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これまでの日常

こんにちは。

星谷瀬奈です。

今回もお楽しみください。

雪がぱらぱらとまばらに降り始めたある日。


イヤスピス王国の一角にあるルナーリア家の邸宅の裏に広がる庭園にて。


「ふあぁ…」



庭での昼寝から目覚めたアリアは、あくびをしながら眠たげに目を擦る。

おおよそ伯爵令嬢の行動とは思えないが、これには訳がある。



「うーん…寒いなぁ。離れも悪くないけど、ちゃんとした部屋に住みたいなぁ…」



「出来損ないの魔法使い」「呪いの子」と貴族たちの間で囁かれる少女。

それこそが、アリア・ルナーリアだった。



アリアは伯爵令嬢でありながら屋敷の離れに軟禁されている身だ。



ベッドは石でできていてシーツもないうえ、食事は二日に一度出るかどうか。

湯浴みはおろか、着替えさえもまともにできない環境で育ったアリアの容姿は文字通り「醜い」の一言だった。



銀色の髪はボサボサで色も燻(くす)んでいて、肌は至る所に切り傷や擦り傷、汚れが窺えた。

体躯はかなり痩せていて、不健康さが目立っている。

翡翠色の瞳の下にも濃いクマが浮かび上がっており、普段の睡眠時間の短さを想像させるものだった。

服も、煤けているうえにところどころ破れている。



今日は食事出るかなあ、と伯爵令嬢とは到底思えない心配をするアリア。

そんな彼女に飛びついたものがいた。



『アリアーーーっ!』



可愛らしい声を上げながらアリアの顔面に貼り付いたのは、手のひらサイズの魔獣、ロウ。

一応狼の魔獣らしいが、小さな尻尾をぶんぶんと振る様子は犬に見えてしまう。

ロウが不貞腐れるから口にすることはないが。



「ちょ、ちょっと…顔に貼り付かないでくれる…!?前が見えないから…!」



そう言いながら顔から狼をベリベリとはがすアリアだが、口調ほど怒ってはいない。

むしろ、少し嬉しそうに頬を緩めている。



離れにいて人との関わりがほとんどないアリアにとってロウは大切な友達であり、話し相手なのだ。

それに、時々どこで見つけたのかパンや野菜を持って来てくれる。

その食料がアリアの命をここまで繋げたと言っても良いほどである。



『いいじゃーん…』



落ち込んだように尻尾をしゅんと下げるロウに、アリアは笑みを溢した。

しょんぼり、という言葉がぴったりな様子である。



「もう。しょうがないわね」



ふふっと笑うと、アリアは指の腹で小さな狼の腹を撫でてやる。

狼は幸せそうに腹を見せてゴロリとアリアの膝の上に寝そべった。

もっと、もっと、と潤んだ瞳で訴えかけてくる。



もう少し撫でようとアリアが手を伸ばしたとき、ガサリ、と離れの方から音が聞こえた。

慌てて狼に帰るように促すと、ロウは『ちぇー』と不満そうにしながら草むらの奥に消えていく。

魔獣である彼が他の人間に見つかると、何をされるかわからない。特に、ルナーリア家の人間は。



ロウと入れ替わりに、人形かと見紛うほどの美少女が姿を現した。

そして、アリアを見て口の端をにいっと持ち上げる。



「何をしていたんですの、お・ね・え・さ・ま?」



このくすんだ金の髪と虹の瞳の少女こそ、ミシェル・ルナーリア。

アリアの妹だ。



と言っても、アリアとミシェルの間に血の繋がりはない。

16年前、現ルナーリア家当主の父、ガレムと一介の使用人、エメラの間にできた子供がアリアなのだ。

つまり、不貞だ。

その当時は父の妻も子供がいなかったため許容していたが。



その数年後、父と妻の間に子供ができる。

それがミシェルである。



ミシェルが生まれた途端、アリアと母親のエメラに対する扱いが一変。

アリアとエメラは、屋敷の離れに軟禁されることとなる。



「アンタのクソみたいな母親、ホントに死んでよかったわ。清々する」



ミシェルの見下すような言葉通り、エメラは数年前に死去しており、そのあとから余計にアリアへの当たりが強くなった。

殴られることは普通で、引き摺り回されることだってざらにあった。

だがアリアは強い精神力と体力でそれを耐え抜いてきたのだ。



「……」



黙りこくっているアリアが気に食わなかったのか、ミシェルはヒールを履いた脚で彼女を足蹴にした。

痛みに歯を食いしばって耐える。



「あぁ〜ら、失礼、足が滑ってしまいましたわ」



口元を歪め、意地悪な笑みを浮かべるミシェル。



(ここで泣いたりしたら、ミシェルが喜ぶだけだもんね…耐えないと)



そう考えていたら、追撃の蹴りが腹に入った。



「あぁ〜ら、失礼、またまた滑ってしまいましたわ」



思わず小さくうめき声を漏らしてしまう。

ヒールの先は尖っているため、普通の靴で蹴られるより数倍は痛いのだ。

それをわかってやっているミシェルに呆れすら湧いてくる。



下腹部の鈍い痛みに耐えながら、「いつものこと」と自分に言い聞かせるとアリアはふらりと立ち上がり、口を開いた。



「用件は、なんでしょうか」



そう問うと、ミシェルは思ったような反応が得られなかったせいかぴきりと表情を固まらせた。

そしてヒールで思い切り足を踏みつけてくる。



一瞬痛みに顔を歪めるとミシェルは満足げに一瞥し、すぐに虫けらでも見るかのような目に戻ると、吐き捨てるように言った。



「お父様がお呼びですわ。さっさと本邸に行ってくださいまし、愚図なお姉様」

(お父様が…?)


普段はほとんど自分を呼ばない父親が自分を呼んでいると知って、アリアはキリキリとした嫌な予感を覚えた。

ブクマなど押していただけたら嬉しいです。

それではまた。

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