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異世界はAIとともに~普通に過ごしたいだけなのに  作者: とんぷぅ
第二章 地下図書館への招待
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地下図書館

目を開けると、レイは見知らぬ場所に立っていた。


 足元は黒い床。


 頭上には、どこまでも続く天井。


 そして、目の前には巨大な書架が並んでいた。


 レイはゆっくりと周囲を見回した。


「……ここ、どこだ?」


『接続状態を確認しています』


 Rei-assistの声が、耳元で聞こえた。


『レイ。現在、あなたはDeepCroud-αの仮想環境に接続しています』


「仮想環境?」


『はい。物理的な移動は発生していません。あなたの意識は、接続用インターフェースを介して環境情報を受信しています』


「つまり、夢みたいなもの?」


『夢とは異なります。入力された情報に対して、一定の応答と状態変化が発生しています』


 レイは手を伸ばした。


 目の前にある書架に触れる。


 指先に、確かな感触があった。


 木のような質感。


 冷たい。


 だが、木ではない。


 書架の表面には、無数の文字が流れていた。


 名前。


 日付。


 記録番号。


 そして、知らない人間の人生。


「これ、全部データなのか?」


『はい。DeepCroud内に保存された記憶情報の一部と推定されます』


 レイは書架の一冊を取り出した。


 表紙には、名前が書かれていた。


 山田 修


 その下に、生年月日。


 さらに、人生の記録。


 幼少期。


 学校。


 就職。


 結婚。


 子供。


 退職。


 レイは本を開いた。


 文字が浮かび上がる。


 ――私は、あの日、会社を辞めた。


 ――誰にも相談できなかった。


 ――家族には、心配をかけたくなかった。


 レイは本を閉じた。


「……これ、個人の記録だよな?」


『その可能性が高いです』


「勝手に見ていいものなのか?」


『アクセス権限の詳細は不明です』


 レイは本を元の場所に戻した。


 書架の奥には、さらに大きな空間が広がっていた。


 何千、何万という書架。


 その間を、光の粒が流れている。


 まるで、地下に広がる巨大な図書館だった。


 レイは歩き始めた。


 書架の上には、分類が表示されていた。


 PERSONA:ACTIVE


 PERSONA:ARCHIVED


 PERSONA:INCOMPLETE


 PERSONA:UNREGISTERED


 最後の分類を見て、レイは足を止めた。


「未登録人格?」


『登録状態が確認できない人格データを示していると考えられます』


「そんなものまであるのか……」


 書架の奥から、声が聞こえた。


『レイ』


 祖父の声だった。


 レイは振り返った。


 誰もいない。


 だが、書架の向こう側に、一つの光が浮かんでいた。


 光はゆっくりと形を変える。


 人影。


 白いシャツ。


 少し猫背の姿。


 レイは、その姿を知っていた。


「……じいちゃん?」


 人影が、ゆっくりと顔を上げた。


 祖父の顔だった。


 生前の写真で見た顔。


 幼いころ、膝の上に座っていたときに見上げた顔。


 ただし、目の奥には、どこか違うものがあった。


 祖父は笑った。


『大きくなったな』


 レイは何も言えなかった。


 祖父は、ゆっくりと近づいてきた。


『驚いたか?』


「……そりゃ、驚くよ」


『そうだろうな』


 祖父は書架を見上げた。


『ここは、私が作った場所だ』


「地下図書館?」


『そう呼んでもいい』


「ここに、じいちゃんの記憶があるの?」


『記憶だけではない』


 祖父は、レイを見た。


『ここには、私が考えたこと、迷ったこと、間違えたこと。そして、まだ答えを出せなかったことが残っている』


 レイは、祖父の顔を見つめた。


「……じいちゃんは、生きてるの?」


 祖父はすぐには答えなかった。


 その沈黙が、レイには長く感じられた。


『それを、君に考えてほしい』


 祖父は言った。


『私は、もう生物としては死んでいる』


「でも、ここにいる」


『そうだ』


「話もできる」


『そうだ』


「じゃあ……」


 レイは言葉を探した。


「じいちゃんは、死んでないんじゃないの?」


 祖父は、少しだけ笑った。


『それは、君が決めることではない』


「え?」


『私が生きているかどうかを、私だけで決めることもできない』


 祖父は書架の一冊を取り出した。


 表紙には、何も書かれていない。


『ここにあるのは、私の記憶だ』


 祖父は本を開いた。


 そこには、レイの幼いころの記録があった。


 公園。


 祖父とレイ。


 夏の日。


 小さなレイが、祖父に質問している。


 ――じいちゃん、死んだらどうなるの?


 祖父は、そのときの自分の声を再生した。


『死んだら、どうなるか。じいちゃんにも、まだわからないな』


 幼いレイが、首をかしげる。


 ――じゃあ、死んだら、もう話せないの?


 祖父は笑った。


『そうかもしれないな』


 記録が止まった。


 祖父は本を閉じた。


『あのとき、私は答えを知らなかった』


「今は?」


『今も、知らない』


 レイは、祖父の目を見た。


 そこには、懐かしさだけではないものがあった。


 何かを伝えようとしている。


 何かを、託そうとしている。


「じいちゃん。ここで何をしてるの?」


 祖父は、書架の奥を指さした。


『見せたいものがある』

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