【第45話:アゲアゲ宿場飯の襲来!美味すぎて箸が止まらんのだが】
今回はおもてなしのメインディッシュ、極上の「アゲアゲ宿場飯」の襲来です!
全国の美味いものをギャルマインドでアレンジした料理の前に、
天下の老中の箸がついに暴走を始めちゃいます(笑)。
色彩和行灯の柔らかな光が、旅籠『丸米屋』の
広大な大広間をどこまでも幻想的に、
そして温かく包み込んでいた。
茜色、若草色、瑠璃色といった色鮮やかな光が
畳の上に美しい陰影を描き出し、
まるで現世のものとは思えないほど
雅やかなお祭りの夜のような空間を創り出している。
先ほどまで宿場町が総力を挙げて用意した極上の薬湯に浸かり、
ふかふかの寝床の心地よさに触れていた幕府直轄の武士たちは、
すでにその頑なな戦意の大部分を内側から完璧に骨抜きにされかけていた。
固く結ばれていたはずの表情はすっかり緩み、
大広間のあちこちから、
ふぅ、と深く心地よさそうな息を吐き出す音が漏れ聞こえてくる。
空間を包み込む香の香りが、さらに彼らの心を優しく解きほぐしていった。
しかし、その広間の最上座、格式高い几案の奥では、
この国の最高権力者である老中のおじさんが、
いまだ頑ななプライドをその身に纏い、
眉間に深い皺を刻んだまま、冷酷な眼差しでじっと周囲の様子を睨みつけていた。
「ええい、お前たち、何をそんな腑抜けた顔をしておるか。
ここは敵地かもしれんのだぞ。
公儀の旗本たる者が、情けない姿を晒すな」
老中が低く冷え切った声で厳しく叱責するが、
武士たちの緩んだ顔はそう簡単には戻らない。
そんな張り詰めた空気を完全に打ち破るように、
大広間の襖が、小気味よい音を立てて左右へと勢いよく開け放たれた。
「――お待たせしました、おじさん!
ウチらの特製アゲアゲ宿場飯だよ!
これ、ガッツリ魂込めて作ったから、残さずバイブス全開で食べなよ!」
私はこれ以上ないほどに太陽のように眩しい、
無敵のギャルスマイルを咲かせながら、
老中の目の前の几案へと、
大盛りのお料理が美しく並べられた御膳を威勢よく差し出した。
その瞬間、大広間全体に、五感を激しく揺さぶるような香ばしく、
迅速にお腹の底を刺激する圧倒的に芳醇な匂いが一気に立ち込めた。
お盆の上で白く柔らかな湯気を立てているのは、
京の都から届いたばかりの極上の白味噌をふんだんに使い、
丁寧に和出汁を引いた、濃厚でまろやかな汁物。
そして、今朝がた大坂の海で揚がったばかりの、
まだ目がピカピカと生きているかのように輝いている、
獲れたての鯛や海の幸を美しく盛り付けた極上の刺身の数々。
さらには、隠し味に貴重なハチミツを贅沢に使い、
じっくりと火を入れて甘みとコクを極限まで引き出した、
江戸のどんな一流の料理人にも絶対に真似できない、
私直伝の極上現代風アレンジ肉料理が、目にも鮮やかに盛り付けられていた。
この料理の数々は、先日お咲のバイブスに完全降伏して
マブダチになった闇の元締めおじさんが、
日本全国に張り巡らされた秘密の物流ルートを死ぬ気でフル稼働させ、
爆速で集めてきた超一流の最高級食材ばかりなのだ。
「ふん……。お前のような素性の知れぬ不届きな町娘が作った料理など、
天下の法度を司るこの俺が、おいそれと口にすると思うてか。
公儀の威信にかけて、このような怪しげな飯に惑わされることなど断じてないわ。
だまされんぞ」
老中おじさんはわざとらしくふんぞり返り、
お咲を威圧するように冷酷に目を細めてみせた。
だが、その頑なな言葉とは裏腹に、彼の胃袋は大広間全体を
満たしている香ばしい匂いによって、すでに完全に限界を迎えていた。
お腹の底を強烈に刺激する芳醇な香りの前に、
おじさんの喉がゴクリと小さく、しかし確かに鳴ったのを、
私は絶対に見逃さなかった。
「いいからいいから! そんなお堅いことばっかり言ってるとさ、
お腹と背中がくっついちゃうよ?
せっかくみんなで一生懸命美味しく作ったんだから、冷めちゃうじゃん。
ほら、四の五の言わずに箸持って! ウチらの料理、ガチで絶品んだから!」
「ぬう……。これほど無礼極まる町娘が、かつての日ノ本に存在しただろうか。
よかろう、そこまで言うならば、お前たちの浅知恵の底を、
この俺が自ら見極めてやる。
一口食べて、大したことがなければ、即座にその首を撥ねてくれるわ」
老中は自らのプライドを必死に保つように、
わざとらしく重々しく溜息をつくと、観念したように手元の杉の箸を取り上げた。
そして、まずは目の前で湯気を立てている白味噌の汁物を、匙でそっと掬い、
一口だけ口に運んだ。
――その瞬間、老中おじさんの脳裏に、
これまでの人生で一度だって経験したことのない、凄まじい大衝撃が走ったのだ。
「っ……、う、美味い……⁉」
ガタガタガタガタッ!!
