【第31話:古臭いプライドはポイして、アガる生き方しなよ!】
名セリフ炸裂回です!
泣きじゃくるボスに対し、ギャル女将が「自分自身の人生をアゲなよ!」と一喝。
魂を救われたヤクザのボスが、まさかの「姉御!」と呼んで弟子入りする爆笑の更生劇をどうぞ!
「う、うう……っ、
お、親父ぃ……っ!」
湯殿を埋め尽くす真っ白な湯気の奥で、山のように巨大な男が、
顔の刀傷を涙で濡らしながら子供のように激しく肩を震わせていた。
日陰の世界の恐怖の象徴として街道筋を震え上がらせていた博徒のボスは、
今やそのすべての鎧を脱ぎ捨て、お咲の前で己の過去の傷を剥き出しにして号泣している。
彼の熱い涙は、天日干しされた薬草の香りが優しく漂う温泉の中へと、
跡形もなく、静かに溶けて混ざり合っていった。
私は湯船の縁に腰掛けたまま、その丸太のように太くて頑丈な背中を、
正面からガシッと力強く叩いた。
バチンッ! と、湯殿の木造りの壁に小気味よい音が小高く響き渡る。
「――っ⁉」
ボスはあまりの衝撃に涙をピタリと止め、濡れた顔を跳ね上げて
呆然と私を見上げた。
私は一切の躊躇もなく、そのいかつい大顔の真っ直ぐ正面から、
最高のギャルバイブスを込めた瞳で彼をねめ回した。
「そっか、辛かったね。実家のお父さんに認められなくて、ずっと一人で寂しかったんだ。……でもさ!」
「で、でも……?」
「実家の親に認められないからってさ、朝からこんなうらびれた小宿に
土足で乗り込んできて、他人の街を脅してイキるの、マジでそれ、
ぜーんぜんアゲじゃないし超ダサくね⁉」
突き刺すような、しかしどこまでも温かい直球が、ボスの濡れた胸元へと真っ直ぐに炸裂した。
「だ、ダサ……っ⁉」
「そうだよ! そんなカビの生えた古臭いプライドなんてさ、
このウチらの温かい温泉にポイして流しちゃいなよ!
親がどうとか、兄貴が優秀だとか、そんなの関係ないって。
これからはさ、お兄さん自身の人生が一番アガる生き方しなよ!」
その言葉は、ボスの脳髄に真っ白な雷が落ちたかのような、
凄まじい衝撃を与えていた。
額の刀傷が困惑と驚愕でピクリと大きく跳ね上がる。
公儀の厳しい目に怯え、無宿人の冷酷な掟に縛られ、
実家の父親の幻影に怯え続けていた彼を、
根本から丸ごと解放してくれる――あまりにも眩しく、
圧倒的に突き抜けた救いのバイブスだった。
「俺自身の……人生が、一番アガる……生き方……」
「そう! ウサギちゃんのセンスを活かして、
もっとみんながハッピーになることした方が、絶対に毎日楽しいっしょ!」
私がにっかりと最高の笑顔を浮かべると、
ボスの目からスッと濁った光が消え去っていった。
湯口から注がれるお湯の心地よい音が、二人の間にどこまでも平和に響き渡る。
――それから、半刻後。
湯気でほんのり肌を赤く染め、憑き物が落ちたような信じられないほど
スッキリとした笑顔を浮かべたボスが、湯殿から土間へとゆっくり戻ってきた。
脱衣所で着替えた泥茶色の薄汚れた羽織は、心なしかさっきより端正に整えられている。
「お、お頭ぁーーーっ⁉ ご無事でごぜ居やすか!」
「あの女狐に、一体何をされやした……っ!」
土間に完全に取り残されていた無精髭の手下たちが、
ボスの姿を見るなり一斉に色めき立ち、
の匕首に手をかけて駆け寄ってきた。
だが、ボスはそんな手下たちを手で制すると、驚くべき行動に出た。
ドサリ、と、磨き上げられた冷たい土間の床の上に、
その巨体を折り曲げて真っ直ぐに正座したのだ。
そして、前掛けのポケットに手を突っ込んでケラケラ笑っている私の目の前で、
深々と額を床に擦りつけた。
「……己の小ささを知った。
れまでの非礼、何とも申し訳の立たぬ次第。
……女将さん、いや、姉御!」
「え、あねご?」
「俺を、いや、俺たちをこの旅籠『丸米屋』で働かせてくれないか!
この通りだ!」
ボスのそのあまりにも真剣な大声が、ウチの旅籠の大座敷を
ビリビリと激しく震わせた。
「は、はぁぁぁぁーーーっ⁉」
「お、お頭、一体何を仰ってやすんですかお頭ぁ!」
廊下の陰に必死で隠れていたきよと佐助、
そして帳場の奥で震えていたおじいちゃん主人までもが、一斉に目玉が飛び出んばかりに驚愕して、
間の抜けた悲鳴を上げた。
手下の博徒たちにいたっては、持っていた匕首を土間にガランと落とし、
完全に開いた口が塞がらない様子で石のように硬直している。
「おい、お前たちもだ! とっとと姉御の前に平伏しねえか!」
「へ、へいっ! あ、姉御、よろしくお頼み申し上げやす!」
ボスの烈火のごとき一喝に、無精髭の手下たちも慌ててドタバタと土間に這いつくばり、
全員で一斉に私向かって頭を下げた。
さっきまで宿場町を恐怖で脅かしていた凶悪な博徒一味は、お咲の無敵のギャルマインドによって、一瞬にして完全更生を果たしてしまったのだ。
「あはは! マジでウケるんだけど! いいよ、みんなで一緒に、この街を一番アゲアゲなハッピータウンにしちゃお!」
私が親指を立ててパチンとウインクを飛ばすと、ひれ伏した博徒たちの背中の向こうで、
おじいちゃんときよが呆れ果てたような、しかしこれ以上ないほど安心した深い溜息を漏らすのだった。
ヤクザを丸ごと更生させちゃいました!
次回、更生した彼らが旅籠の「イケメンセキュリティ(用心棒)」として大活躍。
街の治安が爆発的に向上しますが、裏社会の「真の巨悪」が動き出します。




