【第11話:おじいちゃんの旅籠が一番アガるって噂】
口コミの力は江戸時代でも最強!
ギャル女将のプロデュースしたスイーツとホワイトな接客により、客足が大旅籠から逆流して大行列が作られます。
痛快な逆転劇をどうぞ見届けてください!
「……お咲さん、本当に表の街道まで行列が続いております! もう、どこまでが終わりか分からないくらいです!」
きよが、新しく結い上げた若々しい髷を揺らしながら、興奮で顔を真っ赤にして厨房へ飛び込んできた。
手作りでこしらえた素朴な水引の髪飾りが、彼女の弾けるような笑顔に合わせてキラキラと眩しく揺れている。
大文字屋の藤右衛門による卑劣な食材買い占め工作。
それを、倉庫に眠っていた大量の大豆とハチミツを組み合わせた、江戸の世に未だない神スイーツ『大豆とハチミツの和風パフェ』で迎え撃つと決めてから、わずか数日。旅籠の勝手口の外は、今や完全にお祭り騒ぎと化していた。
「でしょ? 言ったじゃん、女の子の可愛いと、ウチらのクリエイティブが合わされば、どんな嫌がらせだって秒で上書きできるって!」
私は腰に手を当て、とびきり眩しい笑顔できよの肩をぽんと叩いた。
「おい、佐助! ギヤマンの器、しっかり冷えた水で洗えているんだろうね⁉」
「へいっ! 井戸水でこれでもかってくらい冷やして待っておりやす、女将さん! 大豆のクランチってやつも、料理長が神がかった手際で次々と煎り上げてくれてやすぜ!」
土間の奥では、下男の佐助が汗を拭いながらハキハキと声を張り上げていた。かつて過酷な労働環境に使い潰され、死んだような目をしていた彼らの姿は、どこにもない。
時間を区切って交代で休む働き方とおやつの休みで完全にバイブスをチャージした従業員たちは、誰もが身体を弾ませるようにして、活き活きと厨房と土間を駆け回っていた。
「料理長、きな粉の挽き具合、マジでネ申がかってる! その調子でガンガンいっちゃって!」
「お任せくだされ、女将さん! 食材を囲い込まれた時はどうなることかと思いましたが、まさか、誰も見向きもしなかった大豆が、これほど旅人を狂わせる至高の宝に化けるとは……。この包丁一本、職人としての腕の鳴り所というものです!」
料理長も、包丁を握る目にプロとしての誇りと、楽しげな輝きを宿らせていた。
限定メニューとして売り出したその盛り甘味の噂は、瞬く間に街道筋を駆け巡った。
「聞いたか? あそこの小旅籠で、ギヤマンの器に入った、天にも昇るほど美味い甘味が食えるらしいぞ」
「見た目も白と黄金色で、たまらなく可愛いんだ!」
「何より、あのお揃いの前掛けをした娘たちが、まばゆいばかりの笑顔で手渡してくれるのが最高なんだよ」
街道を往来する旅人や馬喰、飛脚たちの口づてに勝る評判の勢いは、本陣の権力が敷いた閉塞感を完全に破壊していた。
「おじいちゃんの旅籠が今、一番アガる!」という評判は爆発的に拡散し、今やこの宿場町だけでなく、隣の宿場町からも人が押し寄せる事態になっていたのだ。
「いらっしゃいませー! 大豆とハチミツの特製パフェ、お待たせいたしました!」
きよたちが、鮮やかな小袖にお揃いの藍染めの前掛けをなびかせ、極上の笑顔でお客にお膳を運んでいく。
透明なガラスの器の中で、葛粉でぷるぷるに固めた豆乳の練り菓子、カリカリのおからクランチ、とろりとしたハチミツ、そして香ばしいきな粉が美しい層を成している。一口食べた旅人たちは、誰もが「――っ⁉」と身体を震わせ、次の瞬間には、身も心もとろけたような至福の笑顔を浮かべるのだった。
「美味い……美味すぎる! 大文字屋の藤右衛門のところで出される、あの堅苦しくていかめしい本膳料理など、これに比べればずいぶんと退屈に思えるわ!」
客席からは、そんな驚きと感嘆の声が次々と上がっていた。
大文字屋がいくら裏で手を回して食材を囲い込もうとも、私たちは「今あるもの」に現代のギャルマインドをぶち込んで、最高の価値を生み出し続けた。
結果として、彼らの卑劣な嫌がらせは完全に無意味なものへと上書きされたのだ。
「おい、見ろよ。隣の大文字屋、すっかり閑古鳥が鳴いてるぜ……」
佐助が表の様子を覗きながら、くすくすと笑い声を漏らした。
その言葉通り、客足は大文字屋から、ウチのボロ宿へと完全に逆流し始めていた。あちらの立派な黒塗りの門の前には、所在なさげに佇む奉公人たちが、ウチの前にできた長い長い行列を、ただ呆然と眺めている。
格式と伝統にあぐらをかき、客を心から楽しませることを忘れた本陣の敗北は、誰の目にも明らかだった。
「お、お咲……これ、これを見てくれ……」
帳場の奥から、震える声でおじいちゃんが私を呼んだ。手招きされて覗き込むと、おじいちゃんは分厚い大福帳を広げたまま、算盤を弾く手をパチパチと震わせ、大粒の涙をポロポロと流していた。
「どうしたのおじじ、またキャパオーバー?」
「ち、違う、違うんじゃ……! み、見てくれ、この売上を……。うちのような間口の狭い小旅籠が、わずか数日でこれほどに……。私、生まれてこの方、こんなにお足(銭)が積み上がるのを見たことがない……っ!」
おじいちゃんは涙で大福帳を濡らしながら、私の着物の裾を掴んで子供のように泣きじゃくった。
「お上の定めに従い、大文字屋の威光に頭を下げ、ただ静かに店を畳むしかないと諦めていたこの旅籠が……お前のおかげで、本当に息を吹き返した。これで先祖代々の看板を潰さずに済む。お前は、うちの家を救ってくれた福の神じゃ……!」
「大袈裟だなぁ、おじいちゃん。ウチはただ、だるい現実に負けるのが嫌だっただけ。みんながハッピーに働いて、お客さんが笑顔になれば、お金なんて後からガッツリついてくるもんだから!」
私はしゃがみ込み、おじいちゃんの涙を優しく手ぬぐいで拭ってあげた。
かつてどんよりとした絶望の空気が満ちていたこの場所は、今やキラキラとした眩しい日の光と、人々のハッピーな歓声で満たされている。
「ほら、みんな! ウチらの完全勝利の波、キちゃってるっしょ!」
私は立ち上がり、厨房と土間にいる従業員たちに向かって堂々と胸を張った。
きよも、佐助も、料理長も、みんなが泥だらけの顔を輝かせ、「おおっーーー!」と割れんばかりの大歓声を上げた。
名実ともに大文字屋の鼻を明かし、理不尽な伝統を最高のバイブスで上書きした瞬間だった。
「おじさんたち、ウチらのクリエイティブをナメないでよね」
私は腰に手を当て、表の街道で悔しそうにこちらを睨みつけている大文字屋の影に向かって、不敵で満面な笑みを浮かべてみせた。
ブラックな地獄をホワイトな楽園へと塗り替えた新米ギャル女将の世直し劇は、宿場町中を巻き込む圧倒的な大勝利の歴史を、今ここに刻んだのだった。
大繁盛で大勝利!おじいちゃんも大喜びです。
しかし、プライドをズタズタにされた大旅籠側が、ついに「若旦那」をスパイ(偵察)として送り込んできます。
次回、若旦那がギャルに狂わされる!?




