【第9話:ダサい伝統、ウチらが上書きしてあげる】
格式だけが取り柄の「大旅籠」から理不尽な圧力が到来!
中小旅籠をイジめるダサい大人たちに対し、ギャル女将が「ウチらが上書きしてあげる!」と最高の啖呵を切ります。
第2のスカッと解決回へ!
「……ねえ、佐助。今日の仕入れ、なんか少なくない?」
おじいちゃんの旅籠の勝手口で、私は木箱の中を覗き込みながら眉をひそめた。
ウチの旅籠は、盛り髪と可愛い制服のバズりで連日満員御礼。街道一の人気スポットになりかけていた。
それなのに、今日届いた野菜や魚は、いつもの半分にも満たない量だった。
「それが……お咲様。宿場の物流を握る問屋場の奴らも、地元の百姓たちも、急に『お前さんのところへ回せる品はねえ』って、まともに取り合ってくれねぇんでさぁ」
「は? 何それ、マジ意味不なんだけど。ウチらちゃんとお金払ってるじゃん」
私が腰に手を当てて憤慨していると、表の格子戸がガラガラと大きな音を立てて引き開けられた。
入ってきたのは、上質な絹の着物を着た、いかにも性格の悪そうな男だった。
顎を突き出し、ウチのピカピカになった館内を鼻で笑いながら見下している。
「宿場を束ねる大旅籠『大文字屋』の主であり、本陣を預かる藤右衛門様よりの伝言だ」
「ひっ、本陣の……藤右衛門様の使いの方……⁉」
帳場から飛び出してきたおじいちゃんが、その男の姿を見た瞬間に顔を真っ白にして震え上がった。
「おじじ、誰それ。大宿のボス?」
「お咲、声を落とせ! この宿場町で圧倒的な権力を持つ、一番格の高い本陣の主様だよ……! あの方に睨まれたら、この街道筋では生きていけん……!」
使いの男は、怯えるおじいちゃんを冷酷な目で見下すと、懐から一通の書状を取り出して見せびらかした。
「我が大文字屋の藤右衛門様は、貴殿らのやり方に大変お怒りである! お上の定めにない勝手な『交代働き』だの、品格を欠いた『盛り髪』だの、宿場町の伝統を汚す品がない行為だ、とな! 新参の分際で調子に乗るのも大概にせよ、との仰せだ」
「はぁ? 品がないって、ウチらのどこがわけ? みんなハッピーに働いて、お客さんも超喜んでんじゃん!」
私が一歩前に踏み出すと、男はフンと鼻を鳴らした。
「黙れ、小娘! すでに周囲の小旅籠には触れ回ってある。我が本陣に逆らう愚か者とは、一切の関わりを持つな、とな。今頃、お前たちが睦まじくしておった近隣の者どもも、全員そっぽを向いている頃合いよ」
男の言う通りだった。
ここ数日、あんなに仲の良かった近所の茶屋の親父も、他の小旅籠のオヤジたちも、ウチのスタッフと目を合わせようとせず、距離を置き始めていたのだ。
宿場町での圧倒的な優位性を利用した、有形無形の圧力。
「大旦那、このままではここで商売ができなくなるぞ? 身の程を知り、今すぐそのくだらん改革とやらをすべてやめ、我が大文字屋の軍門に下るがいい」
「あ、ああ……藤右衛門様、どうかお許しを……。うちはもう、どうすれば……」
おじいちゃんはその場に崩れ落ち、頭を抱えてガタガタと震え出した。
きよや佐助たち従業員も、巨大な権力の恐怖に、再びあの暗い死んだ目を引き戻されそうになっている。
重苦しい絶望が土間に立ち込める、緊迫する現場。
だが、私は怯えるどころか、冷ややかな、けれど最高に不敵なウインクをその使いの男に送りつけた。
「あー、おじさん。それ、ぜーんぜん響かないんだけど」
「な、何だと……⁉」
「格式とか伝統とか偉そうに言ってるけどさ、高いお金取っておいて、お客さんを心から楽しませられないなら、そんなのただの古くてダサい伝統じゃん。そんなカビの生えたルール、ウチらが最高のバイブスで上書きしてあげるから、黙って見てなよ!」
薄暗い土間じゅうに響き渡るような、ギャル女将の堂々たる宣戦布告。
真正面から本陣のプライドをロジカルに全否定され、使いの男は言葉を失い、その白面を一転して茹で蛸のように真っ赤に怒張させて激昂した。
「お、おのれ……! そこまで言うなら、二度と宿場の問屋場から食材一枚、米一粒すら仕入れられると思うなよ! 飢え死にするがいい!」
男は激しく格子戸を叩きつけて去っていった。
静まり返る土間。差し込んでいた日の光さえ、どこか冷たく感じられるほど、旅籠の中に重い空気が立ち込めていた。
「お咲さん……本当に、食材の仕入れが止まってしまいました……」
夕方前、様子を見に向かった佐助が、空っぽの籠を抱えて戻ってきた。顔は青ざめ、悔しさに唇を噛んでいる。
大文字屋側は激怒し、ウチの旅籠を完全に叩き潰すため、主要な流通をすべて買い占めるという卑劣な嫌がらせを仕掛けてきたのだ。
「厨房の棚も、すっかり閑散としております。これでは、今日お泊まりのお客人に御膳が出せません……」
料理長も頭を抱えて座り込んでしまった。
「やっぱり、本陣には勝てなかったんだ」
従業員たちの間に、再び諦めの波が広がりかける。
「みんな、何しけた面してんの?」
私は腰に手を当て、とびきり眩しい笑顔をみんなに向けた。
「え……? でも、食材がないんですよ……?」
「ヤバっ。食材がないなら、今あるもので一番アガるもの作ればよくね? ウチらの辞書に『引く』って言葉はないから! ねえ、倉庫に何か余ってない?」
「倉庫……ですか? ううむ、買い手がつかずに大量に余っている『大豆』なら山ほどありますが、そんなもの、客の御膳には……」
料理長が弱々しく答える。
「大豆? 最高じゃん! おじいちゃん、確かハチミツも大切に保管してあったよね?」
「え? あ、ああ、去年のものが少しあるが……」
「よし、勝負はこっから! 大宿のダサい大人たちに、ウチらの本物のクリエイティブ、見せつけてあげよ!」
私のその一言に、きよや佐助たちの目に、消えかけていた光が再びカチッと灯った。
食材買い占めという絶体絶命のピンチを前に、新米ギャル女将の、江戸時代初の『神スイーツ』を引っ提げた最強のリベンジが、今ここから始まろうとしていた。
啖呵は切ったものの、大旅籠の権力による「食材の買い占め」が発生。
嫌がらせで料理が作れない大ピンチですが、ギャルは「余り物」を使ってとんでもない新メニューを開発しちゃいます!




