↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
42/44

【第42話:ヤバっ!おじさん、そんな怖い顔してたらハッピー逃げるよ?】

お待たせしました、最終章最初の「スカッと解決」回です!

銃口や刃物の前で、老中にウインクをかますギャル女将。

「しけた面すんな!」と、天下の老中を相手にまさかの「一晩限りの勝負」を挑みます!

ギラギラと容赦なく剥き出しにされた白刃が朝日にきらめき、

幾重にも重なる無数の槍先が冷酷な包囲網をじわじわと狭めていく。


鋭い鉄と甲冑が擦れ合う不気味な音が、

街道を重苦しく満たしていた。


 一歩、また一歩。

 私は、背後で自分の大切な仲間たちが涙を流し、

生きた心地もせずに固唾を呑んで私の背中を見つめる中、

たった一人、武器一つ持たない完全な丸腰のまま、

ゆっくりと土埃の舞う街道を真っ直ぐに歩み進めていた。


冷たい朝風が私の髪を激しく揺らす。

目指すは、徳川の三つ葉葵の白幟が不気味に朝風にたなびく、

幕府直轄軍の本陣――格式高い漆黒の網代駕籠の前である。


「無礼者ッ! そこへ控えよ! 

これ以上進めば、公儀への明確な反逆とみなして

容赦なく切り捨てるぞ!」


「神妙に縛に就け、この不届き千万な町娘め! 

これ以上、お上の威光を愚弄することは断じて許さん! 

即座に平伏せぃ!」


 網代駕籠の周囲を厳重に固める、

公儀の武士の中でも選りすぐりの屈強な旗本武士たちが、

私の行く手を完全に阻むように抜身の刀を一斉に突きつけ、

地を裂くような凄まじい怒号をこれでもかと浴びせてくる。


 ひやりとした鋭い鉄の冷気が肌に突き刺さるように伝わってくるけれど、

私はそんな命がけの脅しを完全に、

1ミリも相手にせず無視した。

ここでビビったらギャルがすたる。


「ちょっと、そこのお兄さんたち、

刀そんなに近づけたら危ないってば。もっと落ち着きなよ」


 凛とした堂々たる足取りのまま、

駕籠の前にどっかりと据えられた几案(机)の奥に座る、

この国の最高権力者・老中の顔を真正面から堂々と見据えたのだ。

そして、鋭い刀を構えた周囲の武士たちが


「こ、この小娘、一体正気か⁉」と唖然として硬直するなか、

片目でパチンとこれ以上ないくらい軽快に、

いつも通りのウインクを飛ばしてみせた。


「ヤバっ! 

おじさん、朝からそんな怖い顔して眉間に皺寄せてたらさ、

来るはずのハッピーも全部逃げちゃうよ? 

せっかくの渋いイケおじが台無しじゃん!」


 シィィィン……。

 あまりの不敬極まるお気楽な言葉に、

宿場町を隙間なく包囲していた数千の軍勢が

一瞬にして水を打ったように静まり返った。


 国家の最高権力者であり、並み居る大名すらも

一言で這いつくばらせるお上の老中に対し、

まさかの緊張感ゼロのギャル語。


引き金を引けば一瞬で肉ごと消し飛ぶ鉄砲の列を前にして、

この町娘は一体何を言っているのかと、

旗本たちは自分の耳を疑って完全に硬直している。


「お、おのれ……っ。

貴様、天下の法を、公儀の権威を舐めるのも大概にしろ……っ! 

自らの立場が分かっておるのか!」


 老中の顔が、みるみるうちに侮辱された屈辱と怒りで激しく引き攣り、

怒髪天を突く勢いで真っ赤に染まっていく。


彼は震える拳を几案に何度も叩きつけると、

周囲を固める近習の武士たちに向かって、

冷酷な即座の処刑の指図を下そうと勢いよく口を開いた。


「出すぎた真似を……! 

このような逆賊、この場で即座に切り捨て――」


「天下泰平ってさ、みんなを怯えさせて街を更地にすることなわけ⁉ 

そんなの、ただの大きないじめじゃん!」


 ドーーーンっ!!

