【第4話:だるい伝統、ウチらが上書きしちゃお!】
お待たせしました、最初の「スカッと解決」回です!
女将のくせに生意気だと怒る頑固な宿泊客に対し、ギャル女将が真っ向からバイブス高めの「究極のおもてなし」を叩き込みます。
どうぞご覧ください!
「いらっしゃいませー! 大文字屋の徳兵衛さんですよね? ウチの現場へようこそ!」
私はとびきりの笑顔を浮かべ、腰に手を当ててハキハキと声を張り上げた。
だが、土間に足を踏み入れた徳兵衛は、ピカピカに磨き上げられて明るくなった館内を見渡し、これ以上ないほど不快そうに太い眉をひそめた。
「……ふん。大旦那、しばらく来ぬうちに、ずいぶんとけたたましい旅籠になったな。品がない」
「と、徳兵衛様、申し訳ございませぬ! この子は私の孫のお咲でして、その、最近少し気が触れて……」
帳場から飛び出してきたおじいちゃんが、床に額をこすりつけんばかりに縮こまる。
きよや佐助たち従業員も、宿場町一の偏屈な大旦那の威圧感に怯え、息を呑んで硬直していた。
「おい、小娘。宿の女たるもの、女は一歩下がって控えめに、しきたり通りに客を迎えるのが筋というものだ。なんだその、男のように捲り上げた袖は。おまけに客に向かってその、ウチの現場とは何事だ。これだから近頃の若い者は伝統というものを知らん」
徳兵衛はネチネチと嫌味を並べ立て、これ見よがしに大きなため息をつく。
張り詰める空気。だが、私は怯えるどころか、クスッと小さく笑って髪をかき上げた。
「あー、おじさん。それ、ぜーんぜん粋じゃないんだけど」
「な、何だと……⁉」
「お咲! 滅相もない、お前は黙っておいで!」
おじいちゃんが顔を真っ白にして私の着物の裾を引っ張るが、私はそれを優しく振り払った。
「だってそうじゃん。だるい伝統とかしきたりに縛られて、せっかく旅行に来てんのに不機嫌になるとか、マジで意味不。そんなカビの生えたルール、ウチらが上書きしちゃお!」
私は心の中でそう決めると、きよと佐助に向かってパチンとウインクを飛ばした。
「きよ、佐助! おじさんを『極上の部屋』へご案内して。ウチらのバイブス、見せつけるから!」
「は、はいっ、女将さん!」
働き方改革でやる気に満ち溢れた二人は、力強く頷いて動き出した。
徳兵衛が案内された客室は、ただ掃除が行き届いているだけではなかった。
私の細かい指示のもと、きよたちが総力を挙げてセッティングした『おもてなしの結晶』だ。
「な、なんだ、この寝床は……。妙に軽い上に、驚くほど膨らんでおるぞ」
部屋に入るなり、徳兵衛が目を剥いた。
そこにあったのは、今日一日、日の光をこれでもかと浴びせて天日干しにし、中身の藁や乾草を丁寧に叩いてほぐし直した特製の敷寝床だ。
手で押せば柔らかく沈み込み、離せばふんわりと戻る。
江戸初期の固くて薄い、ただ冷えを凌ぐだけの寝床しか知らない徳兵衛にとって、それは未知の心地よさだった。
「これ、今日一番お日様に当てて作った、ふっかふかの特製ベッドだから。マジで横になった瞬間、飛ぶよ?」
「ふ、ふん、寝床など横になれればどれも同じだ。それより、この部屋はなぜこんなに心地よいのだ。外は妙に蒸し暑いというのに……」
「あ、気づいちゃった? 流石じゃん」
私はニヤリと笑って、部屋の隅を指差した。
そこには、冷たい井戸水を入れた大きな木桶と、風が綺麗に抜けるように計算して配置された障子の隙間。
さらに、厨房の裏で採れた爽やかな薬草の葉が、ほのかに涼しい香りを漂わせていた。
