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第14話:白鹿の声

カエルの剣は速かった。


銀の軌跡が倉庫の光を裂き、セキの首元へ迫る。セキは避けた。紙一重だった。頬の金属皮膚に細い傷が走り、青い光が散る。


「動きは良くなった。だが、君は戦士ではない」


「知ってる」


セキは鎖を投げる。カエルは剣で弾く。だが鎖は途中でほどけ、床の端末へ突き刺さった。


「俺は戦士じゃない。俺は、壊れたものを直す係だ」


端末が起動する。ブンが回線に飛び込み、倉庫中の記録を吸い上げる。依頼ログ。支払い記録。ゲート起動実験。セキ個体。処理済み。


カエルの顔が初めて歪んだ。


「止めろ!」


「遅いです」


ブンが淡々と言った。


その時、倉庫奥の大型スクリーンが突然点灯した。白い背景。金色の企業紋章。そして、長い角を持つ白鹿の女性が映る。上品なドレス、整った微笑み、宝石のように冷たい瞳。


《騒がしい夜ですね》


カエルが息を呑む。


「レディ・セレスティア……」


セイントアントラー社の若き代表、セレスティア・アントラー。画面の中の彼女は、まるで舞踏会の挨拶でもするように微笑んだ。


《黒狐のプロトゲン。生存していたのですね。素晴らしい》


「お前が依頼主か」


《依頼主、という言葉は雑ですね。私は可能性に投資しただけです》


「俺を実験体にした」


《あなたのギフトは、都市システムの外側に接続する可能性があった。通常の倫理基準では扱えません》


あまりにも平然と言われた。セキの中で、怒りがようやく形を持った。


「俺は物じゃない」


《もちろんです。あなたは鍵です》


その瞬間、黒い鈴が激しく震えた。ブンの声が乱れる。


「警告。外部アクセス。ビーストアーカイブへの侵入試行」


セレスティアは微笑む。


《デッドケンネル・ゲートを開いたことで、あなたは戻ってきた。ならば次は、あなたを使ってもっと深い扉を開けます》


「断る」


《選択権があると? アステリア・デンは、あなたを既に死者として処理しました。死者に権利はありません》


セキは一歩前へ出た。


「なら、覚えておけ。死者は、墓から戻ると厄介だぞ」


セレスティアの笑みが、ほんの少しだけ深くなった。


《期待しています、セキ》

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