第6話:壊れた兎型ユニット
光が弾けた。
セキの前に落ちてきたのは、剣でも銃でもなかった。伝説の獣人でも、禁断の兵器でもなかった。
小さな、丸い、兎型のロボットだった。
片耳は折れ、外装は焦げ、腹部のパネルは半分開いている。LEDの目は一度だけ点滅し、そのまま沈黙した。
セキはしばらく黙って見つめた。
「……また、ゴミか」
笑う気力もなかった。
だが次の瞬間、黒い鈴が再び鳴った。
《B-00補助ユニットを確認》
《損傷率:87%》
《修復可能》
「修復……?」
セキは痛む腕を押さえながら、兎型ロボットの前に膝をついた。ガレージで何百回もやってきたことだ。壊れたものを開き、線を繋ぎ、動く理由を探す。誰も価値を見ないものに、まだ使える場所を見つける。
彼の手は震えていた。だが動いた。
古い配線を繋ぐ。焦げたコアを外す。ポケットの中から、今日まで捨てられなかった小さな部品を取り出す。曲がったネジ、死んだバッテリー、割れた黒い鈴の欠片。
ゴミだと笑われたものたち。
それらが、今、ひとつの形になっていく。
数分後、兎型ロボットのLEDが淡く青く光った。
「……起動確認」
小さな機械音声が鳴る。
「個体名、B-00。愛称登録なし。周囲状況、最悪。所有者、生存確認」
セキは息を止めた。
B-00は首を傾げる。
「提案。所有者は泣く前に、止血を行うべきです」
「泣いてない」
「否定を確認。涙腺反応、記録しました」
セキは思わず笑った。
それは短く、掠れた笑いだった。けれどレイヤー000に落ちてから初めて、胸の中の冷たい穴に少しだけ空気が入った気がした。
「お前、名前は?」
「B-00です」
「それは型番だろ」
「では、命名を要求します」
セキは少し考えた。
「……ブン」
「登録。愛称、ブン」
兎型ロボット――ブンは、折れた耳をぴこりと動かした。
「ブン確認。セキはまだ死んでいません。これは敵にとって不幸な情報です」
セキは黒い霧の奥を見た。
初めて、完全な孤独ではなくなった気がした。




