異世界の言語を習得しました。
これ第17回目ですよね……?
書いている作者本人ですら忘れてしまう由々しき事態。
こまめな連載が大切ですね。
「さ、お話しなさい。なぜ、あなたは私をこの湖に引っ張ってきたのですか?」
「ブ~」
「あぁ、そういえばあなたはただの毛玉でしたね。何分意思疎通のできる毛玉など、そもそも毛玉のような白兎すら見たことがないものですから何でもアリだと勘違いしていました」
あれから小1時間ほど兎相手に説教を垂れもはや抵抗する気すら失せてしまったのか、開き直ったように鼻を鳴らす白。それはそれで腹が立たないこともない。
が、その話はもういいのだ。それよりももっと大切な話をしなくては。
「いいですか? 今の私は慣れない環境や親族たちの厚顔無恥な行動によってかつてないほど心がささくれ立っています。それは嵐よりもひどく、ハリケーンと言っても過言ではありません。あなたには何のことかわからないでしょうけど」
そう、私の精神はとてつもなく不安定なのだ。度重なる未知との遭遇により、気を張り続けねばならない。
徐々に蓄積されていくストレスは白と出会ってからというものものすごい勢いでそのペースを上げていった。イライラから舌打ちが増える増える。
これだけならまだ抑えがきいた。細い糸がピンッと張りつめた状態だったのだ。
「あなたが気の溜まり場なぞに強引に引き込むからこうなるのです。私が多重人格者だと知らないで」
幼い頃の記憶が蘇る。
(思い出すだけでも反吐が出ます。あの時は生きることに絶望しか感じていませんでしたから……。同時進行で教育されていた役作りの訓練がなければ廃人と化していたに違いありません。
けれど代わりに厄介な人格を抱えるはめになりました)
私はそれを“性格”と呼んでいる。
(ここの気は日本と比べ物になりません。気分や体調が良くなるだけでなく、力がみなぎり洗浄効果すらある。
そんなところに爆発寸前の本能をギリギリの理性で抑えたところで)
はっきり言って無意味だ。暖簾に腕押しである。
「今後、突発的な行動は起こさないように。もし守れなかった場合は理性が残れば捨てるのみですが、本能が出るとあなたの兎生は終わりを告げることでしょう」
「キッ! キッ! キッー!」
「本当に頼みますよ。他の性格が出てきても厄介ですから。
で、先ほどの話に戻りますけどなぜ私をここへ? 食事の量を見ればいくら再生するペットボトルでもまどろっこしい、というのはわかります。しかし、わざわざ私が湖に引きずり込まれるいわれはないでしょう? 何か理由があるのですか?」
白は待ってました! と言わんばかりに頷く。
おもむろに辺りを見渡したした白はその小さいと予想される口に食める小さな枝、もとい木屑を咥えると驚くことに何か記号を書き始めた。
何かの法則にそって書かれた記号は、不思議なことに意味のある文字の羅列に見えてくる。
30ほど記号を書いた白は木屑を吐き出し、どうだ、とばかりに得意げに鳴いた。
「これは―― 暗号、でしょうか? いえ、もっと規則的な……そう、まるで言語のよう。こちらの言語でしょうか」
記号のほとんどは全く見たことのないものであったが、中には“?”や“Φ”といった地球に存在する記号もあった。
(これを文字と仮定するならば、明らかにこちらの世界にも地球のようなある程度の文明があると言えます。
白が文字を書ける点は木の精霊で賢者と名高いエントが親なわけですから、まぁ納得しておきましょう。事実、私がこちらの世界に来てから日本語しか話していないのに、白は理解している。こちらの住人には未だ接触できていませんが文字が文字だけに言語そのものの発音も違うはず。
これが動物特有のボディーランゲージによる会話、と片付けるのならそれまでですがね)
「白。これはこの世界特有の言語、つまり言葉であり文字でしょうか?」
「プッ!」
「なるほど。ではあなたがこの言語を理解し使用できるのは、あなたの生みの親であるエントの力故でしょうか?」
「プッ? プ~、プッ! プッ! プッ!」
「おや」
白は器用なことに己の身を横に震わせてから縦に震わせた。とても曖昧な動きである。これは合っているが間違ってもいるととらえるべきか。
「エントの力が働いているという点は同意なのですよね。でしたら、エントのみの力ではないということでしょうか?」
「プッ!」
合っていたらしい。
(私、このままこの兎といて良いのでしょうか……? 変に意思疎通できることが当たり前になっていますけど、この世界の住人にとっては奇異な存在に成り下がってしまっているのでは……?)
ただでさえ厄介な身内と、こんな言葉は非常に遺憾だが類は友を呼ぶというか、蛙の子は蛙というか己の中にも厄介ごとが存分に含まれているのだ。
この際、異世界にいることで身内がやらかした恥を忘れられるのだからある意味良かったのだろう。
そして、この場に白い毛玉がいなければさらに良かったのだろう。
(それこそ、類は友を呼ぶですね)
人間、何事も諦めが肝心なのだ。
「あなたがこちらの言語を書けるというのは大変結構なことです。この文字の規則性さえつかめれば解読は容易。そうなれば今とは比べ物にならないほどの情報を得られます。
そうですね……、あなたの両親であるエントとシームルグについての説明を文字で起こしてください」
「プッ!」
白は小枝をもう一度しっかりと食み、記号の羅列を作っていく。
2つの記号の塊ができたので片方がエントで、もう一方がシームルグということだろう。
私は書きあがった記号の羅列の片方を指さしながら、食んでいた小枝を口から落とした白を見る。
「この右にあるのはエントの説明ですか?」
「ブーッ!」
「では、シームルグの説明ということですね。わかりました。ありがとうございます。
ここからは少々時間を要するので、あなたは湖に戻っておやつの時間になさい」
「プップー!」
白は嬉々として湖へ駆けていった。
それを見届けた私はすぐさま思考の海へと身を預ける。
(この記号……どこかで見たことがあると思えば、携帯電話のアプリの文字化けと同じです。あれは日本という異国に対し、この世界には存在しないがための文字化けだと考えていましたがこちらの言語での表記だったのですね。
白が書いたエントとシームルグの詳細。これがもし、MTアプリの詳細説明と同じであれば)
解読可能だ。
久しぶりに感じる高揚感。知識欲が沸々とわき始める。
(必ず解読して見せます!)
白が湖から戻ってきても思考への没頭は終わらなかった。
単刀直入に言うと記号の解読は成功した。
もし白の書いたエントとシームルグの詳細がMTアプリと同じであったなら、という希望的観測がものの見事に的中したことにより解読できたのだ。
試しに白に自己紹介と好き嫌い、得意なこと、適当な単語などつらつら書いてもらったがそのどれもが解読可能だった。
この世界の文字の法則は、15ある記号を縦、横、斜めに配置することで文章となっている。中には記号と記号を重ねて書いたり、あえて一部分を欠損させた文字を書くことで日本で言う濁音と半濁音を表していた。さらに好きなもの、得意なことは虹のようなアーチを描き、嫌いなものはアーチが180度変わる。つまり中心が沈む。気持ちが目に見えてわかる文章だった。
「これは……、営業には向きませんね……」
「プ?」
そして、綺麗な文字を書くには相当バランス感覚が必要だ、と思った。
こちらの作品はネット小説大賞六感想に応募させて頂いてますが、違うコンテストも続々開催されている模様ですのでそちら用の作品も手掛けて参りたいと思いますー!




