【第40話:ガチの軍勢が包囲!ハッピータウン絶体絶命じゃん】
街が丸ごと軍勢に包囲されるという、文字通り国家レベルの絶体絶命ピンチ!
「更地にせよ」と言い放つ冷徹な老中に対し、ギャル女将はどう立ち向かうのか。
息を呑む超緊迫の展開です!
ズズズ、ズズズ、ズズズズズズズン……。
ある朝、宿場町の住民たちは、
大地が海の底から激しく震え震い上がるような、
おぞましい地響きのような大足音で目を覚ました。
旅籠『丸米屋』の頑丈な格子窓がカタカタと激しく鳴り響き、
厨房の棚に並んだ湯呑みが不気味な音を立てて小さく揺れている。
「な、なんじゃ……?
この凄まじい地響きは。
地震ではなさそうじゃが……。
一体何が起きておるというのじゃ」
おじいちゃん主人が寝間着のまま、
寝床から大慌てで飛び起きて顔を青ざめさせた。
ただ事ではない不穏な気配を察知した用心棒の元博徒たちや、
宿場の住民たちが次々と街道へと這い出て、
街の外の様子を恐る恐る見に行くと――
そこには、彼らの想像を遥かに超えた、
この世の終わりかと思わせるような絶望的な光景が広がっていた。
「おい、嘘だろ……。
お、お上の、本物の軍勢じゃねえか……っ!
見ろよ、あの数!」
「な、なんでこんな小さな宿場町に、
これほどの数の武士が押し寄せてくるんだよ……っ⁉」
「冗談じゃねえ、
何百人、いや、何千人いやがるんだ⁉
街道の先が甲冑の海で埋まっちまってるぞ!」
「逃げろ! 早く逃げねえと全員叩き斬られるぞっ!」
街道の左右、濃い影を落とす山並みの裾野に至るまで。
そこには、一糸乱れぬ整然とした陣形を組み、
朝日を浴てギラギラと冷酷な光を放つ、
鋭い槍や弓を構えたガチの幕府直轄の武士の軍勢が、
宿場町を完全に、隙間なく包囲していたのだ。
その数は、数百、いや数千。
はためく徳川の三つ葉葵の紋所が入った白の幟が、
冷たい朝風にパタパタと不気味に揺れている。
街道を埋め尽くす甲冑の擦れ合う音が、
冷徹な威圧感となって宿場町へと押し寄せていた。
「おい、前を見ろ!
何かが上がってくるぞ!」
「あれは……黒塗りの格式高い駕籠じゃねえか!
とんでもねえ大物が交じり込んでやがる!」
その巨大な軍勢の先頭、
格式高い漆黒の乗物(網代駕籠)から、
冷徹な威厳を全身から放つ最高権力者・老中が、
ゆっくりと街道の真ん中へと姿を現した。
その冷酷な一瞥が、宿場町を凍りつかせる。
「これより、天下泰平の掟を乱す、
不届きな宿場を成敗する!
身分秩序を乱す元凶、あのギャル女将を捕らえ、
宿場のすべてを更地にせよ!」
老中の非情な大号令が、
張り詰めた街道に雷鳴のように響き渡った。
「そ、そんな……!
すべてを、更地に……っ⁉
せっかくここまで大きくしたのに!」
「俺たちの、俺たちのハッピータウンが、
一瞬にして消されちまうってのかよ……っ!
お上はなんて無慈悲なことをするんだ!」
「家も、店も、全部灰にされちまうってのか!
俺たちは何も悪いことなんてしちゃいねえのに!」
これまでに襲ってきた、汚職にまみれた地方の役人や、
日陰の世界を牛耳っていた博徒の無法者たちとは、
文字通り次元が比較にならない。
国家そのものが誇る、圧倒的かつ絶対的な武力による大弾圧。
せっかくみんなで力を合わせて築き上げてきた、
誰もが笑顔でアガれるハッピータウンが、
理由も理屈もなく一瞬にして灰燼に帰そうとしている。
あまりの絶体絶命のピンチに、
宿場町中は一瞬にして底なしの恐怖と絶望に包まれてしまった。
「お上には逆らえん……。
逆らえば、全員死罪、一族郎党皆殺しじゃ……。
ああ、ここまでか……。
丸米屋も、この宿場も、もうおしまいじゃ……っ!
