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第13話 リリカの運命

 ヴァイスはリリカに付き添いつつ、長い時間をかけて宿まで戻った。リリカは片足がないということもあり、普通の人間よりも歩行には時間がかかったのだった。


 宿に着くと、ヴァイスが泊まっている部屋は二階にあるため、リリカは宿の階段を昇る必要があった。しかし、片手と片足がないリリカには、杖を使っても自力で急な宿屋の階段を昇るのは不可能に近かった。


「…………」


 どうしたらいいかわからないという泣きそうな顔でリリカはヴァイスを見る。ヴァイスはやれやれといった顔をしつつ、リリカをおんぶして階段を昇った。リリカの体重は想像以上に軽かった。これじゃあどちらが奴隷かわからないなとヴァイスは思った。


 リリカを部屋まで運んで来ると、ヴァイスはリリカに入浴するように言った。傍から見てもリリカは明らかに薄汚れていたのだ。奴隷商人がリリカをあまりよく扱っていなかったのは明らかだった。


 リリカはヴァイスの指示に頷くと、よろよろとシャワー室まで杖をついて行った。栓をひねり、シャワーを浴びる音が聞こえると、ヴァイスは自身の服のストックからリリカ用の新しい下着と服を錬成する。そして、ヴァイスはさらに市場で買ってきた材料を使ってリリカ用のポーションを錬成した。リリカの体調は明らかに優れていないようなので、ポーションを服用させることで実験に耐えうる万全の体調に持っていきたいとヴァイスは考えたのだった。


 ヴァイスがポーションを錬成していると、どしんという音がシャワー室から響いた。何かあったのかと思い、すぐに様子を見に行くと、リリカが全裸で床に倒れていた。


「リリカ! どうした!?」


 ヴァイスはリリカを抱き起こしてそう言った、


「…………こ…………ろ…………ん…………だ…………」


 リリカはそう呟いた。ヴァイスはそれを聞いて「はぁ……」とため息をつくと、リリカを抱き起こした。


「気をつけろよ。あとバスタオルと服はここに置いておくから」


 ヴァイスはそう言って、新しいバスタオルと下着と服を置いてシャワー室から部屋へと戻った。……数分後、服を着たリリカが杖をつきながら部屋へと戻ってきた。シャワーを浴びる前と比べると、汚れが落ちてかなりきれいになっていた。ウェーブがかかったリリカの金髪もさっぱりとして元の輝きを取り戻していた。


 ヴァイスは部屋の中央にあるテーブルに備え付けられた椅子に座っていて、リリカを見るとテーブルを挟んで自身の向かい側にある椅子を座るように言った。リリカはヴァイスの指示に従って無言で椅子へと座る。


「あまり調子はよくなさそうだな」


 ヴァイスはそうリリカに向かって言った。リリカは何と答えたらわからないのか、無言のままだった。


「実験は体調が万全の状態で行うのが望ましいんだ。だから、お前にはこれから三日間、毎日これを飲んでもらう」


 ヴァイスはそう言って、既にテーブルの上に置いてあったヴァイス特製リリカ用ポーションを取ってリリカへと渡した。リリカはポーションを手に取り、どうしたらいいかわからないという顔でヴァイスを見る。


「どうぞ、飲んで」


 ヴァイスがそう言うと、リリカは恐る恐るポーションの中の液体を口にした。液体はとても苦く、リリカは途中で何度も吐き出しそうになったが、それでもリリカは特製ポーションを全て飲み干した。


「良薬は口に苦しってな。まぁ心配するな。これでも俺は『元』王国最高の錬金術師だ」


 ヴァイスはそう言って笑みを浮かべた。



 それから三日間、ヴァイスは昼間は市場に赴き、自身が精製したポーションを販売したりポーションの材料を調達したりした。そして、日が暮れる頃になると宿へと戻った。宿ではリリカが「お……か……え……り……な……さ……い……。ご……しゅ……じん……さ……ま……」と言ってヴァイスを出迎えた。


 リリカは誰かの奴隷となるのは初めてのことだったが、すぐに自分の処遇を理解し、それに相応しい行動を取った。そういった習性は孤児院や奴隷商人のもとでの生活を経て身につけたものだった。


 リリカはこの世界では自分は他人に頼らないと生きていけないことを知っていた。だから、頑張って自分の面倒を見てくれる人間に誠心誠意尽くそうと意識していたのだった。身体が不自由なリリカにできることはあまりなかったが、部屋の掃除や衣服の洗濯ぐらいはリリカでもかろうじてすることができた。


 ヴァイスはリリカと夕食を取ると、リリカにリリカ用のポーションを飲ませ、さらに他の販売用のポーションの錬成をした。リリカは静かにヴァイスがポーションを錬成するのを見ていたが、ヴァイスに「……いや、気が散るんだが。ほら本でも買ってきたから読んでるといい」と言われ、渋々本を読むことにした。しかし、その本はとても面白く、リリカはすぐ夢中になって読んだのだった。



