二十二話 夏冬戦争
北風小僧のカンツァーロ護衛任務を受けた、翌々日。オレとヒノは、適当な理由をつけて他の三人とは別行動をとっていた。もちろん、他の三人には依頼内容を離せないからだ。話せば確実に、敵に回る。
オレ達二人がやって来たのは、町のすぐ外。森の手前である。
「あそこに浮かんでいるのは、もしかしてフィルさんか?」
ヒノが指した方を見れば、確かにそこにはあの幽霊幼女がぷかぷかと浮いていた。
「あの人、戦闘とかできるのか?」
「できるなければこの場にいないのではないだろうか」
そりゃそうだ。
「にしても、なんか人少なくね? まさかとは思うけど、冬容認派これで全部ってことは……」
「あるだろうな」
「マジかよ……」
ここにいるのは、オレ達含め総勢二十名ほど。ナヴィアさんによると、向こうは少なく見積もって百。戦力差が圧倒的過ぎる。
「これ、カンツァーロが町にたどり着けなかったらどうなるんだ?」
「この町だけ冬が来ないとか、そういうことになるだろうな。どう考えても異常事態だろう」
「それでもみんな冬イヤなんだ……」
冬、そんなに悪くねえと思うんだけどなぁ。厚着をすれば寒さはしのげるし、雪が降ったら学校が休みになるかもしれない。割といいこといっぱいあるんだけど。
ヒノとそんな風に話していると、にわかに辺りの温度が下がって行くのを感じる。
「ん、来たか」
この場の全員の視線が向かう先。そこにいたのは、小さな男の子だった。
歳は十歳ほどで、髪は地面に届くほど長い。全体的にアイスブルーをしており、まさしく冬を運んで来るのに相応しい見た目だ。恰好がロシア人みたいな、もこもこの服に帽子と言うのが若干イメージとはズレてるけど。
「ええと、初めましての方もいらっしゃると思います。僕がこの辺りの冬担当の、カンツァーロでレイシャーと申します」
そう言って男の子、レイシャーはぺこりと頭を下げた。
カンツァーロって個人名じゃなくて、種族名みたいな扱いだったんだ。
意外と言えば意外だが、今大事なのはそこじゃない。どうやってこの子を守りながら、町へと行くかってことだ。
「ではみなさん。今年こそよろしくお願いします。でないと、私のボーナスがピンチな感じに!!」
ナヴィアさんは半泣きだった。今の話からすると、去年はカンツァーロが町に行くのを阻まれてしまったのだろう。なんかもう、ここまで来るとマジでスゲーな冬拒絶派。
必死なナヴィアさんの見送りを受け|(ギルド職員なので非戦闘員だ)、オレ達はカンツァーロが中心に来るようにして町まで歩き始めた。
歩き始めてすぐ、オレ達を見つけたフィルさんがこちらに少しよって来た。
「お久しぶりですね、お客神様方」
「オレが晴哉でこっちがヒノです。その呼び方、できれば変えて欲しいんですけど……」
「では、ハルヤ様ヒノ様。最近ずいぶんとご無沙汰でございましたね。もしやわたくしの接客に、至らぬ点が大量にございましたでしょうか」
「いえひとつだってないですよ?」
どうしてフィルさんってこんなに自己評価低いの? 腰が低いのとはまた違ったやつだよなこれ……
オレの否定をどう受け取ったのか、今度は明後日の方向に勘違いし始めた。
「申し訳ありません。むしろ至る点がございませんでしたね。わたくしごときの経営する店など、よほどのことがなければ来ようと思いませんもの。わたくしが間違っておりました」
「そういう話でも……えっと、フィルさんはなんでここにいるんですか?」
「大変失礼致しました。目ざわりでしたら早速成仏を」
「違いますそうじゃなくて護衛クエストを引き受けた理由です!!」
もう面倒くさいよこの人……何があったらここまで卑屈になれるのか、逆に不思議だわ。
どうにか成仏を思い止まってくれたフィルさんは、少しだけ困った顔で説明してくれた。
「幽霊ですから、暑いのも寒いもの関係ないのですけれど。このクエストを受ければ、ギルドの方々に様々なことを融通していただけますから。そのおかげでわたくしごときが、あのような場所に店を構えていられるというわけです」
「なるほど」
それで意外といい場所に、ちゃんとした店が建てられているのか。にしてもどんだけ難易度高いのこのクエスト。みんな本気で邪魔しすぎだろう。
そんなことを話していた時だった。オレとフィルさんよりも、少しだけ前を歩いていたヒノが立ち止まったのだ。
「ヒノ?」
「……いくらなんでも、みな本気すぎるのではないか?」
「は?」
なんだいきなり。どうしてそんなに暗い声出して――
「あれをみれば、はーちゃんにもわかる」
言われてヒノの指す方を見れば。そこには、とてもじゃないが信じたくない光景が広がっていた。
「ウッソだろ……」
人、人、人。百じゃ絶対利かない数の人間が、町に入るための門の前にひしめいていたのだ。おそらく、三百人ほど。
「待て待て待て!? いくらなんでも多過ぎだろ!?」
こっちの十倍はくだらない。これをどうやって勝てって言うんだよ!! ムリゲーにもほどがあるわ!!
「あらあら。去年の防衛が成功したためか、活気づいてしまいましたかね。これはとても厄介な」
去年を知っているフィルさんが言うんだから、そうなんだろう。にしても、冬が来てほしくないってだけで、ここまでやるか普通……
どれほど呆れようと、目の前に大量の敵がいるのは揺るがぬ事実なのだ。どうにかしてこの人の壁を突破せねば、この町に冬は来ない。
「もういっそ、来なくてもいいような気がして来た……」
始まってもいないのに弱音を吐いたオレは、これからのことを思ってげんなりしたのだった。




