兎に導かれた先は湖でした。
第16回目です!
試験も終わってやっとこさの春休み! 小説制作も頑張ります!
現時刻はAM9:43。辛うじてポケットに入れていた携帯電話でなんとか時刻は把握できた。
そしてもう1つわかっていることがある。
「はぁ。
一体何がしたいんですか、湖まで連れてきて」
「プッ?」
ここが気の溜まった聖地である、ということだ。
「で、わざわざ朝食時にいきなりこんなところまで連れてきて。
いきなり連れてこられた私の身にもなりなさい。携帯電話しか持っていない状況なんですよ?
ここで万が一、野生の猛獣に襲われでもしたら……」
「プップッ~」
「ちょっと! 人の話は最後まで聞きなさいっ!」
白はどこ吹く風で、湖へと近づいていく。
(ッチ! この毛玉。
本気でどこかに捨て置いてヤりましょうか……)
この飄々とした態度が、どこかの上司を思い出させる。
(おっと、いけません。平常心、平常心)
白は湖へ近づき、かと思えば物凄い勢いで気を飲み干していく。
いや、こと、この湖に関しては液体とは言い難い。表現としては吸い込んでいる、の方が正しいのかもしれない。
白はどんどん湖の気を吸い込んでいく。ここから湖まで10メートルほど離れているのだが、吸い込んでいる音がまるですぐ耳元で発しているかのように鮮明に聞こえるほどだ。
どれだけ強靭な肺活量の持ち主なのか。某掃除機メーカーを超える吸引力ではないだろうか。
(引っ張られる際の力も外見には見合わないほど強力でした。
今の白兎の姿が仮初であったとしても、力は健在ということですかね?)
「プ~ッ!」
ぼぅっと思いふけっていると、白の声が聞こえた。
白は、気を吸い終えたのか満足そうな表情をしている。あくまでそう見えるというだけだ。顔は毛に覆われて見えていない。
「どうですか?
わざわざ私を引っ張って来てまで食べたご飯の味は。それはそれは美味しかったことでしょうね? なぜ、カバンにも入っていたというのにここまで来て……。はぁ。
ほら、帰りますよ。私はあなたと違って1口も食べられていないのです。いい加減怒りますよ?」
「ブーー」
「何がぶー、ですか。……いいんですよ? あなたは、そのままそこに居てくださっても。
私は帰りますがね」
踵を返して、拠点へ向かう――
「何のマネですか」
「ヌーー(ブーー)」
――ことはできなかった。
(っ、いけません。本当にまずいことになりそうです)
「い、いいですかぁ……?
今すぐその口に含んでいる裾を離しなさい?
あなたからすると、私は何の変哲もないただの人間に見えるかもしれませんが、堪忍袋が切れたら本当に、本っ当に! 大変な事態になりますからね?
今ならもれなく、空腹分のイライラも付いてきますから。絶対良からぬことになります。絶対です!
わかったら10を数える内に離しなさい。いいですね!? 1、2-ぃっ!?」
予感した。今から最悪な事態が起こることを。
「ヌーーーーッ!(ブーーーーッ!)」
「クソッ! ホントこの毛玉ァッ! 後で覚えてろよォーッ!?」
どうやら、俺の堪忍袋は役目を終えてしまったようだった。
足を大きく素早く振る。そして、ピタッ、と寸止めする。この動きをもし世界的なプロサッカーの監督が見たら、歴史史上最高値の契約金で契約を申し出ることだろう。
大きな白い塊が宙を舞い、上空に勢いよく飛び立った。かと思えば、すかさず上から真下にはたく。
「……ヌッ(ブッ)……! ッ~~!」
「鳴くな、毛玉。それ以上鳴くと、お前が今日の晩飯だからな」
「…………! !?」
(まさか、ここまで人をイラつかせる存在がいるとは思わなかった……、最悪だ……。
この”性格”にならないように気を付けていたってぇのに)
俺は水にしか見えない気体の底にぼやけて見える白色を睨んだ。
(ホント、ここに来てから碌なことがありゃしねぇ)
「おい、毛玉。いい加減この状況を説明しろや。
なんで俺は変な水に腰まで浸からされてんだよ、えぇ? おかげで余計アドレナリン出まくっちまって元の”性格”に戻れねぇじゃねぇかァ!」
「キッ!?」
この湖の水、もとい気は浸かると衣服が洗浄されるだけでなく、肌から気が流れ込み心身共に元気溌剌とさせる効果がある。
しかし、普段であれば直接的に体内に摂取しない限り、元気になった気がするな~程度のものだ。
それがこの”性格”だと、まったく事情が異なってしまう。
(あ~、壊してぇ。何でもいいから殴って、ひねって、潰してぇ。でないと俺らが壊れちまいそうだ)
依然、底にいる白色を踏みつけ凄む。
「おぅおぅ、さっきまでのウゼェ勢いはどうしたよ? マジで食うぞ、ゴラァ!」
「キー―ッ!」
「キーキー鳴けば済むと思ってんのかッ! あぁ”! ……ッチ! マジでありえねぇ。潰してぇ」
(こっち来てからいつかぜってぇなるとは思ってたんだわ、俺も。前から予兆はあった。が、しかしだ。
こんな毛玉魔物野郎に神経逆なでされたごときで、俺になると思うわけねぇだろうがよ……)
イラつきが止まらず、右手で思いっきり整えていた髪を掻き毟った。
「クソッ! あ~、やってらんねぇ~。
おい、毛玉。とりあえずここから出るぞ。話はそれからだ」
「キ、キー?」
「早くしろ。ちぎるぞ」
「キキーーッ!?」
俺は全速力で元いた場所に向かっていった。この場に長時間いるのはそれこそマズイ。殺生を致しかねない。
背後からは白の戸惑い、痛み、不安などがダイレクトに感じられる。感情が肌に刺さる。
(あぁ、壊してやりてぇ)
本当、私たちの中でも俺の”性格”が1番どうかしてやがる。
「……スー……ハー。あー、うう”ん。あー……。よし、8割方戻りましたね」
「キッ……キー……?」
「ふふ。もう大丈夫ですよ。いつもの私に戻りましたから」
「プッ!? プ~~!」
「あ、くっつかないでください。戻ります」
「キッ!?」
白には先ほどの私がトラウマとして記憶に刻まれたらしい。
力は強いが、精神が幼い。私に対する行動が従妹にそっくりだ。
「冗談ですよ。とりあえず、あなたには聞かねばならないことがあります。おわかりですね? もし、無意味な行動をさせていたとしたら。
フフフ、本日の夕食は久々に華やかになりそうですね?」
「キーーッ、キーーッ!」
身体ごと大きく左右に揺れる白。その身体は私の話が進むに連れ、大げさなほど縦にも揺れだしている。
白い毛玉が揺れ動く姿は、何も知らない者が見たなら異様過ぎて気分が悪くなってしまうかもしれない。
(ここまでトラウマを植え付けてしまえば、後はチョロいですね)
まぁ、私からすると間抜けな子兎でしかない。
地の文の勉強したいなぁ、と思う今日このごろ。




