第5話:レイヤー000
落下は、永遠に続くように思えた。
痛みは途中で消えた。音も消えた。重力さえ、セキをどちらへ引けばいいのか分からなくなったようだった。
やがて彼は、冷たい床の上で目を覚ました。
バイザーの表示は壊れていた。位置情報なし。通信なし。生命反応スキャン、失敗。周囲は黒い霧に満ち、遠くには壊れた街の影が浮かんでいる。ビルの残骸、駅のホーム、子供用の遊具、誰かの部屋。すべてが混ざり合い、墓場のように静かだった。
《レイヤー000》
バイザーに、ノイズ混じりの文字が出た。
《デッドサーバー》
セキは笑いそうになった。
死んだサーバー。
自分にぴったりだと思った。
立ち上がろうとして、膝が崩れた。腕の傷から冷却液が滴る。胸の奥が痛い。体よりも、心の方がひどく壊れていた。
「……俺は、何を信じてたんだろうな」
誰も答えない。
当然だ。
ここには誰もいない。
そう思った瞬間、ポケットの中で黒い鈴が震えた。
ちりん。
セキは震える手で鈴を取り出す。割れた表面に、青い文字が浮かんでいた。
《接続要求を確認》
《ジャンク・ガチャは都市システムから切断されました》
《削除済み獣人記録庫へ接続中》
「何だ……これ……」
声がかすれた。
黒い霧の奥で、何かが呼吸した気がした。
《接続成功》
《ギフト名称を更新》
《ジャンク・ガチャ → ビーストアーカイブ・ガチャ》
セキは目を見開いた。
手のひらに光が集まる。いつもの鈍い光ではない。深い青と黒が混ざり、星の残骸のように揺れている。
《初回ロール:無料》
《この街に消されたものを、呼び戻しますか?》
セキは長く息を吐いた。
頭の中に、カエルの声が蘇る。
――君は失っても困らない。
ミラの涙が蘇る。
――ごめんね、セキ。
セキは拳を握った。怒りではなかった。まだ怒りになるほど、心は熱くなれなかった。ただ、深く、冷たく、静かな穴が胸に開いていた。
それでも、その穴の底で一つだけ燃えているものがあった。
消えたくない。
忘れられたくない。
「……ロールする」
セキは言った。
その声は小さかった。
だがレイヤー000全体が、彼の声を聞いたように震えた。




