【第36話:コソコソ隠れて悪さするとか、ぜーんぜん粋じゃない!】
お待たせしました、第3部最大のスカッと解決回です!
裏社会の絶対強者である闇の元締めに対し、ギャル女将が
「暗いとこでコソコソしてダサい!」と真っ向からロジカル論破(?)を叩き込みます!
しん、と静まり返った大寂寺の本拠。
無数に並ぶ凶悪な火縄銃の銃口が、
お咲の放った圧倒的なギャルマインドの覇気によって、
みるみるうちに床へと下がっていった。
蝋燭の仄暗い炎が揺れる大広間には、
冷たい火薬の匂いと、何十人もの無法者たちが呑み込んだ息の音だけが、
重苦しく、そして不気味に淀んでいる。
悪党たちがその場に立ち尽くし、
あまりの想定外の事態に身を震わせた、まさにその瞬間だった。
「――下がれ、不甲斐ない奴らめ。
たかが町娘一人の大言壮語に気圧されてどうする。
それでも日陰の世界に生きる男か」
低く、耳の奥にねっとりと不快に絡みつくような、底冷えのする冷酷な声が大広間の奥から響き渡った。
びっしりと並んで火縄銃を構えていた男たちが、
その声を聞いた瞬間にハッと我に返り、弾かれたように左右へと道を開ける。
その開かれた道の奥から、豪奢な金糸の刺繍が施された絹の小袖をだらしなく着崩して羽織り、
冷酷な笑みをその口元に浮かべた「闇の元締め」の男が、
静かに、そして威圧的な足取りで姿を現した。
数々の修羅場をくぐり抜け、この辺りの東海道一帯における
日陰の利権をすべて裏から牛耳ってきた、日陰の総割元の頭領その人である。
その目は蛇のように細く、冷徹な光をぎらつかせながら、まっすぐに私を射抜いていた。
「威勢のいい小娘だ。
お前が噂の、丸米屋のギャル女将とやらだな。
だがな……
どれほど威勢よく吠えようとも、お前たちの命は、
すでに我が手のなかにあるのだよ。
この日陰の世界の掟に逆らったこと、
あの世へ行ってからじっくりと後悔するがいい」
「ヤバっ、おじさん、誰?
いきなり出てきて上から目線で語り始めてんだけど。
その着物の着方、マジでだらしなさすぎてぜんぜんイケてないよ?」
「ふん、口の減らない娘だ。
公儀の目すら届かぬこの闇の世界には、我らが築き上げた絶対の法があるのだ。
それを蔑ろにし、我がシマを荒らし、
挙句の果てにこの本拠へ土足で乗り込んできた罪、万死に値する」
元締めは勝利を完全に確信したようにそう言い放ち、
顎で手手下たちに冷酷な指図をくだした。
再び、数本の火縄銃の銃口が、
鋭い金属音を立ててお咲の胸元へとまっすぐに向けられる。
しかし、私は怯えるどころか、フッと鼻で笑い、
明るい長い前髪を指先で大胆にかき上げてみせた。
「あはは!
マジでウケるんだけど!
おじさんさぁ、大の大人がそんな薄暗いお寺のなかにコソコソ隠れてさ、
若い子集めて他人の街の邪魔して悪さするとか、
マジでそれ、ぜーーーんぜん粋じゃないんだけど!」
「な……何だと……っ⁉ す、粋じゃない、だと……っ⁉」
大寂寺の本拠のなかに響き渡る、私の全力のブチギレ一喝。
闇の元締めの男は、まさか死を前にした丸腰の町娘から、
開口一番に「ダサい」「粋じゃない」と一蹴されるとは思ってもみなかったらしく、
その青白い顔を屈辱で一気に真っ赤に染めて絶句した。
「粋じゃない、だと……?
お前、この俺が長年かけて築き上げてきた闇の秩序を、
ただの悪さと抜かすか……っ!
この東海道の裏を仕切る俺の力を、侮るのも大概にしろ!」
「そうだよ!
