【第8話:デコ髪飾りと盛り髪で街の主役じゃん!】
旅籠のホワイト化の次は、ビジュアル改革!
地味な着物をギャル流にリメイクし、デコ髪飾りと盛り髪で従業員たちを激変させちゃいます。
女の子が自分の「可愛い」に気づいて輝く瞬間は最高です!
「お咲さん、これ……本当にウチが着ていいんですか?」
きよが、自分の胸元を隠すようにして、オドオドと私を見つめた。
お堅い問屋場役人の桑原のおじさんを完全攻略し、旅籠の経営もすっかり軌道に乗り始めた今日この頃。
私の「アゲアゲ改革」は、まだまだ終わる気配を見せていなかった。
「何言ってんの! 仕事に慣れてきたら、次は見た目も可愛くしちゃうのが現場の鉄則っしょ!」
私は腰に手を当て、満面の笑みで胸を張った。
土間に広げられているのは、飯盛女たちの制服である着物だ。
これまでは泥茶色だの薄墨色だの、地味で古臭くてどんよりした色ばかりだったけれど、今のそれは完全に別物へと生まれ変わっていた。
「お、お咲……。これは流石にやりすぎじゃないかい? 帯がなんだか、お祭りでも見たことない結び方になっておるぞ。おまけにその、端っこのひらひらした布は一体……」
帳場から首を伸ばしたおじいちゃんが、見たこともない物を見る目で着物を凝視している。
「これ? 地味な帯の結び方をアレンジして、余った端切れでフリルとリボン風の装飾を付けたわけ! 江戸の伝統のシルエットに、現代のギャルのエッセンスをちょっとプラスするだけで、ほら、こんなにアガるデザインになるじゃん!」
「ふ、ふりる……りぼん……?」
おじいちゃんが呪文を唱えられたかのようにポカンと口を開ける。
私は構わず、きよの腕を引っ張って鏡の前に座らせた。
「よし、きよ。ちょっとじっとしててね。ウチの技術、ガッツリ叩き込んであげるから」
「は、はい……。でも、こんな派手な格好、本当にお国に怒られませんか? 桑原様は許してくださっても、他のお役人様が……」
「大丈夫だって! 怒られたらウチがまた『それな!』って言って黙らせるから。それより見て、これプレゼント!」
私がきよの目の前に差し出したのは、昨日、夜なべして手作りしたオリジナルの『デコ髪飾り』だった。
ただのべっ甲の簪や櫛じゃない。
拾ってきた綺麗な貝殻を細かく砕いて散りばめ、カラフルな組み紐の端切れを何層にも重ねて、キラキラした現代のデコパーツ風に仕上げた特製品だ。
「わぁ……! 綺麗……。お咲さん、これ、本当に手作りなんですか?」
「そうだよ! これを、こうやって……」
私はきよの黒髪に櫛を入れ、手際よく髪を上にすくい上げていく。
当時の娘たちの髪型は、後ろでただ結んだだけの唐輪などが主流で、お洒落のバリエーションなんてほとんどなかったけれど、私が施したのは、髪の根元をふんわりと逆立ててボリュームを持たせた、華やかな『盛り髪』だった。
トップにたっぷりとした丸みを持たせ、仕上げに手作りのデコ髪飾りをバチンと差し込む。
「よし、できた! きよ、目開けてみなよ!」
きよが恐る恐る、鏡立てに置かれた小さな青銅の和鏡の中を覗き込んだ。
その瞬間、彼女の細い肩がビクッと大きく跳ね上がった。
「――っ⁉ これ、本当にウチ……ですか……?」
曇った鏡の向こうにいたのは、さっきまでの地味で目立たない飯盛女の娘ではなかった。
フリルとリボンが甘く揺れる新しい着物に身を包み、頭上には見たこともないほど華やかで愛らしい盛り髪と、キラキラ輝くデコ髪飾り。
自分の「可愛い」をこれでもかと引き出された彼女の瞳は、まるで夜空の星のように輝いていた。
「ヤバっ! きよ、マジで街の主役じゃん! 超かわちいんだけど!」
「ちょ……かわちい……? あ、ありがとうございます、女将さん……!」
