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二十一話 北風小僧のカンツァーロ

「冬、お好きですか?」


「はい?」


 ダンジョン攻略後、しばらく経った頃だ。

もうすっかり日差しは弱くなり、そろそろ冬が来そうな季節。いつもの通りギルドに行ったオレ達は、突然職員の一人にこんなことを聞かれたのである。


「オレは別に嫌いでは……厚着をすれば寒さはどうにかなりますし」


「私も嫌いではないな。オシャレのし甲斐はあるし、何より雪は風情があっていい」


「いやお前冬、たいてい同じダッフルコート着てるじゃん。オシャレしねえじゃん」


「し甲斐はあるが、するとは言ってない」


「さいですか」


 ホントとことんよくわからん幼なじみだ。


「わたしは大っ嫌いですね! コタツから出られなくなります」


「冬とか存在意義が全くわからんわ。滅べばいいのに」


「あー、さおりん先輩冷え性って言ってましたもんねー。わたしもですよ」


 ミーアのことは知らないが、さおりん先輩は去年冬ヤバかったもんな。部室の暖房の前から、離れようとしないんだもん。


「俺も嫌いだぜ!!」


「え、意外だな。お前けっこう夏バテするのに」


 この世界ではなぜか平気だったが、地球では毎年夏バテで五キロほど痩せるのだ。だからてっきり、冬が好きだと思ってたのに。


「だって冬になっちまったら、女子の露出が減るだろ!?」


「目玉とその股のもん、どっち潰されたい?」


「さおりん先輩怖っ!? どっちもイヤに決まってるじゃないですか!!」


「アリー先輩の来世に期待することにします」


「今のこの俺にもちょっとは期待して!?」


 ぎゃーぎゃー騒いでる三人はさておき、なんで今そんな質問をされたのかの方が問題だと思うんだけど。


 ヒノも同じ考えだったらしく、真面目な顔でギルド職員に尋ねた。が、なぜか職員の顔色はよくはなく返事もない。

 しばらく経って、ギルド職員は残念そうに言った。


「すみません、このお話ができるのはあなた方お二人――ええと、ニシジマさんとアサオカさんだけです」


 理由は不明だが、冬が嫌いではないと答えた二人だけしか聞けない話のようだ。

 オレとヒノは顔を見合わせ、とりあえず話だけでも聞くことにした。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「あの、それで話って?」


 なかなか話そうとせず黙り込んでいたギルド職員――ナヴィアさんに尋ねると、とても憂鬱そうな、ありていに言ってしまえば嫌そうな調子で話し出した。


「神の忘れ者であるあなた方は知らないと思いますが、もうすぐこの町に冬が来るのです」


「? ええそりゃあ今が秋みたいですから、もうすぐ来るでしょうね」


「いえ、そう言うことではないのです。なんと言いますか、もっとハッキリ目に見える形で来るんです」


「それは霜が降りるとか雪が降るとかですか?」


 その質問にも、ナヴィアさんは首を横に振る。はて、それ以外で目に見える形ってなんだ?


「カンツァーロ」


「「はい?」」


「北風小僧が来るんです。明後日、この町に」


「「……」」


 何言ってんの、この人?


 オレとヒノが最初に思ったのは、それだった。本気で意味がわからない。北風小僧ってあれだろ? 童謡に出て来る、今年も町まで来る感じの……

 え、もしかしてマジであれの系統が来んの?


 ナヴィアさんの話はため息交じりのせいで、ムダに長かった。なので要約すると、こういうことらしい。


 曰く、毎年町に冬を連れて来るカンツァーロという名前の精霊がいるらしい。いつも北の方角から来て小さな男の子の姿をしているため、そう呼ばれるのだとか。


 で、そのカンツァーロ。明後日にこの町まで来るらしいのだ。だが、カンツァーロが来るということは、必ず冬も一緒に来るということになる。裏を返せば、カンツァーロさえ来なければ、冬は来ないと言うのだ。


「それで毎年毎年、冬が来てほしくない人達が町の前で待ち構えてるってわけですね? そのカンツァーロを追い返すために」


「そう言うことなんですよ……来なかったら来ないで困るのに、なぜみなさま納得してくれないのでしょう。そのせいで毎年冬が嫌いではない人を募って、カンツァーロの護衛をしなくてはならないのです。もうホント経費がかさんでかさんで……」


 この人はこの人で、苦労しているらしい。


 とりあえず、話はわかった。とにもかくにも、カンツァーロがこの町に来るのを助ければいいってわけだ。話だけ聞くと簡単そうだが、他の冒険者が邪魔をして来るんじゃなぁ……


「ついでに訊きたいのだが、だいたいいつもどれくらいの人間がカンツァーロの進路を阻むのだ?」


「そうですね……比率はおよそ八対二くらいでしょうか」


 それならまだマシか、と思いかけて、それならギルドの人達がここまで頭を抱えないことに気づく。


「……まさかとは思いますけど、それって」


「ええ。冬拒絶派が八、その他が二です」


「こっち不利すぎません!?」


 何をどうしたら、そこまで比率がおかしなことになるんだよ!! しかも冬容認派ですらなく、その他って!!


「残念ながら、農家の方々のほぼ全員が冬拒絶派なのです。それと妙齢の女性の方、それと若い男性ですね」


 若い男性って絶対ギンの野郎と同じ理由で冬嫌がってるよな!? そこまで露出大事!? オレとしてはもっとこう、普段は見えないけどいざって時に見える方が嬉しいと思うんだけど!!


 あきれてものも言えない。正直、そこまでアホが多いとは思いもよらなかった。


「そのような比率ですので、最初あなた方に声をかける予定はありませんでした。拒否なさる可能性が高いと思ってましたので。けれどそうも言ってられず……お二人とは言え、本当にありがたいです。ありがとうございます」


 そこまで言われ本気で頭を下げられ。涙ぐまれては、もうやるしかないだろう。


 今度のオレ達――と言ってもヒノとオレだけの特殊クエストだが、とにかく依頼は決まった。


 北風小僧のカンツァーロ。その護衛である。


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