掟だの日陰の世界だの、それっぽいお硬い言葉使って
偉そうに自分を正当化して言ってるけどさ、
結局はおじさんが一番偉くなりたいだけでしょ?
周りのみんなを暴力と恐怖で無理やり従わせて、
自分が一番上の特等席でチヤホヤされたいだけじゃん!」
「口を慎め、小娘……っ!
この俺は、街道の裏を一手に束ねる総割元の――」
「はいはい、その古臭い肩書きとかマジでどうでもいいから!
そんなダサいやり方で部下やお客さん、
街道の旅人たちを怯えさせてさ、おじさん自身は、
本当に心からアガってんの?
毎日、心の底から最高にハッピーなわけ?
その質問に今すぐ答えてみなよ!」
私の真っ直ぐな言葉が、
元締めの男の胸元へとロジカルかつ辛辣に、寸分の狂いもなく突き刺さる。
大広間の至る所で松明の炎がパチパチと爆ぜる音だけが響き、
男は言葉に詰まって拳を固く握りしめた。
「……ハ、ハッピーだと……?
そんな腑抜けた堅気の言葉、日陰の生き方には必要ない……っ。
俺たちは恐怖で支配する、それこそが闇の力だ!」
「必要あるに決まってんじゃん!
いい?
周りの誰も幸せにできないボスとかさ、マジで存在価値ないから!
そんな暗い部屋でコソコソ怯えながら、
いつ裏切られるかビクビクして人を脅して何が楽しいわけ?
やってること、ただの寂しい引きこもりのおじさんじゃん!
そんなの、ガチで生きてる意味ぜんぜんないから!」
真正面から、自分がずっと心の奥底に隠してきた本質
――独りよがりな支配欲と、誰にも愛されない圧倒的な孤独――を、
初対面のギャルに理詰めで全否定され、
元締めは完全に言葉を失ってガタガタと唇を震わせた。
お咲の放つ言葉は、単なる暴言ではない。
それは、彼らがこれまで生きるために絶対に正しいと信じ込んできた、
日陰の世界の冷徹な掟の前提を、
その根底から激しく揺るがしていく無敵のエネルギーだった。
「お、お頭……。
俺たちは、一体何のために、これまで人を殺めてきたんでしょうか……」
「人を脅して、怯えさせて……
それが、俺たちの誇りだったはずなのに……。
ただの、粋じゃない悪さだったのか……っ」
元締めの背後に控えていた悪党たちまでもが、
お咲の放つ圧倒的な正論の前に、
自らのこれまでの生き方に激しい疑問を抱き始めていた。
彼らの胸の中にあった闇の誇りが、
ギャルの一喝によってパラパラと音を立てて崩れ去っていく。
構えていた火縄銃を持つ彼らの手がガタガタと激しく震え、
ついにガラン、ガランと、重い鉄砲が次々と床板の上へ落とされていった。
「お、お前たち、何を動揺している!
たかが小娘の戯言だ!
構えろ!
その小娘を今すぐ撃ち殺せ!」
元締めは半狂乱になって声を荒らげて叫んだが、
もはや誰一人として、お咲に向けて引き金を引ようとする者はいなかった。
大広間を支配していた闇の恐怖は、
ギャルが放つ圧倒的なハッピーバイブスの前に、
跡形もなく、綺麗に洗い流されようとしていたのだった。
「ほらね。誰も味方してくれないじゃん。
おじさん、もうそのダサい生き方、ウチらの温泉に浸かってポイしちゃいなよ」
私は元締めの男に向かって、
ニカッとこれ以上ないほどの最高の笑顔を向けるのだった。
「ぜーんぜん粋じゃない!」の一言が、元締めのプライドに痛烈な一撃を与えました。
次回、ギャル女将の言葉に魂を揺さぶられた闇の元締めが、まさかの降伏⁉
裏社会の流通網を使った大逆転劇へ!