現代のエアコンや加湿器はないけれど、知恵を絞れば部屋の温度や湿度くらい完璧に整えられる。
「夕飯も、おじさんの胃袋のキャパに合わせて、お肉使わないヘルシーで美味い特製メニュー用意してあるから。ゆっくりアガっていってね!」
「生意気な小娘め……。形ばかり整えても、私は騙されんぞ」
徳兵衛は悪態をつきながらも、どこか毒気を抜かれたように寝床の上へどっかりと腰を下ろした。
その瞬間、あまりの柔らかさに「お、おおっ⁉」と、格好悪い声を上げていたのを、私は見逃さなかった。
その夜、きよと佐助は、これまでにないほど明るい笑顔と丁寧な所作で徳兵衛の給仕にあたった。
「お定めだから」と義務の苦役で動いていた頃の死んだ目はもうない。
ただの作業ではなく、自分たちの作った部屋で客が驚く顔を見るのが楽しくて仕方がないという、一人前の奉公人としての自負がそこにはあった。
そして、翌朝――。
鳥のさえずりと共に、私は土間で徳兵衛が下りてくるのを待っていた。
おじいちゃんは「怒って帰ってしまうのではないか」と、朝からずっと帳場でガタガタと震えている。
階段から、トントンと足音が響く。
現れた徳兵衛の顔を見て、土間の従業員たちが一斉に息を呑んだ。
昨日までの、あの不機嫌そうに歪んだ顔が、嘘のように消え去っていた。
肌にはツヤがあり、目の下のクマもすっきりと消えている。
何より、その表情は信じられないほど穏やかで、身も心も完璧に旅の疲れが癒やされたことが一目で分かった。
「お、お早うございます、徳兵衛様……。お目覚めは、いかがで……」
おじいちゃんが恐る恐る声をかける。
徳兵衛はしばらく黙っていたが、やがて私をじっと見つめると、深く、深くため息をついた。
「……負けた。ぐうの音も出んとは、まさにこのことだな」
「え、おじさん、何か言った?」
私が首を傾げると、徳兵衛はカッと顔を赤くして、私の前に一歩歩み出た。
「これまで天下の街道の、ありとあらゆる本陣や大宿に泊まってきたが……これほど見事なもてなしは初めてだ! あの寝床の心地よさ、部屋の清涼な空気、形成ばかりのしきたりを越えたあの娘たちの眩しい笑顔! 狭いしきたりに縛られておった己の小ささが、恥ずかしくてならん!」
「徳兵衛様……⁉」
おじいちゃんが驚愕で顎が外れそうになっている。
徳兵衛は私の両手をガシッと掴むと、目を輝かせてまくしたてた。
「お咲と言ったな! お前のその、客を心から喜ばせようという商売の真髄、私は完全に魅了された! 今日から私は、この旅籠の、いや、お前の最初の大贔屓だ! これからも通い詰めてやるからな!」
「ヤバっ。オヤジ、激デレじゃん。ウケる!」
私がケラケラと笑うと、徳兵衛もつられて「ワハハ!」と豪快に笑い声を上げた。
しきたりで凝り固まっていた頑固客が、ギャル流のおもてなしによって、最高の贔屓客へと上書きされた瞬間だった。
「みんな、マジで大成功じゃん! お疲れ!」
きよや佐助たちとハイタッチを交わし、私は腰に手を当てて胸を張った。
理不尽な伝統なんて、ウチらのバイブスでどうにでもなる。
そう確信した私の耳に、再び、表の街道から慌ただしい足音が近づいてくるのが聞こえた。
スカッとしていただけましたか?
どんな理不尽も、実力と笑顔で黙らせるのがギャル女将流です。
しかし、この噂が宿場を管理するお堅い役人の耳に入ってしまい……!?
次回、お役人様が殴り込みです!




