第15話:ヴォイド漏洩
セレスティアの映像が消えた瞬間、倉庫の床が鳴いた。
金属が軋む。壁の白い塗装に黒い亀裂が走る。保管されていたヴォイドコアが一斉に震え、空気が重く沈んだ。
「ヴォイド漏洩発生。空間歪曲、拡大中!」
ブンが叫ぶ。
倉庫中央に黒い穴が開いた。そこから、骨のような脚を持つ影が這い出てくる。獣の形をしているが、顔がない。頭部には割れた画面のようなものが埋め込まれ、同じノイズを繰り返していた。
警備員たちが逃げ出す。シルバーファングは崩れた。ほんの数分前まで英雄のように立っていた者たちが、今は自分の身だけを守ろうとしている。
カエルはセキを睨んだ。
「これは君のせいだ」
「違う。お前たちが開けた穴だ」
影の獣が走る。警備員の一人が転び、足を挟まれた。周囲の職員は誰も助けない。ただ逃げる。
セキは一瞬だけ迷った。
あれは敵ではない。だがセイントアントラーの人間だ。見捨ててもいい。そう思う自分がいた。けれど、体が先に動いた。
青い鎖が伸び、倒れた職員の体に巻きつく。セキは強く引き、彼を亀裂から引き離した。
「走れ!」
職員は震えながら逃げていく。
ヴェラがセキの横に立つ。
「甘いですね」
「分かってる」
「ですが、嫌いではありません」
ヴェラの刀が光り、影の獣を斬り払う。
「出口確保。南側搬入口、三十秒後に閉鎖されます」
ブンが叫ぶ。
「証拠は?」
「取得済み。ついでに社内機密を少々」
「少々?」
「少々の定義は主観的です」
その時、倉庫の奥で大きな水槽のような装置が割れた。中から液体が溢れ、何か巨大な影が床へ落ちる。
「アーカイブ反応! 生体反応あり!」
割れた水槽の中で、鮫の獣人が鎖に繋がれたまま倒れていた。彼の胸には、セイントアントラーの実験番号が刻まれている。
M-07。
黒い鈴が鳴る。
《削除済み個体を確認》
《マコ・リップタイド》
セキは奥歯を噛んだ。
「ヴェラ、道を開け」
彼は走った。自分と同じように捨てられた者を、今度こそ置いていかないために。




