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第23話 エスティナ包囲網

 その後、寄生済みの獣人たちは街の広場で反教会の抗議デモを開始した。


「我々は教会の布教に断固反対する!! 神殿騎士団は俺たちの国から今すぐ出て行け!」


「教会の宗教は邪教だ!! 信じる者は悪魔に取り憑かれる!!」


「みんな、一緒に神殿騎士団を追い出すんだ!! 獣人国バンザイ!!」


 獣人たちは広場でそう叫び、道行く人々に訴えた。すると徐々に聴衆が集まってきた。聴衆は一般人ではあるが、あまり教会をよく思っていない人々だった。ある程度聴衆が集まったところで、広場に寄生済みの神殿騎士を含む神殿騎士団の一行がやってきた。抗議デモを行っている獣人たちは、神殿騎士団を見るとすぐに口々に罵り始めた。


「おい、そこの神殿騎士ども! 我が物顔で俺たちの街を歩きやがって! さっさとここから出て行け!!」


「ここはお前らが居ていい土地じゃないんだよ! 薄汚い教会の犬どもか!!」


 抗議デモをする獣人たちはそう言いながら神殿騎士たちに石を投げつけ始める。それに対して、最初は黙っていた神殿騎士たちも遂に反論を始めた。真っ先に反論を始めたのは既に寄生済みの神殿騎士たちだった。


「なんだお前ら! 俺たちは許可を得てこの街に滞在してるんだ! お前らに何の権限がある!」


「教会への侮辱は許さんぞ。この薄汚い獣人どもが! 教会の布教があってようやくお前らはまともになれるんだよ!」


「文句があるならかかってこいよ? お前らなんて俺たち神殿騎士団の敵じゃない!」


 寄生済みの神殿騎士たちは獣人たちに対して逆に罵声を浴びせ始めた。それを見た上位の寄生済みではない神殿騎士は必死に部下たちを諌めた。


「おい、やめろ!! 相手にするな!」


「ここでいざこざを起こしてどうする! 冷静になれ! 何事もなくここを離れるんだ! これは上官命令だぞ!!」


 上位の神殿騎士たちはそう言って場を収めようとするも、寄生済みの神殿騎士たちはそれには全く従わなかった。さらに罵声を浴びせることで、デモを行っている獣人たちは激高した。


「このクソ神殿騎士どもが!!」


「力づくでこの街が追い出してやる!!」


 獣人たちが神聖騎士たちに殴りかかると、神聖騎士たちは剣を抜いて獣人たちを迎え撃った。


「ぎゃあ!」


「ぐあ!」


 広場では少し前までの平和な空気が一転して、一気に獣人と神殿騎士の乱戦となった。両者の間で激しい戦闘が始まると、一般聴衆はパニックになって広場から散り散りに逃げ出した。寄生済みの神殿騎士たちは上官の命令を聞くことなく、武力で劣る獣人たちを次々と手にかけていった。


 騒ぎを聞いた他の神殿騎士たちや獣人軍団が広場に急行すると、そこには神殿騎士によって無残に殺されたいくつもの獣人たちの死体があった。上位の神殿騎士と思われる男は絶句して頭を抱えていた。


「お、お前ら……な、なんてことを……」


 獣人たちを殺した神殿騎士たちは口々に獣人族が先に手を出してきたことを主張した。しかし、その目の奥には薄ら笑いがあり、ヴァイスのための作戦の成功を喜んでいたのだった。



「……う、嘘でしょ!? 神殿騎士が獣人を殺した!?」


 神殿騎士団の駐屯地で報告を聞いたエスティナが愕然とした顔で言った。


「はい、当事者の神殿騎士たちは向こうから先に手を出してきたので仕方なかったと主張しています……」


「…………ありえない」


 エスティナはそう言ってうなだれた。獣人国という他国に駐在する人間として、他国の人間が現地人を手にかけるなど、最悪中の最悪の出来事と言ってよかった。これには確実に獣人王は黙っていないだろうとエスティナは思った。


「これから全ての予定を中止して! 急いで軍をまとめて! 王国との国境まで戻るわよ!」


 エスティナは、直観的にこれは獣人軍団との戦いになると思った。獣人王が自国民を殺されて黙っているとは到底思えなかったからだ。そして、もし獣人軍団との戦いになれば、戦力的には神殿騎士団の方が不利なのは明らかだった。そのためエスティナは、一応交渉の余地を残しつつも、すぐに王国側に逃げられるように国境までの後退を命じたのだった。


 国境付近に位置していれば万が一交渉が決裂し、獣人軍団と戦いになっても王国側に逃げられる。王国側まで逃げてしまえばいくら獣人王といえども手は出せない。よって一刻も早く国境まで移動するのが最善とエスティナは考えたのだった。


――だが、その行動はヴァイスたちには既に完全に予想の範囲内だった。エスティナ率いる神殿騎士団を逃さないように、すでに獣人軍団とエルフの戦士団を国境までの街道の途中に配置していたのである。

 エスティナは、国境までの道が獣人軍団によって既に封鎖されているという知らせを受けて小さく呟いた。


「くっ、もう既に軍が展開されてるなんて……。こっちの行動はお見通しってわけか」


 騎士団駐屯地で側近の部下の報告を聞くと、エスティナはそう呟いて唇を噛む。すると、そこに伝令担当の神殿騎士がやってきてエスティナに報告をした。


「エスティナ様、先ほど獣人王から一通の手紙が届きました」


「……なんて言ってきてる?」


 エスティナは目の前で跪いている神殿騎士に尋ねた。


「はっ、手紙の内容は以下の通りです。『神殿騎士による獣人殺害は明確な協定違反である。我々は教会との同盟関係を解消し、我が国に駐屯している神殿騎士団の武装解除及び投降を望む。それに従えない場合は武力を持ってして制圧せざるを得ない』とのことです」


「……なるほど、さっさと投降しないと攻撃するぞってことね。実にわかりやすい」


「……いかが致しますか?」


「…………」


 エスティナは無言で思案した。エスティナはまさかこんな事態になるとは夢にも思っていなかった。対エルフでの獣人軍団との共闘が終われば、教会建設とその視察をしてすぐに聖地に帰還する予定だったのだ。それがあろうことか獣人国と敵対関係になるとは……。


(確かに獣人王は野心があるタイプの王に見えたけど、ここまでとは思っていなかったわ。もしかしたら神殿騎士たちによる獣人殺害も意図されたものかもしれない……)


 エスティナはなんとなくこの件の裏には何かがあると感じた。仲間である獣人族を殺されたとはいえ、獣人軍団の動きは速すぎるし、明らかに神殿騎士団を逃すまいとしている……。ただ、現時点ではエスティナにとって最も大切なことは、どうやってこの場を脱するかだった。


「今さら何を言ったところで獣人王が引くことはないでしょう。かといって投降したところで何をされるかわかったもんじゃないし、聖女である私が教会との取引材料にされるのは目に見えている。となればここは一点突破で獣人軍団の包囲を抜け、王国領までたどり着くほかない」


 エスティナは真剣な顔をしてそう言った。


「……やはりそうなりますか。敵の兵力はエルフの戦士団も合わせて我々の二倍以上はあります。それを突破して抜けるのは至難ですが、もうそれしかありませんな。ではすぐに戦闘準備に入ります」


「そうしてちょうだい」


 エスティナがそう言うと、側近の神殿騎士は一礼をしてエスティナのいるテントから去っていった。


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