【第35話:無数の銃とかマジキャパい!でも一歩も引かないもんね】
火縄銃の銃口を突きつけられる絶対絶命のピンチ!
並の人間なら失神する状況ですが、ギャル女将は丸腰のまま一歩も引きません。
悪党たちを気圧す、女将の圧倒的な座長バイブスをお楽しみください。
大門を豪快に蹴り破った瞬間に巻き上がった、真っ白な土煙の向こう。
薄暗く、どこか生臭い古びた大寂寺の本拠の奥へと
臆することなく突き進んだ私たちを待ち受けていたのは、
この辺りの東海道一帯における日陰の利権をすべて裏から牛耳る総割元が誇る、
地を隙間なく埋め尽くさんばかりの、見るからに凶悪な無宿人の悪党たちだった。
「――そこまでだ、身の程知らずの、ドブネズミどもが」
不気味なほどに広々とした大広間の奥から、
何十本もの金属が冷たく擦れ合う擦過音が、嫌な静寂を切り裂くように響き渡った。
天井の煤けた梁から吊るされた、
いくつもの蝋燭の仄暗い炎に妖しく照らし出された男たちの手には、
ギラギラと冷酷に研ぎ澄まされた抜身の匕首や、
一振りで人間の四肢を叩き斬る長刃が鈍く光っている。
そして何よりも
――その最前列に並ぶ手下たちの手元には、
鈍い漆黒の光を怪しく放つ、
当時の戦場において最も恐れられた最新最強の大量殺戮兵器
――火縄銃がズラリと握られていた。
カチャカチャカチャカチャッ!!
一斉に、無数の黒い銃口が、
私とお揃いの深い藍色の粋な着物を身に纏ったセキュリティチームの胸元へと、
一寸の狂いもなく向けられる。
火皿に盛られた黒色火薬の、
鼻をツンと突く独特の生臭い匂いが、
凍りついた大広間の空気にじわじわと広がっていく。
一触即発、
引き金にかけられた指先が僅かでもピクリと動けば、
次の瞬間にはこの静まり返った大座敷が蜂の巣の血の海に変わるという、
ガチで生々しい死の予感が、床板から冷気となって這い上がってきた。
「あ、姉御……っ!
こればかりは、こればかりはマジでマズいでごぜ居やす……っ!」
さっきまで威勢よく大門の前で
門番を秒でなぎ倒していたチーフのボスが、
その山のように巨大な体躯を極限まで強張らせ、
額の醜い刀傷から滝のような冷汗を次から次へと流した。
死んだ父親から受け継いだ、
真鍮の鍔にウサギの細工が施された愛刀の柄を
がっしりと握りしめたまま、ボスの丸太のように太い腕が微かに、
しかし確実に震えている。
「チ、チーフ……?
どうしたの、顔がガチで引き攣りまくってんだけど。
さっきまでの勢いどこ行ったわけ?」
「火縄銃の数が、多すぎる……!
あの鉄砲の列に真っ正面から突っ込めば、
いかに俺たちの腕っぷしや十手の技があろうとも、
近寄る前に肉ごと木っ端微塵に消し飛ばされやす……っ!
姉御、ここは、ここはいいったん一歩退きやしょう……っ!」
かつての汚らしい無精髭をきれいに剃り落とした元手下の男たちも、
完全に腰が引けた様子で、
金箔のロゴ入り十手を握る手をカタカタと震わせ、
ジリジリと後ろへ後退しようとしていた。
お上の役人や、
戦場を駆ける名だたる武士すらも一撃で葬り去る『鉄砲』という
圧倒的な仕掛けの脅威。
逃げ場のない大広間で完全に包囲され、
まさに絶体絶命の、息をすることすら允许されない
極限の恐怖が空間を支配していく。
現代人の感覚からすれば、
本物の銃を無数に突きつけられるなんて、
恐怖で失禁してその場にへたり込んで腰を抜かすような、
まさに「マジでキャパオーバー(限界突破)」なシチュエーションのはずだった。
だけど――平成から令和の混沌をサバイブしてきた私は、根本から何かもかもが違っていた。
「――ちょっと、みんな退がってて。
チーフも、ウサギちゃん泣いちゃうから刀引いて」
私はボスの深い藍色の袖をグイと力強く引っ張ると、
怯える用心棒たちの前に自ら、凛とした、
そして一切の迷いもない足取りで一歩前に踏み出した。
そして、冷たい火縄銃の銃口が何十本も並ぶ真ん前、
あと数寸でも前に進めば、火薬の爆発に直接巻き込まれるほどの
至近距離に、何一つ武器を持たない丸腰のまま、堂々と立ちはだかったのだ。
「な、何だと……っ⁉」
「あの小娘、恐怖のあまり正気を失い、狂ったか……っ⁉」
大広間の奥のきらびやかな畳の上で、
脇息にふんぞり返っていた闇の元締めの老人たちが、
驚愕に目玉が飛び出んばかりに目を見開いて立ち上がった。
私は一歩も引くことなく、
その爛々としたギャルバイブス全開の瞳で、
銃を構えて凄んでいる闇の悪党たちを真っ正面から鋭く、
そして余裕たっぷりに睨みつけた。
「おいおいおい、おじさんたちさぁ!