お咲ちゃん、すまん、俺にはもうどうすることもできん!」
おじいちゃん主人はあまりの恐怖に腰を抜かしてしまい、
板間の上に崩れ落ちてガタガタと歯の根を鳴らしながら
大粒の涙を流した。
チーフのボスをはじめとする
最強のセキュリティチームの面々も、
さすがに幕府の本物の軍勢と三つ葵の家紋を前にしては、
抜刀することすらできず、悔しさに唇を噛み締めながら
十手を強く握りしめることしかできなかった。
「クソッ……!
刀を抜けば、その瞬間にこの街の全員が逆賊として斬り捨てられる……!
どうすればいいんだ!」
「チーフ、俺たちどうしやしょう!
このまま黙って殺されるのを待つしかねえんですかい!」
「動くな!
ここで動いたら、お上を完全に敵に回すことになる……!
だが、このままじゃ姉御が……っ!」
誰もが絶望し、下を向いて涙を流した、
まさにその緊迫した空気を破ったのは、いつもと変わらない、
カツカツという軽快な木履の足音だった。
「ちょっとみんな!
朝っぱらから顔ガチで死んでんだけど!
おじいちゃんも、
そんなところで泣いてたらお肌カサカサになっちゃうよ?」
ガラリと開け放たれた旅籠の玄関から現れたのは、
いつもと変わらない、色鮮やかなネオンカラーの特製小袖を身に纏い、
明るい前髪をバッと高く跳ね上げた、我らがギャル女将のお咲だった。
彼女は驚くみんなの視線を一身に浴びながら、
全く物怖じしない凛とした足取りで、
タスキの紐をキュッと不敵に締め直してみせた。
「あ、姉御……っ!
お、お上が、お国が本気で俺たちを殺しにきてやすぜ……っ!
いくら俺たちが強くても、あの数の槍と弓には勝てやせん……っ!
今回はマジで分が悪すぎやす!」
チーフのボスが涙目で訴えかける。
だが、お咲のその爛々としたギャルバイブス全開の瞳には、
諦めの色なんて、最初から微塵も浮かんでいなかったのだ。
「何言ってんのチーフ!
相手が大名だろうが、幕府の超エラいおじさんだろうがさ、
ウチらのハッピーを邪魔する権利なんて、誰にもないから!
ガチの軍勢が包囲とかマジで絶体絶命じゃんって感じだけど、
ウチ、一歩も引く気ないし!
むしろ、
これだけの人数をいっぺんにアゲられるチャンスとか、
マジで激アツっしょ!」
「あ、姉御……激アツって、あの数の槍が見えねえんですかい⁉
全員本物の武士、殺る気満々ですぜ!」
「見えてる見えてる!
でもさ、あのおじさんたちも毎日お仕事ばっかりでお疲れなんだって。
だから、あんなに怖い顔になっちゃうの。
だったら、ウチらが最高に癒やしてアゲるしかないじゃん!」
お咲は腰に両手を当てて、
街道の先で冷酷にこちらを睨みつけている数千の軍勢と、
最高権力者の老中に向かって、
これ以上ないほどに不敵で、
太陽のように眩しい無敵の笑顔を向けた。
「よし!
あのお硬いおじさんたちも、全員まとめて
ウチらの極上のバイブスでハッピーに更生させてあげようじゃん!
みんな、ウチにしっかりついてきなよ!
最高の夜の始まりだし!」
国家規模の大弾圧を前にして、
なおもアゲアゲなマインドを失わないギャル女将。
ハッピータウンの存亡をかけた、
過去最大の無敵の交渉(?)劇が、
いま、最高潮の熱量で幕を開けるのだった。
ガチの軍勢を前にしても、女将のバイブスは健在です。
次回、女将を守るために街の人々や元悪党たちが立ち上がりますが、
ギャル女将はまさかの「丸腰」で老中の前に歩み出ます!