きよの顔が、一瞬にして林檎のように真っ赤に染まる。
けれど、その唇は、これまでに見たことがないほど大きな、心からの喜びの笑顔を描いていた。
「な、何だそれは! お咲、俺たちもそれ着ていいのか⁉」
襖の陰から様子を覗いていた他の飯盛女の娘たちが、我先にと部屋になだれ込んできた。
彼女たちの顔には、かつて旅籠がブラックだった頃のあの怯えや疲労の色は微塵もなかった。
「もちろん! 全員まとめて最強に可愛くしてあげるから、そこに並びな!」
それからの数時間、旅籠の中はまるで最新のヘアメイクサロンのような大騒ぎになった。
全員の髪を盛り、デコ髪飾りを付け、アレンジされた可愛い制服をまとう。
鏡を見るたびに、娘たちの間で「ヤバい!」「超かわいい!」と歓声が上がり、彼女たちのモチベーションと笑顔は完全に限界突破していた。
「よし、みんな! その最高のバイブスでお客さんをお出迎えしよ!」
「「「はいっ、女将さん!」」」
新しく生まれ変わった可愛い制服で、盛り髪を揺らした娘たちが接客を始めると、旅籠の空気は一変した。
これまではただ「部屋と飯を提供する場所」だった小宿が、一瞬にして華やかで、そこにいるだけでテンションが上がる最高のエンターテインメント空間へと変貌を遂げたのだ。
「いらっしゃいませー! ゆっくりしていってくださいね!」
きよたちが明るくハキハキと、まばゆいばかりの笑顔で旅人たちを迎える。
その効果は、すぐに宿場町中に大きな波紋を広げた。
「おい、聞いたか? あそこのボロ宿の娘たちが、見違えるほど美しくなったって噂だぞ」
「着物も髪型も、見たこともないほどお洒落で、まるでお姫様のようだ」
「挨拶されるだけで、旅の疲れが吹き飛ぶくらい元気がもらえるんだ!」
街道を往来する旅人や馬喰、飛脚たちの口伝えを通じて、旅籠の噂は瞬く間に街道筋へ拡散していった。
宿へやってくる客の数は日に日に増え、今や一躍、この宿場町で一番『浮世の最先端』を行くお洒落な大繁盛店となっていた。
「ほらね、おじいちゃん。女の子は『可愛い』を手に入れたら、どこまでも無敵になれるの。これがウチの現場のバイブスだから!」
私は土間で忙しそうに動き回る娘たちを眺めながら、腰に手を当てて満足げに頷いた。
おじいちゃんも帳場で忙しく算盤を弾きながら、「お前には本当に驚かされてばかりじゃ……」と、嬉し泣きを堪えるように目を細めている。
かつての地獄が、完全にハッピーな場所に上書きされた。
そう確信し、私がきよたちに向かって手を振ろうとした、その時だった。
旅籠の賑やかな喧騒の外、夕暮れに染まる表の街道の角から、こちらをじっと見つめる視線があることに気づいた。
立派な黒塗りの門を構えた、隣の格式高い「大宿」の奉公人たち。
その奥で、上質な絹の着物を着た大宿の主・藤右衛門が、腕を組みながら、ウチの旅籠の大繁盛をこれ以上ないほど苦々しく、冷酷な眼光で見つめていたのだ。
「……ふん。新参の分際で、調子に乗りおって」
男の低い呟きは、楽しげな娘たちの笑い声にかき消されて、私にまでは届かない。しかし、その男の背後に漂う、どす黒い嫉妬と悪意の影。
「ヤバっ。なんか、ウチらのアゲアゲな波を邪魔しそうな、ダサい大人の気配が近づいてるんだけど?」
私はフッとウインクを消し、冷酷に睨みつけてくる隣の大宿の影に向けて、不敵な笑みを浮かべ直した。宿場町を揺るがす、次なる大きな嵐が、すぐそこまで迫りつつあった。
みんなとっても可愛くなりました!
しかし、目立ちすぎたせいで、ついに宿場町の大ボス(?)が動きます。
次回、隣の格式高い「大旅籠」から、理不尽すぎる圧力がかかって大ピンチに!?