そんな黒くて長い銃とかたくさん並べて脅してさ、
マジでキャパいんだけど!」
私の突き抜けるように明るい大声が、
凍りついていた大広間の重苦しい空気を木っ端微塵に粉砕するように響き渡る。
「き、貴様……っ、
公儀すら震え上がる鉄砲の銃口を前にして、
なぜそんな大言壮語が吐ける……っ!
一発でその薄汚い身体に風穴が開くのだぞ! 命が惜しくないのか!」
引き金を握る悪党の男が、
お咲のその圧倒的な異質さに底知れぬ恐怖すら覚えながら、
声を必死に荒らげて凄んでみせた。
だが、私はフンと鼻を鳴らし、
明るい前髪を指先でクルリと弄びながら、
一切の恐怖を感じさせない圧倒的な覇気をその身から放ってみせた。
「あのさ、
そんな火薬の匂いプンプンさせてる物騒でお硬いおもちゃで脅せば、
ウチらがビビって泣き入ると思ってんの?
そんな古臭い武器なんかじゃさ、
人の心までアゲアゲに支配できると思ったら大間違いだから!
ウチは、一歩も引かないもんね!」
ドーーーンっ!!
お咲の放った、世界観の前提を根本からひっくり返すような
無敵のギャルマインドの覇気が、
大広間の悪党たちを真っ正面から完璧に気圧した。
引き金を引けば一瞬で勝てるはずの悪党たちが、
なぜかその丸腰の町娘の凛とした威圧感の前に、
ガタガタと手元の火縄銃を激しく震わせ始めたのだ。
一歩でも前へ踏み込めば、自分たちがこれまで信じてきた
『闇と恐怖の秩序』が、
彼女の持つハッピーの渦に丸ごと呑み込まれて消えてしまうような、
未だかつてない強烈な恐怖が彼らの胸を完全に支配していく。
銃口が、みるみるうちにお咲の胸元から逸れて床へと下がっていった。
「お、お頭……じゃねえや、チーフ……。
姉御が、姉御が丸腰のまま、鉄砲の前に立って笑ってやすぜ……っ。
弾が当たったら死ぬってのに、あの余裕、一体なんなんだ……っ」
「……あぁ。なんてお方だ。
命のやり取りを何度も経験し、日陰の世界の修羅場をくぐり抜けてきたこの俺が、
あの小娘の背中に、
本物の神仏の後光を見た気がするぜ……っ!
俺たちの姉御は、ガチで本物の化け物……いや、生神様だ!」
背後に控える元博徒の男たちの目にも、
熱い感動の涙がじわりと大粒になって浮かんでいた。
現代の歌舞伎町や渋谷のあらゆる修羅場(?)を
笑顔でサバイブしてきた夜行性ギャルの精神力は、
江戸初期の最強兵器の脅威すらも、
ものの見事にアゲアゲなポジティブバイブスで無力化し、
巨大な闇の一味を全面降伏の淵へと追い詰めようとしていたのだった。
女将の覇気に悪党たちが怯んでいます。
そこへ、奥から冷酷な「闇の元締め」が姿を現します。
次回、第4のスカッと解決回!古臭い嫌がらせをする元締めに対し、ギャル流のロジカル論破が炸裂!




