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第12話 奴隷エルフの少女

 ヴァイスは次の標的を次女エスティナに絞り、彼女がいるという隣国に向かった。道中でいくつかの街に寄りつつ、東の国境を目指す。


「……結構資金が尽きてきたな。当分はこの街で稼ぐか」


 ある街で宿屋に泊まっているヴァイスはそう呟いた。ヴァイスはルーフィからある程度の資金をもらっていたが、その資金がちょうど尽きてきたので、ヴァイスはこの街でポーションを作成して売ることに決めたのだった。


 翌朝、さっそくヴァイスは街の広場へと向かう。広場では市場が開かれ、ポーション作成の材料となる薬草などの様々な素材が売られていた。ヴァイスは慣れた様子でポーション作成に必要な素材を買っていった。


 市場からの帰り道、ヴァイスはたまたま町外れのあまり治安がよくないエリアを通った。道路の舗装などもされてないので、もしかしたらキノコなどの素材が生えているかもしれないと思ったからだ。


 すると、ヴァイスはふと道の途中にあったとある館に多くの人が出入りしているのに気がついた。館に出入りしている人々は治安がよくないエリアにしては上等な衣服を着ていた。


「……奴隷市場か」


 ヴァイスは上等な衣服を来た人間がみすぼらしい服を来た人間を連れて出てくるのを見て、すぐにそれがどういう意味なのかを理解した。王国では奴隷の所有は合法であるが、あまり褒められたものではなかった。そのため奴隷市場は人目につきにくい場所で開かれることが多かった。


 ヴァイスは奴隷には特に関心がなく、奴隷市場にも今まで一度も立ち入ったことがなかった。しかし、今日のヴァイスはなんとなく気が向いたのか、ふらりと奴隷市場の中へと入っていく。中では子どもから老人までたくさんの奴隷が商品として展示されていた。ヴァイスは特に何も思うことなく、奴隷を眺めながら館内を巡っていく。


 すると、ヴァイスの視界の中に一人、とても目を引く奴隷が映った。その奴隷は人間ではなく金髪のエルフの少女であった。年齢は十三、十四と言ったところだろうか。顔立ちもよく、美少女といって差し支えないほどの容貌だった。本来なら多くの人間が購入するために殺到しそうなものだが、なぜだか彼女の周りにはほとんど客がいなかった。客が来たとしても奴隷商人と少し話をするとすぐに離れていく。その不思議な現象に興味が湧いたヴァイスは彼女のもとへと近づいていく。


――彼女にほとんど客が寄り付かない理由はすぐにわかった。彼女は左目に眼帯をしており、左腕の先が欠損していて、さらに右足は膝から下がなかったのだ。さらに彼女が座っているゴザには張り紙がしてあり、そこにはこう書かれていた。


『心臓に病があり余命、およそ一年です。それを了承した上での購入となります』


 手足に障害がある上に病で余命が一年――いくら美しく若いエルフの少女であってもこの条件は奴隷としては相当悪いものだった。そもそも普通に奴隷がやるような仕事は彼女ではとてもじゃないがこなせないだろう。というか、むしろ逆に彼女に介護をしてやる必要がある。


 それにたとえ大金をかけて彼女の欠損部位を再生魔法で再生させたとしても、余命が一年では再生してすぐに死んでしまうことになる。奴隷としての価値はほとんどないに等しいだろうとヴァイスは思った。彼女の前に置かれた値札を見ると案の定、奴隷としては破格の安さであった。


「旦那、こいつに興味がおありで?」


 ヴァイスが彼女を観察していると、奴隷商人が話しかけてくる。


「……まぁ、少し」


「そうですかい。こいつは、見たまんまですが、奴隷としては全く役に立ちませんぜ。それでもよければ安くしておきます」


 奴隷商人はそう言った。


「……この子の来歴というか素性を聞いても?」


「構いませんよ。こいつはもともとある孤児院で暮らしていたんですよ。ただ、ある日、孤児院の外で薬草を採っていた時に魔物に襲われたらしくてね。その時に手足と左目を失ったらしいんですわ。それで孤児院の院長が面倒を見きれないってことでね、俺たちに売ったってわけなんです」


