二十話 無事に帰れれば
勢い込んで言ったはいいものの、あれから二時間が経過しても、オレ達はまだ他の三人と合流出来ていなかった。
「なんか悪い……」
「いや、はーちゃんのせいではない。私もどうにもできていないからな」
ヒノはなんてことのないように言っているが、かなり疲労がたまっているはずだ。魔法少女は、あまり長時間の戦闘に向いていない。短期間に膨大な威力を発揮するのが得意であり、そもそも長期戦を想定していないのだから。
モンスターは散発的に襲って来ており、そのほとんどは撃退している。オレ達の進行方向から来るモンスターが多いためで、そうでなければ簡単に逃げられるというのに。そのせいで、余計に疲れるのだ。
「出口の方角は、こっちで合っているはずなんだがな」
「確かに、コンパスの表示とも一致してるんだよなぁ……」
ヒノが持っていたコンパスはこの世界でも使えるようで、正しく南を示している。前に実験したことがあるので、間違いない。この世界では指す方角が逆なだけで、ちゃんと使えるのだ。まあ、ここがめっちゃ磁気強い可能性は否定できないんだけど。
「三人とも、どこをどう進んで行ったのだろうな? あの中で行く先を選択できそうな者に、心当たりがないんだが」
「同感。一番あり得そうなのは、さおりん先輩かなぁ……」
最年長だし、いざという時には頼りになる。唯一の男であるギンを頼りにしてるってことはないだろうし。
「一番さおりん先輩がしそうな選択は、なんだと思う?」
「んー、やっぱり出口目指すしかないと思うんだよなぁ。入口に行ったところで、通れねえんだし」
「はーちゃんもそう思うか。ここまで来て誰にも遭遇しないと言うことは、もしや三人とも脱出に成功しているのかもしれんな。私達と離れていた時間を考慮すれば、もっとも確率の高い可能性だと思う」
「だといいんだけどな」
オレ達も、あといくらもしないうちに出口にたどり着くはずだ。そうすれば、三人がどうなったのかもわかるだろう。
誰か一人くらい、目印を残しておこうとしてくれるといいんだけど……ギンは期待できないし、ミーアもムリだろう。さおりん先輩が冷静だったら、あるいは……
どんどん心配になって来る。よく考えてみれば、オレ達って全員いるからどうにかやって行けてるけど、ソロでこの世界放り込まれていたらヤバかったよな。もしそうなら、初日で死んでたかも。特にギンとミーア。
「もし一人で召喚されてたら、たぶんヒノが一番生き残ってそうだよな」
「そんなことはないぞ。私の場合、考えなくてもいい可能性を考え過ぎた結果、何もできずに死んでいたかもしれん」
「あー……」
ないとは言えない。ヒノってば短絡的に見えて、変なところばっかり考えてるからなぁ。常人とは思考回路が違うっていうか。
そんなことを話しながら時折襲いかかって来るモンスターを倒し、更に三十分。とっくに出口が見えていいはずなのに、影も形も見当たらない。
「また何かギミック解かないといけない系か?」
「それらしきものは見当たらない。池の底も覗いてみたし、その辺の岩も慎重に調べてみたが、成果はなしだ」
「ってことは、純粋に迷路ってこと?」
「そうなるのだろうが……」
最後の最後で、一番面倒でシンプルな仕掛け持って来やがって……
それにしても、ヒノの煮え切らない態度が気になる。普通に迷路だったら、もっとスッパリ言いそうなもんだが。
「ヒノ、これまで同じ道通ったりしたか?」
「いや、この階に来てから一度も同じ道は通っていない。だからこそ、迷路なのか判断し難くてな」
なるほど。さっきの態度の原因はそれか。
ヒノが同じ道を通っていないと言うのであれば、そうなのだろう。ヒノの記憶力ならば、一度通った道を忘れるわけがない。同じところをグルグル回っているわけでもないのに、目的地にたどり着かない。これはマズいかもしれない。
「もしかして、道が勝手に書き換わるタイプのダンジョンかここ」
「かもしれないな。それならば、地図と実際の道が違った理由もうなずける。もしかすると私達が知らぬだけで、地図も連動して変わる仕掛けもあったのかもしれん」
「その地図は?」
「穴から落ちた時、うっかり手を離してしまったらしくてな。気がついた時には、すでに持っていなかった」
ってことは、自力でこの迷路をクリアしなくてはいけないわけか……
「こういう時は左手法か?」
「途中で道が変わってしまえば、意味はないな」
「道しるべ的なもんもねえしな……」
こういう時、何か役に立つもん持ってなかったっけ?
そう思った瞬間だった。目の前にいたヒノが、驚いた顔でこちらを見つめていることに。
「ヒノ?」
「はーちゃん、背中背中」
「背中?」
言われて首を後ろに向けると、かすかに光っているのが見えた。その理由に察しがついたオレは、大慌てでリュックの中身を漁る。そして見つけたのは、光るキーホルダーとギルドカード。
「って、なんでカエルのキーホルダーが光ってんだ?」
お守りなどではなく、カエルのキーホルダーが光っている理由がよくわからない。確かこれは、ヒノが家族旅行の土産に買って来た……
不思議に思いながらもギルドカードの裏面を読んで。オレの疑問は氷解した。
『無事カエル:持ち主を無事に家まで帰してくれる』
「なーる。これはこれでお守りなのか」
言いながらキーホルダーを掲げるや否や、キーホルダーの放つ光が一直線に右の道を差すではないか。
「これってあれか、この光辿って行けば帰れるっていう」
「だろうな。これでようやく帰れるな」
そしてオレ達はキーホルダーの案内通りに歩いて行くこと十分で、あっさりとダンジョンを抜け出すことに成功したのだった。
その時にはすでに他の三人はダンジョンを抜け出していて、すぐ近くでキャンプをしていた。
出るのと同時に青い顔をしたさおりん先輩に平謝りされたのが、とても印象的だ。あそこまで気にしているとは、思ってなかった。半分事故みたいなもんだったし。
その後先輩に、どうやってあの迷路を踏破したのか訊いてみると、返って来たのはリアクションに困る答えだった。
「二人が落っこちちゃったあと、ヒーちゃんが持ってた地図をギンが拾ってさ。それ見てたら地図ごと近くの池にハマったん。で、魔法で乾かそうぜみたいな話になって、適当に魔法を使ってみたら正しい道が表示されたってわけ」
ギンってば役に立つんだか立たないんだか……地図に向かって魔法を使うことが条件だったのかもしれないな。
ともかく、今回オレ達のダンジョン攻略は成功したと言えなくもなかった。レベル上げという目的は、一応達成したし。




