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第11話:雨の倉庫街

セイントアントラー社の倉庫街は、アステリア・デンの東端にあった。


そこは下層区でありながら、妙に清潔だった。錆びた鉄板の上に白い塗装が重ねられ、監視カメラは花のように壁から生えている。雨に濡れた地面には、鹿の角を模した企業ロゴが何度も反射していた。


セキは屋根の影からそれを見下ろしていた。黒いフードを深く被り、バイザーの光を最低限まで落としている。肩の中にはブンが隠れ、折れた耳だけを小さく動かしていた。隣ではヴェラが、雪のように静かな気配で立っている。


「警備ドローン、十二機。巡回獣人、八名。倉庫内部に熱反応、多数」


ブンが小声で報告した。


「シルバーファングは?」


「確認。北側搬入口付近。白狼、黒豹、ハイエナ、兎、熊。全員います」


その言葉を聞いて、セキの胸が一度だけ強く締めつけられた。全員いる。自分を落とした全員が、今この夜の下で、報酬を受け取ろうとしている。


雨音の向こうに、カエルの声が聞こえた。


「今回の損失は残念でした。しかし、彼もダイバーとしての役目を果たしたのです」


柔らかく、丁寧で、薄い声。死んだことにされた自分の名前を、あいつは報酬の飾りに使っている。


「殺すのですか」


ヴェラが問う。


セキは首を横に振った。


「まだ殺さない。証拠を取る。依頼主の顔を見る。あいつらが何を受け取ったのか知る」


「復讐より情報を優先する、と」


「今の俺には、怒りより足りないものが多すぎる」


ブンが胸元から顔を出す。


「ブン補足。衝動的な突撃は成功率18%。計画的な報復は成功率64%」


セキはほんの少しだけ笑った。その笑いは雨に溶けた。


倉庫の大扉が開く。白いスーツを着た鹿型の職員たちが、銀色のケースを運び出す。その前に立つカエルは、まるで英雄のように背筋を伸ばしていた。


セキはフードの奥で目を伏せた。


あの日、自分は手を伸ばした。誰も取らなかった。ならば今夜は、自分から手を伸ばす必要はない。


「行くぞ」


セキは言った。


「俺が死んだ夜の続きを、始める」

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