言葉を完全に失うほどの圧倒的な美味さ。
京の白味噌が持つ、まろやかで奥深い甘みの向こう側から、
現代風に計算され尽くした濃厚な旨味の深みが、
怒涛の濁流のようにおじさんの口いっぱいに広がっていく。
あまりの美味さに、老中おじさんの右手は激しく震え、
持っていた杉の箸がガタガタと音を立てて几案を叩いた。
美味い。美味すぎる。こんな味、生まれてから一度だって知らなかった。
格式だの、規律だの、天下の法度だの、
脳内のすべての理性がその圧倒的な美味の暴力の前に一瞬にして
木っ端微塵に吹き飛んでいく。
天下の最高権力者の右手は、すでに自らの意志を完全に無視して動き出していた。
箸は大坂直送の、口の中でとろけるほど新鮮な鯛の刺身へ、
そこで箸を止めずにハチミツの隠し味の効いた濃厚な肉料理へと、
狂ったように走り、止まらなくなってしまったのだ。
「もぐ……もぐ……、う、美味い! 美味すぎるぞ!
箸が、箸がどうしても止まらんのだが……っ⁉
この肉の甘みとコクは一体何なのだ!
おのれ、手が、手が勝手に動いてしまう……っ!」
「あはは! おじさん、ガッツリいってんじゃん!
口の周りにタレついてるよ?
マジ最高なんだけど! ね、ウチらのバイブス、半端ないでしょ?」
「ううむ、おのれ町娘……!
しかしこの刺身も、これまで城で食べてきたどの大名からの献上品より、
遥かに鮮度が良く、美味い……っ!
悔しいが、箸を止めることができん! 美味すぎるのだ!」
老中のおじさんが猛烈な勢いで御膳の料理を貪り食うその姿を見て、
大広間にずらりと並んで固唾を呑んで見守っていた屈強な武士たちも、
もう我慢の限界だった。彼らの胃袋もとっくに大暴走を起こしていたのだ。
彼らは一斉に、目の前に並べられた特製宿場飯へとがっついた。
「な、なんだこれはぁぁぁ!
この汁物、五臓六腑に染み渡るほど美味すぎるのだがぁぁぁ!」
「大坂の鯛が、口の中でピチピチと踊っておるぞ!
こんな美味い刺身、生まれて初めて食べた!」
「お頭、いや老中様! 不肖の身ながら申し上げます!
俺ぁもう、お上の身分とか規律なんて、どうでもよくなってきやした!」
「これほど美味い飯を食べられるなら、
もう江戸のお城になんて帰りたくないぞ! ここで一生暮らしたい!」
「美味い! 美味すぎる! ハッピータウン、マジで最高ォォォ!」
身分を忘れ、お上の厳しい掟を忘れ、
数千の軍勢の武士たちが大歓声を上げながら、
笑顔で大盛り上がりの宴会を始める。
大広間の熱気が最高潮に達する中、
厨房の奥からは、おじいちゃん主人ときよ、差配を担う佐助が
「どんどん運べー!」と、最高の笑顔でお代わりの食材を詰めた特製の大袋を担じて、
次々と押し出してきた。
「みんな、遠慮しないでガッツリおかわりしなさいよ!
ご飯なら山ほど炊いてあるんだから、いくらでも食べてね!」
「へいべい! 極上の酒も次々と開いてやすぜ!
お侍さんたち、今夜は堅苦しいことは抜きにして、
無礼講でトコトン楽しんでくだせえ!」
「お咲殿の料理の前に、お上の規律など形無しですな!
さあ、拙者も新しい膳をお運びいたしますぞ!」
チーフのボスや元博徒の用心棒たちも、
さっきまで刀を向け合っていた武士たちとがっちりと肩を組み合い、
「お侍さん、グッといきなよ!
美味い飯には美味い酒が一番だって話よ!」
と笑顔で酒を酌み交わし、
宴会場は、これまでにない圧倒的にハッピーな熱気に包まれていった。
身分の壁なんて、そこには1ミリも存在しなかった。
「そしておじさん、トドメはこれね! ウチらの特製映えスイーツだよ!」
御膳の上の料理をすべて綺麗に平らげ、
お腹を膨らませて満足げに息をついていた老中の前に、
私は最後に用意していた、食後の甘味を差し出した。
それは、色鮮やかな季節の果物と、
当時の江戸の人間には絶対に未知の食感である、
ふんわりとした甘い乳製品の泡が美しくデコレーションされた、
お咲特製の伝説の映えスイーツだった。
「ご、甘味だと……?
うう、おのれ町娘、もう俺の腹は十分に満ちておる。
これ以上は何も入ら――いや、身体が、身体がまたしても
勝手に匙を握りしめて……っ! 抗えん、この甘やかな匂いに抗えんぞ!」
「いいから黙って食べてみなって! ガチでトぶから!
後悔させないし! ウチらの自信作だよ!」
老中は涙目で小さな匙を握りしめ、その未知のふんわりとした甘味を、
恐る恐る口へと放り込んだ。
――その瞬間、老中おじさんの目は完全にトビ、
脳内には色鮮やかな美しいお花畑がパァァァと広がっていたのだった。
「ほうわぁぁぁ……!
なんじゃこの、雲を食べているかのような軽やかな甘みは……!
口の中で一瞬にして消えてなくなってしまったぞ!
俺は、俺は今、天界にいるのか……っ⁉」
「おじさん、完全にトんじゃってるじゃん!
最高にハッピーでしょ?」
「うむ……、ハッピー……。
これが、ハッピーというものなのか……。言葉にならんぞ……」
現代のギャルマインドが仕掛けた「アゲアゲ宿場飯」の前に、
国家の誇る強大な武力は、一滴の血も流すことなく、
完全に、ほんわかと降伏の淵へと落とされたのだった。
その場にいる全員が、ただただ幸せな笑顔で満たされていた。
老中、完全に胃袋を掴まれました!美味い飯の前には誰も逆らえません。
次回、宴が最高潮に達する中、老中が身分の垣根なく全員が
笑顔で笑い合う街の光景を見て、激しい心理的衝撃を受けることに……。