 老中の冷酷な命令を完全に遮るように、

私の突き抜けるほどに明るく、そして芯の通った大声が街道の端から端……

いや、宿場町の隅々まで響き渡った。


 一切の怯えも迷いも宿さない私の覇気全開の瞳に気圧され、

老中は思わず声を詰まらせてピタリと動きを止める。


私は腰に両手を当てて、数千の軍勢を一人で

完全に圧倒するような堂々たる態度で、さらに言葉を続けた。


「ウチの館でしけた面すんの禁止だから! 

格式とか、昔からある古いお硬い掟をただ守るんじゃなくてさ、

ウチらがここで誰も見たことない新しい伝説を作るの! 


ねえ、おじさん。お上の偉い仕事が大変なのは分かるけど、

そんな顔して人を脅してて、本当に心からハッピーなわけ? 毎日楽しい?」


「格式、だと……? 

古い掟を、守るのではなく……新しき、伝説……?」


 老中はお咲の放ったあまりに突飛な言葉を、

己の頭の中で「先例や因習をことごとく排し、

誰も見たことのない新たな天下の政(まつりごと)を興す」という


前代未聞の恐るべき思想として受け止め、

その圧倒的な理詰めの勢いに内側から激しく衝撃を受けていた。


 武威をもって民を従えることこそが徳川の絶対の法。

だが、彼女の言う「ハッピー」という未知の概念は、

暴力と恐怖による支配の前提を根底から粉々に揺るがしてくる。


「なんなのだ、その眼差しは……。

公儀の武力を前にして、怯えぬばかりか、

この俺に政の是非を問うというのか……」


「ウチの『おおもてなし』、一晩だけ体感してから文句言いなよ! 

極上の湯殿に浸かって、全国の美味いものをガッツリ食べてさ、

それでもこの街を更地にしたいって言うなら、その時はウチの首、

いくらでもハネていいから! 逃げも隠れもしないし!」


「……クハッ、大きく出たものだな、お嬢さん。

だが、その言葉に嘘偽りはなかろうな? 

もし俺を納得させられねば、本当にこの宿場を灰にするぞ」


「ウチ、嘘つくのガチで大嫌いだし! 

約束は絶対守るから! 

おじさんこそ、後からやっぱり無しとか言うの禁止ね!」


 両手を大きく広げ、数千の軍勢に向かって堂々と全面戦争……

ではなく、「全面おもてなし」を提案するギャル女将。


 その圧倒的な座長の覇気と、

お上の常識や天下の法度を遥かに超越した前代未聞の提案を前にして、

最高権力者であるはずの老中は、

ただただ息を呑み、完全にと言葉を失って呆然と立ち尽くすしかなかった。


「お、お頭……じゃなかった、老中様……。

い、いかがいたしましょう。このまま切り捨てますか……っ? 

それとも……指示をくだせえ!」


 剣を構えた武士たちが、

額から冷や汗をだらだらと流しながら老中の顔色を伺う。


 だが、お咲の放つ太陽のように眩しいハッピーのバイブスは、

冷酷な軍勢の殺気すらも完全に呑み込み、

凍りついていた東海道の朝を、みるみるうちに

アゲアゲな熱量で塗り替えようとしていたのだった。


「……面白い。

よかろう、今宵一晩だけ、その方の申す『おおもてなし』とやらを

受けてやろうではないか。

公儀の威信にかけ、お前たちの底底を見極めてやる」


「そうこなくっちゃ! 

おじさん、話が分かるじゃん! さすがイケおじ! 

みんな、聞いた⁉ 準備はバッチリだよね⁉」


 私の言葉に応えるように、

後ろで見守っていた丸米屋の仲間たちから、

地鳴りのように腹の底へと響き渡る、

宿場町全体の地響きのような大歓声が沸き起こる。


「おい、聞いたか! 

一晩の猶予を勝ち取ったぞ! 

お咲ちゃんが、あの老中を相手にやり遂げたんだ!」


「へいっ! 

野郎ども、すぐに丸米屋へ戻って準備開始だ! 

お上のお偉い方々に、ウチらの度肝を抜くもてなしを

見せてやろうじゃねえか!」


 こうして、一滴の血も流すことなく、

数千の軍勢を相手取った前代未聞の

「一晩だけのガチンコおもてなし勝負」の幕が、

いま、最高潮の熱量で切って落とされるのだった。

女将の圧倒的な迫力に、老中も思わず切り捨てるタイミングを逃してしまいました(笑)。

次回、宿場町全体の未来を賭けた、総力戦の「究極の一晩限定おもてなし勝負」がスタートします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。