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【第49話:現代に戻る謎の光⁉ 女将、帰っちゃうの……?】

物語はついに涙の第49話。裏庭に現れた「現代に戻るポータル」。

懐かしいスマホの音を前に、仲間たちから「帰っちゃうの……?」と

切ない涙が向けられます。女将が下す、最後の決断とは⁉

幕府公認の『特別諸役御免の地』となった宿場町では、

お上公認を祝う大お祝いの宴が夜更けまで賑やかに続いていた。


木造の旅籠『丸米屋』の巨大な大広間からは、今なお三味線の小気味よい音や、

身分を忘れて杯を交わす元博徒たちと武士たちのガハガハとした楽しげな笑い声が、

途切れることなく漏れ聞こえてくる。


 私は熱気に満ちた広間をそっと抜け出し、

ひんやりとした心地よい夜風に吹かれながら、一人で旅籠の裏庭へと出た。


 夜の帳が下りた裏庭には、しんと静まり返った心地よい夜の闇が

広がっているはずだった。


しかし、さらさらと鳴る竹林の奥深く、普段は真っ暗なはずの空間が、

にわかには信じられないほど不気味に、そして神秘的に激しく歪んでいたのだ。


「え……っ? なにあれ、マジでヤバいんだけど……。夢でも見てんの、ウチ……」


 思わず声が漏れた。

そこに現れていたのは、夜の闇を白々と残酷に切り裂く、

眩しく輝く「謎の光」だった。


まるで空間そのものがぐにゃりと大きな力で捩じ切れたかのように、

光の塊が渦を巻いて激しく脈打っている。

誘われるように、私がそのまばゆい光の渦へと一歩、

無意識に足を近づけたその瞬間だった。


 ――ピピリ、ピピリ、ピピリ。

 頭の中に、懐かしい電子音が直接流れ込んできた。


それは、私がかつて現代の世界で毎日肌身離さず使っていた、

スマートフォンの着信音だった。


 それだけではない。何百人、何千人もの人々が行き交う

渋谷のスクランブル交差点を渡る無数の靴の音、

大型ビジョンから大音量で流れる流行りの音楽、鳴り響く車のクラクション、

そして都会の夜が持つ独特な匂い。


五感のすべてを激しく揺さぶる現代の喧騒が、

激しい奔流となって私の脳裏へと一気に押し寄せてきたのだ。


(これ……戻れるんだ。ウチがいた、あの令和の東京に……)


 直感がはっきりと告げていた。

この光の渦に今すぐ飛び込めば、明日にはコンビニの新作スイーツを食べられる。


電波の繋がるスマホで、友達と朝までくだらない通話ができる。

冷暖房の効いた快適な部屋で、ふかふかのベッドに寝転がれる。


自分が元いた世界へ戻れる、唯一にして最後のチャンス。

私がその圧倒的な光の渦を、吸い込まれるようにただじっと見つめていた、その時だった。


「――お咲ちゃんッ!!」


「姉御ォォォ!! どこに行っちまうんですかい!!」


 静寂を破る切羽詰まった叫び声が裏庭に響き渡り、

木戸からきよと佐助、そして藍色の着物を着たチーフのボスをはじめとする

元博徒の用心棒たちが雪崩のように走り込んできた。


その後ろからは、おじいちゃん主人までもが息を切らせて必死に駆けつけてくる。

激しく明滅し、この世のものとは思えない音を立てて空間を歪める光。

そして、そのまばゆい光の前に立ち尽くす私の姿。


この宿場町で様々な修羅場を共に乗り越えてきた彼らは、

私のいつもと違うどこか遠くを見つめる雰囲気と、

その光が何を意味しているのかを、

言葉を交わすまでもなく一瞬ですべて察してしまったのだ。


「女将さん……。行っちゃうの……? 

私たちを置いて、あのお光の中に、元いた場所へ帰っちゃうの……?」


 きよが麺棒を握りしめた手をガタガタと震わせ、

その場にへたり込みながら大粒の涙を流し始めた。


「嫌でごぜ居やす、姉御ォォォ! 俺たちを置いていかないでくだせえ! 

姉御がいない丸米屋なんて、姉御のいないハッピータウンなんて、

俺ぁ絶対に嫌だァァ! どこへも行かねえでくだせえ!」


 チーフのボスは、額の刀傷をぐしゃぐしゃに歪め、

子供のように顔を真っ赤にして男泣きを始めた。


元博徒の男たちも、自慢の十手をその場に落とし、

お互いに肩を抱き合いながら大号泣し始める。


「お咲ちゃん……。お前が、この世界の人間ではないことは、

本当は薄々気づいておった」


 おじいちゃん主人が、震える細い声で静かに、語りかけた。

そのシワだらけの手は、私の小袖の袖口を今にも掴みそうなほどに伸ばされ、

けれど、私の未来を縛るまいとするように、途中で悲しそうに虚空を彷徨った。


「お前の人生じゃ。お前が元いた場所に帰りたいというのなら、

俺たち堅気の老い先短い者が、引き止めはせん。


……引き止めはせんが、だが、やっぱり寂しいなぁ……。

お前は、我が丸米屋の、最高の宝物だったからなぁ……。

お前がいないと、寂しくてたまらんわい……」


 おじいちゃん主人の目から、堪えきれなくなった涙が溢れ、

板間へとぽたりと落ちた。

 みんなの、嘘偽りのない、命がけの愛の言葉。


 現代の便利で楽しくて、誰もが自由に生きられる令和の生活か。

それとも、自分がこの手でアゲて、みんなの笑顔を守り抜いてきた、

この最高に愛おしい江戸の街と大事な仲間たちか。


私の胸の奥が、ガチで張り裂けそうなほどに激しく締め付けられる。

お咲の人生において、物語の最後にして、最も重く、最大の「選択」が、

いま、残酷に突きつけられようとしていた。


「みんな……。ウチ……」


「お咲ちゃん、行かないで……! お願いだから、ここにいてよ!」


「姉御ォォォ! 俺たちの一生の頭は、姉御一人だけでごぜ居やす!!」


 私は涙でみるみるうちに滲む視界の向こうで、

泣きじゃくる大切な『家族』たちの顔を、一人ひとり、じっと見つめ返すのだった。

仲間たちの涙が切なすぎます。現代に戻ればスマホもコンビニもありますが、

女将の選択は一つだけ!次回、ついに最終回第50話!

伝説の大女将が、未来に向けて最高の笑顔でタスキを締め直します!

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