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第11話 聖女と殲滅の夜

 ヴァイスがエスティナ攻略のために出立した後、ルーフィはティートとともにさっそく教会内部の人間たちを次々と自分たちの『仲間』へと変えていこうとしたが、その前にちょっとした事件が起こった。


「……修道院のシスターが行方不明?」


 教会支部の自分の執務室で支部長の報告を聞いていたルーフィがそう言った。支部長は司祭の服を着た四十すぎの男だった。ルーフィの傍らにはティートの姿もあった。


「はい。数人のシスターが山に薬草を取りに行ったまま戻って来ていないとのことです」


「……魔物の仕業?」


「いえ、最近この辺りを荒らしている盗賊団の仕業と思われます。近隣の村人でならず者のような集団の中にシスターらしき人影を見たという者がおりましたので……」


「なるほど。それでその盗賊団のアジトの場所は特定した?」


「はい。数名の神殿騎士に痕跡を辿らせたところ、盗賊団のアジトと思われる砦を発見しました。現在、シスターの救出隊を編成中です」


 支部長がそう言うと、ルーフィは少し思案した。


「……救出隊は必要ないわ。いい機会だし、私たちがやります。ね、ティート」


 ルーフィはそう言ってティートを見る。しかしティートは露骨に面倒くさそうな顔をして「えー、私たちでやるのー」と言った。ルーフィは「もう文句は言わないの。たまには外に出て身体を動かさないと」と言ってティートをたしなめる。


「……よろしいので?」


「ええ。いい戦闘訓練になるし、捕らわれたシスターも『仲間』にできて一石二鳥でしょ?」


 ルーフィはそう言うと笑みを浮かべた。


「なるほど、そういうことですか。それは確かにいいアイデアですな」


 ルーフィを見て支部長もニヤリと笑う。既に支部長はルーフィたちの手によって『寄生』させられていたのだった。



 ルーフィはティートと一緒に二人で盗賊団のアジトへと向かった。聖女の格好はさすがにまずいので、ルーフィは普通の市民のような服を着ていた。ティートは特にいつもとは変わらない服装だった。


 盗賊団がアジトにしている砦は近くの山の中腹にあった。そこそこ大きい砦で外には見張りの盗賊たちがいるのが見える。砦の規模から見て盗賊は数十人以上はいるだろうか。時刻は既に日が暮れていたが、ルーフィたちは闇に紛れるために付近の森の中に潜んでさらに時間が過ぎるのを待った。そして、十分に闇が深くなり、盗賊も寝入る時間になると、二人は行動を開始した。


「そろそろいい頃かな。ティート、わかってると思うけど一人も生きて帰しちゃだめよ」


「りょ~かい~。ふふ、初めての戦闘ってなんだか緊張するね」


「私は戦闘自体は初めてじゃないけど、『この身体』になってからは初めてかな。すごくわくわくする」


 盗賊との戦闘を前にして、ルーフィは身体の内側から高揚感が湧き上がってくるのを感じた。盗賊を逃さないために、ルーフィたちは二手に別れ、ルーフィは正面、ティートは裏口から内部に侵入することにした。

 ティートと別れたルーフィは砦の正門のすぐ近くまで来る。


 正門は空いていたが、門の脇には盗賊が二人立っていた。松明の明かりに照らされながら、眠そうな顔をして見張りをしている。ルーフィは背中から触手を二本生やすと、目にも止まらぬ速さで盗賊たちの胸に触手を突き立てる。


「がっ……」


「ごほっ……」


 胸を貫かれた盗賊たちはその場に崩れ落ちる。ルーフィは木の影から出て、門から砦の中へと入った。中では何人かの盗賊たちが周りを巡回しているのが見えた。ルーフィは気づかれないように建物の影へと潜む。巡回中の一人の盗賊が近づいてくると、ルーフィは素早く影から出て盗賊の胸に自分の手を押し当てる。次の瞬間、ルーフィの手から触手が飛び出し、盗賊の胸を貫いた。盗賊はその場に倒れる。ルーフィはすぐに倒れた盗賊の体を引きずり、建物の裏へと隠した。


 ルーフィは同じような手口で次々と付近の巡回中の盗賊を片付けていった。そして、気がつけば建物の外部にいた盗賊は全滅していた。


(後は建物の中にいる盗賊だけね。ティートの姿が見えないけど、建物内にいるのかな?)


 ルーフィがそう思っていると、不意に砦の入り口の方から声がした。急いで入り口の方へと戻ると、そこでは盗賊三人がかなり驚いた様子で門の見張りの盗賊たちの死体を見ていた。どうやらその盗賊たちはたまたま外に出かけていて、ちょうど今戻ってきた盗賊のようだった。


「お、おいどうなってやがる……。だ、誰がやったんだよ……」


「お、俺が知るかよ……」


「胸を正確に一突きにされている……。やべぇぞこいつは……」


 盗賊たちが怯えた様子で会話をしていると、ルーフィはその前に自身の姿を現した。姿を現すことなく闇討ちすることも可能だったが、ルーフィは少し『遊んで』みたくなったのだった。盗賊たちはルーフィの姿を確認すると、驚きつつもすぐに武器を構えて大きな声で言った。


「な、なんだてめぇは!?」


「!! お、おい、服を見ろ! 血がついてる!」


「何!? じゃあこいつがやったってのか!?」


 盗賊たちが武器を構えながら口々に言った。心なしか全員身体が震えているように見える。


「その通り。私がやったわ。でも安心して? 貴方たちもすぐに同じようにしてあげるから」


 血まみれの服を纏いながらルーフィは笑みを浮かべて言った。


「くッ!! てめぇええええ!!」


 盗賊の一人がルーフィに向かって駆け出し、ルーフィに剣を振り下ろす。ルーフィはそれを後ろに一歩引くことで躱した。しかし、剣の切っ先はルーフィの服を切り裂き、ルーフィの胸元が露わになる。しかし、ルーフィは気にすることなく「ふふっ……」と呟いた。


