突然の宣告
こんにちは。
星谷瀬奈です。
今回もお楽しみください。
「遅すぎるじゃないの」
失礼します、と部屋に入るなりソファに腰を下ろした義母のヴァネッサにそう咎められ、アリアの体はびくりと硬直した。
咄嗟に「申し訳ございません」と小さく告げると、ヴァネッサは憎々しげに目を細める。
アリアは夫ガレムとの間に生まれた望まない子。
それが、ヴァネッサのアリアに対する感情だった。
「相変わらず不気味な髪と瞳の色ですこと。気味が悪いわ」
その言葉に、アリアは俯き唇を噛む。
アリアの髪は銀で、瞳の色は翡翠を思わせるような色。
だが、ルナーリア家の血筋のものは全員燻んだ金色の髪に虹色の瞳を持って生まれる。
つまり、アリアはルナーリアの血を全く引いていないのだ。
彼女が「呪いの子」と呼ばれている理由の一つには、それがあった。
「お母様、そんなに言わないであげて。ただお姉様は愚図なだけなんだもの」
そう言いながら義母の隣に腰を下ろしたミシェルが上目遣いでヴァネッサを見上げる。
ヴァネッサは先ほどまでの憎々しげな目を引っ込め、「あら、そうなのね」と愛おしそうな目でミシェルを撫でた。
ミシェルの棘の潜んだ言葉に触れないようにしつつ、自分に対するものとは180度違う態度に、アリアは心の中で静かにため息をつく。
(早く終わらせて戻りたい…)
ここで延々と馬鹿にされるくらいなら離れに戻ったほうが断然マシだ、と考えたアリアはソファに腰を下ろす父、ガレムに話を切り出した。
「それで、ご用件はなんでしょうか」
そう尋ねると、ガレムはああ、そのことなんだがなと書類を取り出しながら言った。
「アリア、お前を追放することにした」
「追放…?」
突然の宣告に、アリアは聞き返した。
何か重い話ではあるのだろうと思っていたが、まさかそんな話だったとは。
その通り、とばかりに胸を張る父に慌てて理由を問う。
すると、ガレムは憎々しげにこちらを睨みながら「お前が持っている魔法がゴミだからだ」と吐き捨てるように言った。
ああと少し納得するアリア。
父親の言葉に便乗するようにミシェルも興奮して言葉を重ねた。
「そうでしたわ!お姉さまは魔力が多いだけ!使える魔法は『複製』と『強化』なんていう、訳もわからないゴミ魔法ですものね!」
「『複製』は物しか複製出来ないし…そのうえ『強化』なんて何に使っても強化されないのよ!ミシェルの言う通り、ゴミ魔法でしかないわ!」
ヴァネッサもここぞとばかりに甲高い声をあげて叫ぶ。
そう。
アリアの『複製』は物しか複製できないのだ。
しかも、生き物や魔道具は複製できない。
そして『強化』は性能以前に物や魔道具に対してそもそもで発動ができない。
それが、アリアが「出来損ないの魔法使い」と呼ばれる原因であった。
「わたくしなんて、この間『治癒』が発現しましたのよ。愚図なお姉さまとは雲泥の差ですわね!」
そう自慢げに言いながらミシェルはオーッホッホ、と普段より1オクターブ高い声で嘲笑を響かせた。
確かに『治癒』は珍しい方に入る魔法だ。
怪我や病を癒すことができ、闇を祓うことができるという。
そんなとんでもない魔法が発現したのだ、ミシェルが上機嫌なのも無理はないだろう。
「ミシェルに珍しい魔法が発現したのだ、お前がここにいる必要はもはやない。そもそもでなんでお前なんぞに金を使わねばならないのだ。さっさといなくなって、我が家の利益となれ」
(…やっぱり、お金か)
要するに、金。
やっぱり、金だった。
アリアには、一応死亡保険のようなものがかけられている。
それも、莫大な金額の。
つまり、アリアが行方不明又は死亡した場合、ルナーリア家には莫大な金が入るのだ。
考えが見え見えの下卑た笑みを浮かべる父に呆れつつも、アリアは体を震わせる。
フンッと鼻を鳴らすガレムは、アリアが震えているのに気づき、馬鹿にするような笑みを浮かべた。
「なんだ、怖いのか?」
「…いえ、滅相もございません」
そう返すアリアは口角が上がらないようにおさえるので必死だった。
(ようっっやく…!この地獄から抜け出せる…!!)
アリアの震えは、嬉しさによるもの。
断じて、恐怖ではない。
内心でガッツポーズを決めるアリア。
まさに晴天の霹靂の出来事に、アリアは感極まり体を震わせ続ける。
それをミシェルは恐怖だと感じ取ったのか、さらに上機嫌で父に擦り寄る。
「ねえお父さま、お姉さまの追放先はどこなの!?教えてくださいまし」
「実はな、離れたところにあるアビス・フォレストに追放しようと思っているんだ。そこから1人で生きてもらう」
「まあ!あの魔物がたくさん生息している森でしょう!?お姉さまの鈍臭さを治すのにぴったりじゃない!」
なぜかキャッキャと盛り上がる親子をよそに、アリアの頭は高速回転を始めていた。
(確か、アビス・フォレストなら隣国が近いなぁ…隣国にでも行こうかな)
根が楽観的なアリアは、「魔物が出る」と知っても「なんとかなるだろう」と考えた。
うんそれがいい、と思い俯いていた顔を上げるとアリアはなるべく怯えた風を装う。
怯えていないとわかれば、追放を延期されてしまうかもしれない。
早くこの屋敷から抜け出したいアリアは、それだけは避けたかった。
「わかり、ました…」
「うむ。途中で逃げられんよう、監視役をつけるからな」
「監視役…?」
監視役、という聞き慣れない単語が耳に入って来て思わず目を瞬かせるアリア。
「そうだ。…入ってこい、ギルバート」
「失礼します」と言葉が落ちたあと、カチャリと扉が開き長身痩躯の男性が入って来た。
アーサー・ギルバート。
彼はこの家の筆頭執事で、黒髪と赤い瞳が特徴の男性だ。
そして、父と契約している悪魔でもある。
アリアも何回か話したことはあるが素っ気ない対応が多かった。
いつも無表情で、何を考えているかわからないけど優しい人。
それが、アリアのギルバートへの印象だった。
「私が、アリアお嬢様の監視役兼輸送役を努めさせて頂きます」
ギルバートの輸送役、という言葉にアリアはきょとんとして固まるのだった。
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それではまた。




