【第10話:余り物の大豆とハチミツで神スイーツ爆誕】
食材を買い占められて大ピンチの旅籠。
しかし、ギャル女将の現代知識とポジティブシンキングにより、余った大豆とハチミツから江戸時代初の「神スイーツ」が爆誕します!映えまくりの新メニューです。
「……料理長、マジでそんなお通夜みたいな顔しなくて大丈夫だって!」
私は腕を組み、どんよりとした空気が満ちる厨房の真ん中で声を張った。
まな板の上には何も乗っていない。棚を開けても、干からびた乾物が数個転がっているだけだ。
大文字屋の藤右衛門による食材の買い占め工作は、思った以上に徹底していた。本陣の権力を使って宿場の問屋場に圧力をかけ、ウチに回るはずの魚一匹、大根一本すら宿場町から完全に消し去っていたのだ。
「お咲様、そうは言われましても……これでは本日お泊まりの御客に食い物が出せませぬ。料理人として、俎板の前に立つことすらできぬとは、まさに職を解かれ、命を召し上げられたも同然でございます……」
料理長は包丁を握る手すら震わせ、床にへたり込みそうなほど肩を落としている。おじいちゃんも「やはり本陣様の権力には勝てなかったんじゃ……」と帳場の隅で頭を抱えていた。きよも佐助も、必死で涙を堪えるように俯いている。
「はぁー、もう。みんなして、そんなに大文字屋の嫌がらせが怖いの? ウチに言わせれば、そんなコソコソした裏工作、マジでダサすぎてウケるんだけど」
「お、お咲さん……でも、本当に出せる食材が何もないのです」
きよが泣きそうな声で私を見上げる。その健気な姿を見て、私のギャル魂がふつふつと燃え上がった。ピンチ? 上等じゃん。
「ヤバっ。食材がないなら、今あるもので一番アガるもの作ればよくね? ねえ料理長、倉庫に大量に余ってるって言ってた『大豆』、今すぐ全部持ってきて!」
「は、はい? 大豆でございますか? しかし、あれは買い手がつかずに埃を被っているもので……。あんなもので何を作るというのです」
「いいから持ってきて! あとおじいちゃん、大事に保管してた『ハチミツ』も出しちゃって!」
「え? あ、ああ、去年の極上のものがひと壺あるが……」
私がテキパキと指示を飛ばすと、料理長と下男の佐助が慌てて倉庫から重い木箱を運び込んできた。
中には、丸々と太った乾燥大豆がぎっしりと詰まっている。
「よし、こっからがウチの本気のクリエイティブだから! 料理長、まずはこの大豆を炒って、すり鉢で限界まで細かく挽いて粉にして!」
「炒って粉に……? それは『きな粉』のようになりますが、それが一体……」
「いいから早く! 佐助は別の大豆を水に浸して、すり潰して絞って! 汁だけを綺麗に集めるの!」
「は、はいっ!」
私の圧倒的なバイブスに押され、厨房の空気は一瞬にして戦場へと切り替わった。
料理長が猛烈な勢いで大豆を炒り始めると、香ばしい、どこか懐かしい香りがふわりと広がり出す。
佐助も汗だくになりながら大豆を絞り、真っ白で濃厚な『豆乳』を作り上げた。
「そうそう、その調子! じゃあ、ウチの現代のスイーツ知識、ガッツリ形にしちゃうよ!」
私は腕捲りをし、おじいちゃんが持ってきたハチミツの壺を開けた。
黄金色に輝く濃厚な蜜。これを、温めた濃厚な豆乳に少しずつ混ぜ込んでいく。
さらに、葛粉を使ってとろみをつけ、汲みたての冷たい井戸水に器ごと浸して冷やすことで、ぷるぷるの特製豆乳プリンをベースとして完成させた。
「お咲さん、これ……真っ白で、凄く甘くて良い匂いがします」
きよが目を輝かせて鍋の中を覗き込む。