「ちっ、かわしやがったか。だが、次はねぇぞ。おい、お前ら合図したら一斉にこいつに斬りかかれ!」


 盗賊が他の二人にそう言うと、他の二人は頷き、ルーフィにジリジリと近づいていてくる。


「――今だ!!」


 盗賊がそう叫ぶと、三人は一斉にルーフィへと切りかかった。しかし、そのときルーフィの胸元が縦に裂け『眼』が開いた。その大きな瞳が盗賊たちを見た瞬間、盗賊たちの動きが止まる。盗賊たちは身体を震わせて一歩も動くことができないでいた。


「ふふっ、私の【蝕眼】に魅入られた者は一切動くことができない」


 ルーフィはそう言った。ルーフィは事前に自分の胸元の眼についてヴァイスに聞いており、それが【蝕眼】という特殊な能力を持った眼であることを知っていたのだった。ルーフィは背中から触手を三つ生やすと、恐怖で顔を歪ませている盗賊たちの前でうねうねと空中に漂わせる。


「ねぇ、見てこの触手。とっても可愛いでしょ? 私の思い通りに動くのよ。それで今からこの触手で貴方たちの胸を貫くの。……やめて欲しい?」


 ルーフィは妖艶な笑みを浮かべてそう問いかける。しかし、【蝕眼】に魅入られ一切行動ができない盗賊たちは声を発して答えることすらできなかった。


「ふぅん、答えなしか。それなら仕方がないわね」


 ルーフィがそう言うと、触手は一斉に盗賊たちへと向かいその胸を貫く。


「がっ……」


「ぐっ……」


「ごっ……」


 盗賊たちは口から血を流してその場に倒れる。ルーフィは微かに笑うと、触手を引っ込め、盗賊たちに背を向けた。ルーフィは砦の内部へと戻ると、近くにあった倉庫のような建物に目をつけ、静かにその中へと入る。ルーフィは倉庫内に誰かいないか調べ、誰もいないことを確認すると外へと出た。すると、ちょうど奥の建物から出てきたティートと目が合った。ルーフィは静かにティートのもとへと歩み寄った。


「ティート、そっちはどう? 私は一応外の敵は全員やったと思うわ」


「えーとね、私は裏口から入ってすぐのところにあった建物に入ったけどね、盗賊の宿舎だったみたいで、みんな寝てたよ。だからみんな殺っておいた。あとこの建物は食糧庫みたいで中には誰もいなかったよ」


 ティートはそう答える。ティートの服もルーフィ同様血まみれだった。


「となると、残るはあの建物だけね」


 ルーフィはそう言って中央広場の近くにある建物を見た。シスターが捕らわれているのもあの建物で間違いないだろうとルーフィは思った。



 ルーフィはティートと一緒に静かに建物の中へと入る。中では廊下に沿って三つの牢屋が並んでいた。廊下の奥の椅子には見張りと思われる盗賊が一人座っていたが、壁に寄りかかって眠っていた。ティートが小声で「私がやるね」とルーフィに言うと、ティートは静かに眠っている盗賊へと近づいていく。


 盗賊のすぐそばまで来ると、ティートは静かに右腕を鋭利な刃へと変え、盗賊の首を掻き切った。盗賊は目を開け、首を両手で押さえて口をぱくぱくさせるがすぐに動かなくなった。ティートは盗賊が死んだのを確認すると、ルーフィに親指を立てて得意げな顔をした。ルーフィはやれやれと言った顔でティートの元へ行く。


「シスターならそこだね」


 ティートはそう言ってそばの牢の中を指差す。中には若いシスターが三人捕らわれていた。みんな身体を寄り添うにして縮こまり、寝入っている。服は汚れ、ところどころが切り裂かれていた。中には下着を露出させていたシスターもいた。ルーフィはそれを見て盗賊に乱暴されたのかもしれないと思った。


「こんな目にあってかわいそうに……。すぐに出してあげるからね……」


 ルーフィはシスターたちを見てそう呟く。


「はい、鍵あったよ」


 ティートがそう言って見張りの盗賊が持っていた鍵をルーフィに渡した。ルーフィは静かに鍵を開け、シスターたちへと近寄る。


「……さぁ、私たちと『一緒になって』からここを出ましょうね」


 ルーフィはそう言うと背中から三本の触手を生やした。触手の先端は割れてヒトデのように開き、粘液のようなものを垂らしている。ルーフィはその触手を三人のシスターのそれぞれの口へと一気に押し当てた。触手はシスターの口にへばり付き、中から管のようなものをシスターの口内へと侵入させる。


 異変に気づいたシスターたちは目を覚ますが、何がなんだかわからないうちに触手は管を通して寄生体をシスターの体内へと入れた。寄生体はすぐにシスターの身体を侵蝕し、急速にシスターと同化していった。シスターたちは目を半白目のようにし、身体をビクンビクンと痙攣させて意識を失う。


――そして、しばらくするとシスターたちは目を覚ました。シスターたちの目には爛々とした光が宿っていた。それは紛れもなくシスターたちが寄生生物になった証拠だった。ルーフィはそんなシスターたちを恍惚とした表情で眺めていた。寄生生物にとって他の生物を自分たちと同じ寄生生物にするのは、とても快感を覚えることなのだ。


 こうしてルーフィとティートは盗賊団を全滅させ、シスターたちを救い出した。その後、このシスターたちは修道院に戻ると同じように『仲間』を増やしていくのだが、それはまた別の話である――


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