 奴隷商人はそう言って彼女を一瞥する。


「手足が不自由とはいえ、この見た目でしょ? これなら物好きな金持ちに売れると見込んでそれなりの金で買ったんですが、後でこいつが身体の不調を訴えましてね。仕方ないから教会に連れて行ったら相当心臓が悪いらしく、持ってあと一年だとか。いくら物好きでもすぐに死ぬ奴隷なんて誰も買いませんよ。顔がいいからもしかしたらって思って買ってみたらこれです。本当ババを引かされましたよ」


 奴隷商人はそう言って肩をすくめる。奴隷商人の言っていることは彼女にも聞こえているはずだが、彼女は特に反応することなくうつむいていた。ヴァイスはそんな彼女を見て少し思案する。


「彼女と二人きりで話をしたいのだが」


「もちろん、いいですよ。どうぞご自由に。じゃあ、あっしは離れたところで見てますから」


 そう言って奴隷商人は離れていった。するとヴァイスは彼女の前でしゃがみ、彼女に話しかける。


「……君の境遇は聞いた。はっきり言って相当悲惨だと思う」


「…………」


 彼女はうつむいて何も答えなかった。


「俺は通りすがりの錬金術師なんだが、実は今ちょっとした研究をしていてね。その研究の実験台を探していたところなんだ」


「…………」


「君さえよければその実験台になってくれないかな? これは決して口外しないで欲しいのだが、実験の結果として君の失われた手足や病が治る可能性は高い――というよりもほぼ100%の確率で治るだろう」


「…………」


 彼女は何も答えなかったが、明らかに表情にぴくりと反応があった。


「ただ、副作用もあってな、ちょっと人間――いや、君の場合はエルフか――エルフから離れてしまうというか、はっきり言えば魔物っぽくなってしまうこともあるんだが、それはまぁ仕方ないことなんだ」


 ヴァイスは寄生生物という単語はどこの誰が聞いているかわからないため、言葉にはしなかった。


「……というわけで、どうだろうか? 君の答えを聞かせてほしい」


 ヴァイスがそう言ったが彼女は答えなかった。少し彼女の回答を待ったところで、ヴァイスは残念そうに言った。


「そうか、特に興味はないか。邪魔したね――」


 ヴァイスがそう言って立ち上がろうとした瞬間、今まで沈黙していた彼女が口を開いた。


「な…………る…………。じっ…………けん…………だ…………い…………に…………な…………る…………」


 彼女は初めてヴァイスの方を向いて、一生懸命に声に出して言った。ヴァイスはその言葉を聞いてニヤリと笑った。


「取引成立だな」


 ヴァイスはそう言うと、離れた場所に立っていた奴隷商人へと合図を送る。奴隷商人が戻ってくるとヴァイスは彼に自分がこの奴隷を購入することを伝えた。奴隷商人は驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になり「旦那みたいな物好きな客もいるもんですねぇ」と言った。ヴァイスは金を払うと、彼女に声をかける。


「そういえばまだ名前を聞いてなかったな。君の名前は?」


「リ…………リ…………カ…………」


「リリカか。俺の名前はヴァイスだ。これからよろしくな」


 ヴァイスはそう言った。


「……立てるか?」


「う…………ん…………」


 リリカはそう言うと、傍らにあった杖を使ってよろよろとなんとか立ち上がる。


「よし、それじゃあさっそく俺の泊まっている宿へと向かうぞ」


 ヴァイスはそう言ってリリカの歩行スピードに合わせて奴隷市場を出た。もともとヴァイスは奴隷を買うつもりは全くなかったのだが、それでもヴァイスは彼女を見過ごすことはできなかった。それが自身の良心から来るものなのか、寄生生物の実験をしたいという好奇心から来るものなのか、ヴァイスにはわからなかった。


 ただ、ヴァイスは寄生生物の実験ができるということで心を踊らせていた。


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