第10話:最初の依頼
情報屋ラズ・レッドテイルは、赤いジャッカルの獣人だった。
彼はベルベットアレイの裏にある小さな麺屋で、いつも同じ席に座っている。安いスープを飲み、誰にも聞こえない声で高い情報を売る男だ。
「死んだはずの狐が、歩いて入ってくるとはね」
ラズは箸を止めずに言った。
セキは向かいに座る。
「俺を知ってるのか」
「下層で死ぬやつは多い。でも死んだ後に英雄チームの美談に使われるやつは少ない」
ラズは笑った。
「で、何が欲しい?」
「シルバーファングが持ち帰った資源の行き先。依頼主。デッドケンネル・ゲートの情報」
「欲張りだな」
「払う」
セキはテーブルに小さなチップを置いた。レイヤー000で見つけた黒い記録片だ。
ラズの目が変わった。
「おいおい。どこでこんなものを」
「質問は一つずつだ」
セキは静かに言った。
ラズはしばらく彼を見つめ、それから低く笑った。
「いいね。前より目が死んでるのに、前より生きてる」
彼は端末を取り出し、画面を滑らせた。
「シルバーファングが回収した資源は、セイントアントラー社の研究施設へ運ばれた。依頼主の名前は隠されてるが、経由した認証コードはヘリックスポー管理局のものだ」
ヴェラの表情が鋭くなる。
「管理局と企業が繋がっている」
「この街じゃ珍しくない」
ラズは肩をすくめた。
「ただし、デッドケンネル・ゲートは別だ。あれは資源採掘場じゃない。古い封印だ。誰かが、開けたがってる」
セキの胸の黒い鈴が微かに震えた。
ラズは声を落とす。
「今夜、シルバーファングはセイントアントラーの倉庫に呼ばれてる。報酬の受け渡しだろうな」
セキは立ち上がった。
「場所は?」
ラズは紙ナプキンに座標を書き、滑らせた。
「忠告しとく。復讐は高いぞ、狐くん。払うのは金だけじゃない」
セキは紙を受け取った。
「分かってる」
麺屋を出ると、夜の雨がネオンを滲ませていた。ブンがフードの中から顔を出す。
「作戦名を提案します」
「何だ?」
「狐はまだ死んでいない作戦」
セキは少しだけ笑った。
ヴェラが刀に手を置く。
「命令を」
セキは倉庫街の方角を見た。
胸の痛みは消えない。裏切られた記憶も消えない。だが今、その痛みは彼を沈める鎖ではなく、前へ進ませる重さになっていた。
「行こう」
セキは言った。
「まずは、俺の死亡報告を訂正しに行く」
雨の中、黒い狐は歩き出した。
街が消したはずの名前が、もう一度、夜に刻まれようとしていた。




