表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/16

第8話:ブラックケンネル・ガレージ

ヴェラを加えた三人は、霧の中を進んだ。


レイヤー000は迷宮ではなかった。もっと悪い。ここは、誰かが忘れた場所の寄せ集めだった。昨日まで存在した路地、十年前に閉鎖された駅、百年前の病室、そしてまだ建てられていないはずの塔。そのすべてが、壊れた記憶のように繋がっている。


「ここは墓場だな」


セキが呟く。


ヴェラは首を横に振った。


「墓場なら、名が刻まれる。ここは廃棄場だ」


その言葉に、セキは何も言えなかった。


やがて彼らは、一つの古いシャッターの前に辿り着いた。黒い犬の頭を模した看板が、半分だけ傾いている。ネオンは死んでいたが、近づくと微かに青く瞬いた。


《施設登録:ブラックケンネル・ガレージ》


《所有者未設定》


《アーカイブキーを確認》


ブンがセキの肩で跳ねた。


「提案。所有者登録を行います」


「俺でいいのか?」


「他に候補者はいません。競争率ゼロです」


セキは苦笑した。


シャッターに手を置く。黒い鈴が光り、重い扉がゆっくりと上がった。


中は暗かった。


壊れた車両、古い工具台、止まった自販機、埃をかぶったソファ。天井から吊るされたランプが一つだけ揺れ、やがて弱々しく灯る。


そこは立派な基地ではなかった。


豪華な拠点でもなかった。


けれど、壁があった。屋根があった。座れる場所があった。誰かに追い出されず、息をしてもいい場所があった。


セキは入口で立ち止まった。


胸が痛んだ。


なぜか、泣きそうになった。


ブンが静かに言う。


「所有者、セキ。登録完了」


ヴェラはガレージの中央に立ち、周囲を見回した。


「ここから始めるのか」


セキは頷いた。


「ここから始める」


彼は埃まみれのソファに腰を下ろした。体中が痛む。心はまだ壊れている。けれど、完全に空っぽではなかった。


ここは、捨てられたものたちの場所だ。


ならば、自分にはふさわしい。


セキは小さく息を吸い、黒い天井を見上げた。


「俺は、ここを家にする」


その言葉に、死んでいたネオンが一瞬だけ強く光った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