「まだ終わってないから! 盛り付けの『映え』を意識しなきゃ、ウチらの勝ちにはならないの。料理長、うちの蔵に、長崎の商人から貰ったっていうガラスの器、眠ってなかった?」
「ギヤマンの器でございますか? 確かにございますが、滅多に使わぬ家宝のようなもので……」
「今使わなきゃ、いつ使うわけ! 持ってきて!」
運ばれてきた透明なガラスの器。そこに、私は層を作るようにして食材を盛り付けていった。
一番下には、大豆の絞りかす(おから)をハチミツでカリカリに炒った特製クランチ。その上にぷるぷるの豆乳プリンを乗せ、さらにその上から、料理長が挽いたばかりの香ばしすぎるきな粉をどっさりと振りかける。
仕上げに、ハチミツを贅沢にとろりと回しかけ、ミントの代わりに裏庭で採れた爽やかな薬草の葉をちょこんと添えた。
「よっしゃ! 江戸時代初の『神スイーツ・大豆とハチミツの和風パフェ』、ここに爆誕!」
ガラスの器の中で、白、茶、黄金色、そして緑が美しい層を成している。
日の光を浴びてキラキラと輝くその姿は、色彩のなかった江戸初期の料理からは、天地がひっくり返っても想像できないほど華やかで、愛らしい佇まいを誇っていた。
「……な、何ですかこれは……」
きよが両手を口元に当てて絶句している。料理長も包丁を持ったまま、その美しさに言葉を失っていた。
「みんな、見惚れてないで試食しなよ! ほら、その竹ヘラで下からガッツリいっちゃって!」
私が竹で作ったヘラを手渡すと、きよが恐る恐る、層を崩すようにして一口分をすくい、口へと運んだ。一噛みした瞬間、きよの身体がビクッと大きく震えた。
「――っ⁉ あ、甘い……! 冷たくて、ぷるぷるしていて……お口の中で、香ばしい大豆の香りと、ハチミツの優しい甘さが一気に広がります……! 何ですかこれ、めちゃくちゃ美味しいし、可愛いです!」
「どれ、俺にも……うおおっ⁉ なんだこれは! 大豆だけで、これほど濃厚で洗練された甘味が作れるというのか⁉ これまで培ってきた料理の仕来り(しきたり)が、根底からひっくり返ったぞ!」
料理長もヘラを握りしめたまま大興奮で叫び、佐助は「美味すぎる!」と涙を流して貪り食べている。
絶望に包まれていた厨房は、一瞬にして爆発的な歓声と、ハッピーな笑顔で満たされた。
「でしょ? 食材を買い占められたって、ウチらのクリエイティブな力があれば、余り物からだって最高の価値を生み出せるわけ。これがウチの現場の底力だから!」
私は腰に手を当て、とびきり眩しい笑顔をみんなに向けた。
大文字屋の藤右衛門が、どれほど卑劣な裏工作を仕掛けてこようとも、この『最強のリベンジ兵器』があれば、一瞬で上書きしてあげる。
ギヤマンの器の中で輝く盛り甘味は、まるで本陣の古臭い嫌がらせをあざ笑うかのように、圧倒的なオーラを放っていた。
「おじいちゃん、しけた面はもう終わり! 今日のお客さんには、この神スイーツをメインにした特製の御膳を出すよ!」
「あ、ああ……! お前は本当に、奇跡を起こす娘じゃな……!」
おじいちゃんが涙を拭いながら力強く頷く。きよも佐助も、最高のバイブスを取り戻し、目をギラギラと輝かせていた。
「よし、みんな! 大文字屋の鼻を明かしにいくよ! ウチらのアゲアゲな大逆転劇、こっから開始しちゃお!」
「「「おおっーーー!」」」
厨房に響き渡る力強い声。
食材がないという最大のピンチをチャンスに変えた新米ギャル女将の、宿場町中を巻き込む驚天動地のリベンジが、いよいよ本格的に幕を開けるのだった。
試食したスタッフも大絶賛のスイーツ。
これを引っ提げて、次回ついに大旅籠へ向けて反撃開始です!
口コミの力で、宿場町の人の流れがとんでもないことになっていきます!




