↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/30

十九話 かつての約束

 階段を登って上へ行くと、そこは見たこのない場所だった。ヒノに訊いてみても、ここは通っていないと言う。


「ここからどうにかして、三人と合流せねばな」


「だな。ギンのやつ、余計なこと言って二人にボコられてなければいいけど……」


 最悪、ギンだけどこかに置き去りにされているってこともなくはない。本気でウザくなったら、さおりん先輩辺りが放り出しそうだ。流石に貴重な回復役を、置いてきぼりにはしないと思うけど……


 それからしばらく、オレ達はほとんど無言でダンジョン内を進んで行く。倒したモンスターが二十を超えた辺りで、突然ヒノがぽつりと訊いて来た。


「そう言えばはーちゃん、覚えているか? 小学一年生の頃、授業参観の時に書いた作文のことを」


「なんだよ突然。作文? テーマってなんだっけ」


「将来の夢だ」


 将来の夢、ねえ……なんて書いたか、さっぱり覚えていない。今オレがなりたいものは公務員だけど、さすがに小学生の頃、そんな夢のないことは書かねえだろ。つーか、オレの昔の性格からして、もっと荒唐無稽なことを書いたはずだ。バカだったし。


「ちなみにヒノはなんて書いたんだ?」

「はーちゃんのお嫁さん」

「……」


 喰い気味に即答されて、なんと返していいものか迷う。

 どうしよう、オレ全く覚えてない。そんなこと言ってったっけ? 言ってたら、相当からかわれていたと思うんだけど……


「ちなみにそれをバカにしたやつには、こっそり天誅を下しておいた」


「……ど、どのような?」


「知りたいか?」


「いえ遠慮しておきます」


 怖い! 怖いよ‼ なんで満面の笑みなの!? マジでなにしたんですかヒノさん……


 過去の同級生が哀れになるが、それよももっと大事なことがある。どうしてヒノは、今そんな話をして来たか、だ。


「あのさ、ヒノ……」


「なんでこの話をいきなりしたか、か?」


「あ、ああ」


 察しのいいヒノは、オレの疑問を正確に当ててみせた。その気になれば察しがいいんだから、もっとそれを別のところでも活用してほしいものだ。ノリで行動するんじゃなくて。


「……お姫様を助けることができるような勇者、だよ」


「はい?」


「はーちゃんの将来の夢だ」


 そ、そんなこと書いたんだっけ!? さすがは昔のオレ。大真面目にそんなことを書いていたとは……


 昔の自分に呆れ返るオレだったが、ヒノの顔は至って真面目だ。


「私はそれを聞いた時、すごいと思ったんだよ」


「すごい? なんで?」


「だってそうだろう? はーちゃんの夢は、誰かを助けたいってことだった。確かに勇者と聞くと幼稚なような気もするが、本質はすごいと思う。私は自分の将来に、他人がいることを全く想定していなかったからな」


「それは……」


 どう、なんだろう。オレとしては多分、バッタバッタと敵を薙ぎ倒す勇者が、カッコイイとかそんな理由で書いたんだと思う。時代的にそんな感じのゲームにハマっていた頃だったし。


「ま、私は所詮そんなものだってことだ」


「それはほら、昔の話だし」


「今も大して変わらんよ。周りは見えていないし、過去ばかりにしがみつく。十年も前の約束なんて、無効だろうにな」


「……約束?」


 あれ、なんだろう。何かが引っかかる。十年前の約束……?


 オレが首を傾げるのを見たヒノは、なぜだかとても悲しそうな顔をした。


「あんなもの、覚えているわけもないよな。すまない、妙なことを言って」


「……一応訊くけど、それどんな約束?」


「本当に些細な、守れるはずもない約束だったんだ。……私がはーちゃんを、勇者にしてあげる。そう、言ったんだ」


「あ……」


 私がはーちゃんを、勇者にしてあげるね! だから、私のこと――


「思い出した、あれは……」


 そうだ。十年前、オレは確かにヒノと約束をした。ヒノが、オレを勇者にする。そしてオレは、ヒノのことを――

「お姫様にして、一生守ってあげる」


「ああ、そうだ」


「お前、まさか……」


 こちらを見るヒノは、どこか寂しそうで。その顔を見ると、胸が締め付けられた。


「そうだよ。私が異文化研究部を創ったのは、そのためだ。異世界に行く研究をするために、な」


 そんな約束を守るために、ヒノはずっと……そんなの普通だったら絶対ムリなのに。それでもヒノは、約束を守ろうとした。どれほど難しくても、ヒノは諦めなかったのだ。


 それを知って、なんとも言えない気持ちになる。この世界に来たしまった原因は、オレにもあったと言うことになるのだから。


「私が約束に固執し過ぎたせいで、みんなを巻き込んでしまった。はーちゃんにも、悪かったと思って――いや、違うね。ごめんね、はーちゃん」


 久しぶりに聞く、ヒノの昔の言葉遣い。いつの頃からか、ヒノは今の喋り方になった。それはそれでヒノに似合うからとスルーしていたけど、いったいどうしてだったんだろう。


「ヒノ、お前なんで」


「わからないなら、教えてあげない。でもこれまでのこと全部、私のワガママのせいってのは間違いないの。だからもう、私はリーダーとかやめた方がいいと思うんだ。というわけで、はーちゃんが部長やってほしいな」


「……わかったよ」


 そこまで言われては、了承するしかないじゃないか。


「オレもリーダーってのは向いてないだろうけど、精いっぱいやってみるさ」


「うん、頑張ってね、はーちゃん」


 誠に勝手ながら、今からオレが部長だ。それでなにが変わる、というわけでもないだろう。責任が増えただけとも言える。


「じゃ、ちゃちゃっとこのダンジョンクリアしますか!」


 部長としての初仕事。『仲間と合流せよ』開始だ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。