【第48話:幕府公認ハッピー特区!おじいちゃんの旅籠は天下第一へ】
危機を乗り越え、宿場町は幕府公認の「特別ハッピー特区」へ大出世!
おじいちゃんの旅籠も天下第一の宿となり、街全体がお祝いの笑顔に包まれます。
しかし、物語の終幕へ向けて、裏庭にある変化が……。
あの前代未聞の「全面おもてなし」によって、
最高権力者である老中おじさんが大号泣の末に江戸城へと戻ってから、
数日後のことだった。
宿場町を揺るがした激動の余韻がまだ冷めやらぬ朝、
東海道の街道筋に、ひときわ厳かで力強い馬のいななきが響き渡った。
パカパカと蹄の音が近づき、丸米屋の前でピタリと止まる。
「――静まれ、静まれぃ! 江戸より公儀の使者、ご到着であるッ!
皆々、神妙に頭を下げよ!」
甲高い役人の声が朝の澄んだ空気に響き渡り、
丸米屋の前に幕府からの正式な御触書を携えた使者の行列が恭しく到着した。
おじいちゃん主人をはじめ、きよ、佐助、
指示を待つチーフのボスが率いる元博徒の用心棒たちが一斉に街道に平伏し、
息を呑んで成り行きを見守る。
使者の役人は厳かに巻物を広げると、朗々とした声でお沙汰を読み上げ始めた。
「東海道の小宿、旅籠『丸米屋』一同の饗応、実に見事であった!
よってお上より、前代未聞の特権を授けるものとする!
本日より当該宿場町を、従来の厳格な法度をすべて免除する
幕府公認の『特別諸役御免の地』とする!」
「……え? し、特別諸役御免……って、つまりどういうことでございやすか?」
チーフのボスが平伏したまま、恐る恐る顔を上げて使者に尋ねる。
使者の役人は表情を微動だにさせず、厳格な公儀の威厳を保ったまま、
重々しく言葉を告げた。
「これなるは公儀の定めたる御免の証。
これより当宿は、独自の定めに則りて差配することを許す。
お上の法に縛られぬ、特例の地である」
「そういうことだよ、チーフ!
ウチらの街、マジで幕府公認のハッピー特区になっちゃったって話!
老中おじさん、マジで約束守ってくれて神すぎるんだけど!」
私がにっかりと笑って、役人の差し出した御触書を指差すと、
地面に走る緊迫感を破り、這いつくばっていた一同から、
地鳴りのような大歓声が沸き起こった。
「うおおおおおっ! マジですかぁぁぁ!」
「お上公認の特区だってよ! これで誰も俺たちを潰しにこれねえぞ!」
数日前まで、この街を跡形もなく更地にするために押し寄せていた数千の軍勢は、
今やハッピータウンの平和を公に守る、公認の強力な後ろ盾となったのだ。
街の安泰と繁栄は、これで末永く確約された。
さらに、使者の役人が恭しく差し出してきたのは、
老中の直筆によって『天下第一宿』と力強く、見事に刻まれた、
黄金色に輝く特製の木看板であった。
「お、お咲ちゃん……!
これは、丸米屋が日ノ本一の旅籠として、
お上から直々にお墨付きを授かったということじゃな……っ!
夢のようじゃ、信じられん!」
おじいちゃん主人が看板を震える手で受け取り、涙目で私を見つめる。
「おじいちゃん、大正解! もうウチらの丸米屋は、天下第一の宿なんだから!
これからはもっと胸張って、バイブス全開でアゲてこ!」
「へいっ!
看板は俺たちが責任を持って、一番目立つ特等席に掲げさせてもらいやすぜ!」
チーフのボスが嬉しそうに胸をドンと叩く。
その瞬間、宿場町中はこれまでにないほどの大お祝い騒ぎに包まれた。
どこからともなく太鼓や笛の音が賑やかに鳴り響き、
お祭り騒ぎの熱気のなかで、住民たちは大興奮のあまり立派な神輿を
どこからか担ぎ出してきたのだ。
「ギャル女将万歳ッ! お咲の姉御、万歳ォォォ!」
「ウチらの姉御は日ノ本一だぁぁ! わっしょい! わっしょい!」
「姉御、危ねえですからしっかり掴まってくだせえ!
いくぜ野郎ども、もっと高く担ぎ上げろ!」
元博徒の用心棒たちや平旅籠のオヤジたちの逞しい肩に担がれ、
私は神輿の上で華やかな特製小袖をはためかせながら、笑顔で両手を大きく振った。
「みんなマジありがとー! ウチらの街、ガチで最強じゃん!
バイブス最高潮だし、これからもみんなでトコトン楽しんでこー!」
街中を賑やかに練り歩く神輿の行列のなか、
おじいちゃん主人もまた、かつて出会った頃の死んだような目が嘘のように、
まるで二十歳も若返ったかのような生き生きとした表情で歩いていた。
おじいちゃんは涙をボロボロと流しながら、
神輿の上の私の手をガシッと力強く握りしめた。
「お前がこの街に、我が丸米屋に来てくれて、本当にすべてが変わった……。
ありがとう、お咲。お前は、俺の、我が丸米屋の、生涯自慢の孫娘じゃ……っ!」
「何言ってんのおじいちゃん! 涙で顔がぐしゃぐしゃだよ?
ウチの方こそ、この街でみんなと出会えてマジでハッピーだし!
ここがウチの最高のホームだから!」
こうして、お上の理不尽な大弾圧を無敵のギャルバイブスでひっくり返し、
これ以上ない完全勝利を収めた主人公。
街全体が笑顔の灯りで照らされ、誰もが未来への希望に胸を膨らませていた。
――しかし、その日の夜。
誰もが祝い酒に心地よく酔いしれ、しんと静まり返った
旅籠『丸米屋』の薄暗い裏庭で、それは静かに起こり始めていた。
さらさら、ザワザワ……。
ひんやりとした不気味な夜風が、裏庭の竹林を大きく揺らしている。
昼間の賑やかさが嘘のように、宿場町は深い闇に包まれていた。
その闇の奥底から、これまでの江戸の悪党たちや、
更生した博徒たちとは明らかに一線を画す、禍々しく、
そしてどこか異国めいた「奇妙な足音」が響いてきたのだ。
――カツン、カツン、カツン……。
冷酷に、そして確実に、暗闇を踏み締めるその硬い足音。
完全勝利のハッピーエンドのすぐ裏側で、
ハッピータウンの根幹を揺るがす不穏な『異変』の影が、
ゆっくりと不気味に爪を伸ばし始めていた。
「フふ……。ここが、噂の、はっぴーたうん、か……。
実におもしろい場所だ」
闇の中で不気味に妖しく光る、二つの鋭い眼光。
お咲の無敵のギャルマインドの前に、これまでにない未知の、
そして言葉も通じぬほどの超巨大な混沌が、すぐ目の前まで迫っていたのだった。
完全勝利で大ハッピー!ですが、夜の裏庭に怪しい「光」が出現します。
次回、第49話。ついにギャル女将に「現代へ戻るポータル」が突きつけられ、
仲間たちとの切ないお別れの危機が訪れます……。




