第22話 策略
その後しばらくして、獣人国とエルフ国の上層部の寄生化が大方済むと、ヴァイスはレイドルフをエルフ国の王宮へと呼び出し、今後の作戦について話し合うことにした。王宮の会議室にはヴァイスとレイドルフ、そしてディアナの姿があった。
「レイドルフよ、首尾はどうだ?」
「は、我が主……。我が国では上級層の寄生化はほぼ全て完了しております。大臣などの上位の役人、獣人軍団の上層部、地方の有力貴族といった者たちはほぼ全て寄生済みとなっております。獣人国はほぼ我が主のものになったと言っても過言ではありません」
レイドルフは笑みを浮かべてそう言った。
「それはエルフ国も同じじゃ、主様。エルフの戦士団はほぼ寄生が完了し、わらわの側近やその部下たちも全員寄生が完了しておる。もはやエルフ国は主様のものじゃ」
ディアナが続けて笑みを浮かべながら言った。
「くく、素晴らしいぞ二人とも。これでいつでもエスティナ率いる神殿騎士団を両軍で挟み撃ちにできるというわけだ。……ところでエスティナの動向はどうだ? 呼び出しには応じそうか?」
ヴァイスがそうレイドルフに尋ねると、レイドルフは現在の状況を説明した。
「現在、エスティナは神殿騎士団とともに獣人国やエルフ国の主要都市に建設された教会を回っての布教の最中です。呼び出しには応じるとのことですが、近くに神殿騎士団本隊を待機させることと、他の上位の神殿騎士を多数同行させるのが条件と言ってきています」
「なるほど、やはり警戒しているか……」
ヴァイスはそう言って腕を組んだ。
「我ら獣人国側からすればエルフ国を属国とする目的を果たした以上、もはや神殿騎士団に用はありません。神殿騎士団の背後にいる教会はきっと我々獣人族が約束を破って聖女を捕らえ、何らかの取引材料にすることを心配しているのでしょう」
「まぁそうだろうな……。教会にとって獣人国は近いけれど、文化や風習は違う遠い国のようなもの。各地の教会建設という布教の足がかりさえ終了したら早急に聖女を引き上げさせるだろう。聖地に戻られては手が出せない。その前に秘密裏にエスティナを捕らえなくては……」
もしエスティナが聖地に戻った場合、聖地攻略の際にはイザリアと同時に相手をしなくてはならなくなる。聖女二人を同時に相手にするというのは不可能ではないが、より厳しい戦いになるのは目に見えている。それよりはエスティナを先に落として自身の戦力に加えたほうがよほど安全だし効率的だろう……。ヴァイスはそう考えた。
「……主様、エルフの戦士団はともかく、獣人軍団は表立って神殿騎士団と敵対するのはまずいと思います。そうなれば教会と獣人国の同盟関係が完全に破局する上に、もしかすると教会の影響力が強い王国とも敵対することになりかねません」
ディアナがそう言った。ヴァイスはディアナの進言を聞いてなるほどと思った。
(獣人軍団と神殿騎士団が公式には同盟関係にある以上、これを一方的に破るのはさすがにまずいか……。しかし獣人軍団抜きではエスティナ率いる神殿騎士団を倒すのは難しくなる)
ヴァイスは思案した。どうにかして神殿騎士団の方から獣人軍団といざこざを起こしてもらって同盟を即刻破棄できれば好都合なのだが……。ヴァイスがそう考えていると、レイドルフが口を挟んだ。
「主様、なんらかの方法で神殿騎士団が獣人に手を出してくれれば、それを口実にして同盟を破棄し、神殿騎士団に攻撃をしかけることは容易なことです。なので、どうでしょう……。 神殿騎士団の一部を我々の『仲間』にしてわざと獣人を襲わせるというのは……?」
レイドルフはそう言ってニヤリと笑った。ヴァイスはレイドルフの考えを聞いて、それはとてもいいアイデアだと思った。
「……なるほど、その手があったか。それはいいアイデアだ。でかしたぞレイドルフ」
「ありがとうございます」
ヴァイスはレイドルフの案を採用して神殿騎士団の一部を寄生化させ、獣人に手を出させることに決めた。ヴァイスは二人に今回の作戦の具体的な内容を話した。
「まず、民間の獣人族を数十人ほど寄生させ、反教会派として神殿騎士団の滞在している都市で反教会の抗議をしてもらう。そこにさらに寄生させた神殿騎士の一部を遭遇させ、そいつらに反教会派の獣人族を殺させる。獣人国は獣人族を殺された報復として神殿騎士団との同盟を解消し、エルフの戦士団と合同で神殿騎士団を攻撃する。これでどうだ?」
「……素晴らしい作戦かと」
「さすがは我が主様です」
そう言ってレイドルフとディアナはヴァイスを称賛した。それはお世辞などではなく、心からの賛意であった。
数週間後、ヴァイスは作戦を実行した。神殿騎士団の滞在している都市の街外れの倉庫でヴァイスは密かに集まった数十人の寄生済みの獣人と神殿騎士たちの前に立って言った。
「よし、獣人たちの方は手はず通り、広場で反教会の抗議デモを起こすんだ。そこに神殿騎士たちの方が通りがかって獣人たちといざこざを起こし、最終的には手を出してきた獣人たちを皆殺しにする。……いいな?」
「「了解であります!」」
獣人と神殿騎士たちはそう叫んだ。
「お前たちの尊い犠牲は忘れない、これもより良い世界のためだ」
「全てはマスターの意思のために!」
自分に心から忠誠を誓う寄生済みの獣人と神殿騎士たちを見てヴァイスはニヤリと笑った。




