第24話 VS聖女エスティナ
その後、エスティナ率いる神殿騎士団は全力で西の王国領目掛けて移動を開始した。そしてそれを待ち受けていた獣人軍団と激突した。兵士の練度では獣人軍団より神殿騎士団の方が上だったが、それ以上に兵力差が大きく、獣人軍団の突破は困難を極めた。
しかし、エスティナはたまたま獣人軍団の層が薄い箇所を発見し、そこに兵力を集中させることでなんとか獣人軍団の突破に成功したのだった。ただ、犠牲も大きく、突破できたのはエスティナと十人程度の護衛の神殿騎士のみであった。他の神殿騎士たちはエスティナが無事に獣人国から脱出できるようにひたすら追手を食い止めていた。
エスティナは配下の神殿騎士たちの多くが獣人国側の囚われの身になるであろうことを予想し、自分の力のなさを悔やんでいた。しかし、エスティナはそこで足を止めることはなかった。自身が聖女という教会の最高峰の立場にある以上、絶対に敵対勢力の手に落ちるわけにはいかなかったからだ。
(絶対に王国領にたどり着いてみせる……!! 私を逃してくれたみんなのためにも!!)
エスティナはそう心に決め、護衛の神殿騎士とともにひたすら馬を走らせ、王国領を目指した。平地の街道を通るルートは獣人軍団によって封鎖されていることが予想されるため、エスティナたちは迂回して山岳地帯を超えるルートを選んだ。このルートであれば、例え兵が配置されていたとしても少数だろうし、容易に突破できるとエスティナは考えたのだった。
エスティナ一行は休憩もそこそこにひたすら山道を走った。そして、エスティナたちが獣人軍団の包囲網を突破したその翌日、遂に王国領目前のところまで到達することができたのだった。
……しかし、エスティナたちが山道を走破し国境まで目と鼻の先まで迫ったところで、行く手に三人の人影が現れたのだった。三人のうち二人はエスティナも見知っている人物であった。
(なっ……獣人王!? それに……エルフの女王まで!?)
エスティナは驚愕した。前方に立っている三人のうち左側に立っているのは明らかに獣人王で、右側に立っているのはエルフの女王だった。中央にはローブを纏った見知らぬ男が立っていた。
(くっ、一体何がどうなっている!? こんなところに敵の総大将がいるなんて……。でも、今はそれを考えている暇はない。脱出することだけを考えるんだ……。となれば――)
エスティナは護衛の騎士たちの方を向いて叫んだ。
「迂回するわよ!! 着いてきて!!」
そう言ってエスティナは前方の三人を迂回すべく、急遽右の道へと方向を転換する。しかし、次の瞬間、エスティナたちの前に巨大な岩の壁が現れ、道が塞がれたのだった。
「!?」
さらに今まで来た道の途中にも岩の壁が現れ、エスティナたちは完全に逃げ道をも失ってしまったのだった。エスティナたちが立ち往生していると、三人はゆっくりとエスティナたちへと近づいてくる。それでもエスティナは違う方向へ向かおうとしたが、そのたびに岩の壁が現れ、エスティナの行く手を遮った。気がつけば、エスティナ一行は壁を背に三人に追い込まれる格好になっていた。
(くっ、こうなったらやるしかないか……)
エスティナは直感的にこの壁は錬金術師の仕業だと思った。錬成によって壁を生み出すというのは錬金術師がよくやっていることだ。となれば、この壁を生み出しているやつをどうにかしない限りは前に進むことはできない。そしてその錬金術師は獣人王でもエルフの女王でもないのは確かなので、三人のうち中央にいる男がその錬金術師だとエスティナは確信した。
「みんな、ここはあの三人をなんとかするしかない。……覚悟はいいわね?」
そうエスティナが護衛の騎士たちに言うと、騎士たちはみな首を縦に振った。エスティナたちは馬を降り、戦闘態勢に入って前方の三人と対峙した――
「くくく、久しぶりだな聖女エスティナ。俺のことは覚えているか?」
三人の中央に立つローブを纏った見知らぬ男がそう言った。
「あんたなんて知らないわよ。なに、私のファンか何かかしら?」
エスティナはそう言って肩をすくめる。
「おっと、変装を解くのを忘れていた。これならさすがに頭が足りないお前でも俺のことを思い出すと思うが……」
そう言って、男は自分の顔に手を当てた。すると男の顔が変わり、どこかで見た顔へと変化していく。……それは忘れやすいエスティナでもよく覚えていた顔だった。
「あんたは……確か……ヴァイス……」
そこにいたのはかつて自分たちが禁域の森へと追放した王国の錬金術師だった。第一級異端罪で自らの手で拷問したということもあり、エスティナにとってヴァイスのことは強く印象に残っていた。
「なんであんたが……ここに……」
「くく、ルーフィにも同じようなことを言われたな。……戻ってきたんだよ、お前たち聖女に復讐するためにな」
ヴァイスはそう言った。
「ルーフィ? 一体どういうこと……? 説明しなさい!! あんた、まさかルーフィに手を出したりしてないでしょうね!」
エスティナはそう言ってヴァイスを睨んだ。ヴァイスが復讐のために戻ってきたとしたら、ルーフィに先に手を出していてもおかしくはない。
「ふふ、ルーフィは既に俺の配下の一人となったんだよ。寄生生物になってな。ここでルーフィの姿を見せられないのが残念だ……」
そう言ってヴァイスは薄ら笑いを浮かべた。
「……配下? 寄生生物? 全然意味がわからないんだけど!」
「ふっ、すぐにわかるさ。なぜならお前も寄生生物となって俺を崇めるようになるのだからな!」
ヴァイスはそう言って笑った。
「世迷い言を……。悪いけど、あんたらに付き合ってる暇はないの。そこをどいてくれるかしら? どいてくれないなら力づくで行かせてもらう」
エスティナはそう言って戦闘の構えを取る。
「ほう、ならやってみるがいい。……レイドルフ、ディアナ、エスティナをボロボロになるまで痛めつけるんだ」
「了解」
「了解じゃ、主殿」
そう言ってレイドルフとディアナがヴァイスの前に立つ。
「獣人王にエルフの女王……。なるほど、あんたら二人は組んでたってわけ。もしかして今回のことはヴァイスに何か入れ知恵でもされて思いついたのかしら?」
「くく、全ては主様の意思のもとにある」
「そういうことじゃ……いくぞ、聖女の娘よ」
二人はそう言って戦闘態勢に入った。




