげに頷いた。
『まーもうこれじゃ動きにくいからなぁ。人型になってもいい?』
首をきょとりと傾げて聞いてくるロウにきゅんとしながらもアリアは「いいよ」と言う。
次の瞬間。
ぽんっ、と煙が登ったかと思うと、そこにはシャツとズボンを着こなした可愛らしい男の子が座っていた。
大きな狼の耳と、くりくりとした瞳が印象的だ。
「えっと…ロウ?」
目の前で起きた衝撃の出来事にぽかんとしながらも聞くと、「うん!」と元気のいい返事が返ってくる。
そのとき、ガタリ、と馬車が止まった。
ロウが隠れる暇もなくーー
「ーーアリアお嬢様。着きましたよ」
その言葉と共に馬車の扉が静かに開く。
ギルバートは、目を疑った。
乗るときは1人だったアリアが、なぜか小さな男の子と一緒にいるのだから。
「…そちらの方は?」
警戒を秘めた口調で静かに問うとロウが馬車から飛び降り「僕、ロウ!アリアの友達さ!」とにっこにこの笑顔で答えた。
その口からはチラリと牙がのぞいている。
ギルバートはすっと目を細めると、静かにアリアに馬車を降りるよう促す。
アリアは頷くと、馬車から降りる。
いつの間にか雪は止み、青空が広がっていた。
「やーっとついたよ!結構遠いんだね。てっきり10分くらいで着くと思ってたのに」
その可愛らしい言葉に、アリアは思わず吹き出し、ロウを撫でながら教えてあげる。
「ロウ、追放するならさ、帰って来れない場所を選ぶでしょ?だから、10分くらいで着く場所には連れて行かないと思うよ?」
「そっかー」と頬をぷっくりと膨らませながら地面の石を蹴るロウに笑みをこぼしながら、固まっているギルバートに視線を移す。
「ギルバートも、ここまで連れてきてくれてありがとう」
ギルバートは一瞬目を見開き、目をスッと逸らしながら「…馬鹿ですか」と言った。
「えっ!?ば、馬鹿?私、馬鹿なの!?」
いつも暴言を吐かないギルバートに暴言を吐かれ、ショックを受けながら声を上げるアリア。
「…言葉のあやです」
対するギルバートは、さらに視線を逸らしながらいつにも増して平坦な声で告げると馬車を指先一つでふわりと浮遊させて御者席に飛び乗った。
「気をつけてね」
アリアがそう言うと、執事はすっと会釈を返して馬車を操り、もと来た方を戻っていく。
馬車が小さくなって見えなくなるまで見送ったあと、ロウを振り返ったアリアは言った。
(これから頑張らなきゃね)
「…じゃあ、行こっか」
「うん、だね!レッツゴー!」
ロウは片手を突き上げると、牙をチラリと覗かせながら不敵な笑みを浮かべた。
「隣国に行くんでしょ?僕もお供するよ。あっちにツテがあるし」
「助かるよ、ロウ。じゃあ案内してもらえる?」
アリアが頼むと、嬉しそうに尻尾をパタパタと振りながら快く承諾してくれた。
先をスキップしてノリノリで歩くロウを見ていると、アリアも自然に笑みが溢れる。
目の前に希望なんてないはずなのにーー希望が目の前にあるように感じられるのだ。
(見ててね、お母さん…ちゃんと幸せになるからね)
アリアは決意の宿った瞳で青空を見上げ、ふっと笑みを浮かべた。
そして、ロウに遅れを取らぬよう小走りで追いかけるのだった。
1人と1匹は、家を追放された。
だが、希望の火は消えないまま、さらに強く燃え上がった。
これから起きることを予知するかのように。
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それではまた。