 三日後、ヴァイスはいつものようにポーションを市場で販売し、かなりの金を得て宿に戻ってきた。リリカも最初に会ったときと比べると、だいぶ体調が良さそうだった。


(……そろそろ始めてもよさそうだな)


 この日、ヴァイスはリリカの体調が良さそうなことから、リリカを使って寄生生物の実験をすることに決めたのだった。ヴァイスはリリカといつものように夕食を取ったあと、部屋の内鍵をかけ、さらに部屋自体を錬成することで完全防音の部屋へと変える。リリカは何事があったのかと困惑した顔でヴァイスを見た。


「リリカよ、そろそろ体調も回復した頃だろう? よって今日から実験を始めることとする。……まずは服を脱いでくれるか?」


 ヴァイスがそう言うと、リリカは少し悲しそうな顔をしておずおずと服を脱ぎ、一糸まとわぬ姿へとなった。リリカはきっと主人であるヴァイスが自分に乱暴するのだろうと思ったが、それは全くの思い違いだった。


 ヴァイスは裸のリリカを特に気に留めることなく、懐から小さな瓶を取り出し、中に入っていた小さな肉塊のような寄生体をテーブルの上へと出した。その小さな寄生体は外に出されると、すぐに細胞分裂を始め、手のこぶし大の大きさまでに成長した。


 ヴァイスがそれを手に取ると、その寄生体はヒトデのように六本の足を広げた。寄生体の裏側は口のようになっており、多くの触手が蠢いていた。リリカはそれを見て「ひっ」と悲鳴を上げた。リリカの顔は恐怖で歪んでいた。


「くく、こいつは寄生体というものでな。他の生物に寄生、同化してその生物を寄生生物へと変える性質があるんだ。今からお前にはこの寄生体に寄生されてもらう。そうすればお前の手足は再生するし、病もすぐに治るだろう」


 ヴァイスはそう言ってリリカににじり寄る。リリカはいやいやと首を振ると、バランスを崩して尻もちをついた。


「そう怖がることはない。別にお前を取って食ったりはしないぞ」


 ヴァイスはそう言って、手に持った寄生体を徐々にリリカの身体へと近づけていく。


「い…………や…………」


 リリカはそう言って目を背けるかのように片手で顔を覆った。しかし、ヴァイスの狙いはリリカの顔ではなかった。


――ヴァイスは寄生体をリリカの小ぶりな胸の谷間へと押し付けた。すると、寄生体はすぐにリリカのやわらかな肌にへばりつき、自身の六つの足をリリカの胸へと突き刺した。


「う…………あ…………」


 寄生体の足はリリカの体内に入ると、周りの細胞と同化し癒着していく。


「あ…………あ…………」


 リリカは何が起こっているのかわからないといった顔で寄生体に取り付かれている自身の胸を見た。寄生体はドクンドクンと脈打ち、自分の身体に何かを送り込んでいるかのようだった。


「よし、寄生成功だな……。それじゃあ、リリカには少し早いけど今日はこのまま休んでもらおう」


 ヴァイスがそう言うと、ヴァイスの意思を読み取った寄生体は睡眠作用のある物質をリリカの体内に放出する。それはすぐにリリカの脳まで達し、リリカは強烈な睡魔に襲われた。


「おやすみ、リリカ。きっといい夢が見られるだろう」


 ヴァイスがそう言って不敵な笑みを浮かべるのを見ると、リリカはそのまま意識を失った。ヴァイスはリリカが眠ったのを確認すると、リリカの胸で脈打っている寄生体を観察し始めた。


「ふむ、俺の目論見どおり、同化はゆっくりとやっているようだな。その調子で頼むぞ」


 ヴァイスはそう言って寄生体へと話しかけた。寄生体が答えることはなかったが、寄生体はヴァイスの意思を汲み取り、非常にゆっくりとリリカへの侵蝕と同化を行っていた。


 今回のヴァイスの目的は、寄生生物による人体への同化が非常にゆっくりな場合、どのようなことが起きるのかを確かめることにあった。通常のケースであれば、寄生体に寄生された人間はすぐに寄生生物へと変わってしまうが、ヴァイスはその変化の『過程』が見たかったのである。加えて、ヴァイスはリリカが徐々に自分が寄生生物に変わっていくという状況を目のあたりにしたとき、どう反応するのかにも興味があった。


(ふふ、リリカの反応が楽しみだ。きっと相当驚くだろうな)


 ヴァイスはそう思って薄ら笑いを浮かべながら、すやすやと眠っているリリカをベッドへと運んだ。


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