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【第27話:ヤバっ!そのウサギの飾り超かわちい!】

今回は大注目のファーストコンタクト!

脅しに来たヤクザのボスに対し、まさかの「持ち物チェック」から入るギャル女将。

ボスの愛刀にある可愛い秘密を見逃さない、ギャルの審美眼をお楽しみください。

ウチの旅籠の、毎朝きよたちが雑巾で磨き上げている広々とした土間に、

冷たく重苦しい静寂が満ちていた。


 外の街道筋には、朝の明るい光が溢れんばかりに降り注いでいるというのに、

この旅籠の屋内だけはまるで深い奈落の底にでも沈んでしまったかのような

暗いバイブスに支配されている。


泥茶色の薄汚れた羽織をだらしなく肩から着崩し、懐にぎらりと光る物騒な

長ドスを忍ばせた無宿人の博徒たちが、獲物を囲む飢えた狼のように

ぎらついた視線を容赦なくこちらに向けていた。


その中心にどっかりと、山のように巨大な体躯をそびえ立たせているボスの男の額には、

斜めに走る深い刀傷が不気味に赤黒く浮かび上がっている。


男がただそこに佇んでいるだけで、周囲の空気が一瞬にして凍りつき、

床の冷たい土間にひれ伏したおじいちゃん主人や、下男の佐助の広い背中の後ろに

必死で隠れたきよは恐怖で息を呑み、歯の根をガタガタと激しく鳴らし続けていた。


 居合わせた旅人たちは悲鳴を上げて外へと逃げ惑い、これまでにない一触即発の、

剥き出しの暴力による重圧。

誰もがその圧倒的な恐怖に支配され、絶望に身をすくめて無理難題を飲むしかないと

諦めかけた、まさにその時――。


 私は、出来立ての温かい湯気をふんわりと立てるお膳を片手に持ったまま、

トントン、トントンと軽い木履の音を響かせて厨房の奥から進み出ると、

腰に両手を当てて、そのいかつい大男の姿をまじまじと正面から凝視した。


「……なんだ小娘。

てめえ、さっきから見ていれば、本当に命が惜しくねえようだな」


 ボスの男は年季の入った真鍮のキセルを不気味に咥えたまま、地を這うような、

地の底から響く低い声で短く呟いた。


 その瞬間、彼の骨太で毛深い右手が、腰に差した物騒な刀の柄へとゆっくり、

そして確実にかけられた。


カチリ、と鯉口を切るかすかな、しかしあまりにも冷徹な金属音が静まり返った店内に響き渡る。

随行する手下たちも「お頭、そいつを今すぐ殺っちまいましょう」と言わんばかりに、

にやりと下卑た邪悪な笑みを浮かべてドスの柄を強く握り直した。


一歩間違えれば、次の瞬間にウチの首が宙を舞い、綺麗な青畳が真っ赤な血の海に染まるような、

刃の上のごとき緊迫した極限状態だった。


 だが、その刹那、私の目は恐怖に曇るどころか、らんらんとこれ以上ないほどキラキラ輝きだした。


「ヤバっ! 

ちょっと待って、お兄さん! 

その刀の鍔(つば)にあるウサギの彫り物、マッッジで超かわちいんだけど!」


「…………は?」


 地の底から響くような恐ろしい怒号が飛び出すかと思いきや、私の口から勢いよく飛び出したのは、

まさかの大絶賛だった。


 あまりの想定外の言葉のバイブスに、ボスの男は刀を今まさに抜きかけようとした中腰の姿勢のまま、間の抜けた声を上げて完全に石のように硬直した。

額から頬に走る深い刀傷が、あまりの困惑のせいでピクリと奇妙に跳ね上がる。


「え、ちょっと見せてよ! 

ウチ、そういう細かい職人さんのこだわり細工とか、マジで大好物なんだけど!」


 私は一切怯えることなく、男たちの放つ鋭利な殺気をお構いなしに完全にスルーして、

ボスの胸元、鼻先が触れ合うほどの至近距離まで、ツカツカとさらにぐいっと詰め寄った。


「な、なんだてめえ……! 

お頭(かしら)に気安く近づくんじゃねえよ!」


無精髭を汚らしく生やした手下の博徒が、

慌ててウチらの間に割って入ろうとして手を伸ばしてくる。


しかし、私はそれを「ちょっと邪魔!」とお膳を持たない方の手でシッシッと素早くあしらい、

ボスの腰元にある刀の鍔をさらに熱心に覗き込んだ。


「違うって! 

おじさんたちもよく見てよこれ、

荒れ狂う波の上をさ、ちっちゃいウサギちゃんがぴょんぴょん跳ねてるデザインでしょ?

 

え、お兄さん、もしかしてギャップ萌え狙ってんの? 

こんなに身体が丸太みたいにゴツくて顔もイカつい見た目なのに、

刀のここにウサギちゃん仕込んでくるとか、センス良すぎでしょ! 

マジでウケるんだけど!」


「ギャ、ギャップ……もえ……? うさぎちゃん……?」


 ボスは刀の柄をがっしりと握りしめたまま、本当に石像のようにその場で固まっていた。

 これまで数々の血生臭い修羅場をくぐり抜け、

街道筋の人間を恐怖と暴力だけで支配してきたこの俺が、まさか十代の小娘に、

それも命を賭けた脅迫の真っ直ぐ真ん中で、刀の意匠の可愛らしさを正面から褒めちぎられるなど、

彼の人生のどの帳面にも書かれていない、全く想定外の異常事態だった。


「これさ、どこで買ったの? 

江戸の有名な職人さんとかに特注で作らせたわけ?ねえ教えてよ! 

ウチの旅籠の従業員にもさ、お揃いでそれ付けさせたいわ! 

きよちゃんとか佐助くんがそれ持ってたら、超映えると思わない?」


「し、職人……いや、これは死んだ親父の形見で、

波に兎は古来より伝わる縁起物の……、って、何をお前は先ほどからわけの分からぬことを

まくしたてておるのだ!」


ボスは完全に調子を狂わされ、

室内の心地よい白檀の香りに惑わされたのか、

思わず生真面目な顔で質問に答えそうになってから、大慌てで声を荒らげた。


しかし、その怒声には、さっきまで土間を圧殺していたような冷酷な殺気は

すでに一滴も含まれていなかった。


ただの戸惑いと、大いなる困惑だけが、

ウチらの旅籠の土間に虚しく響き渡るだけだ。


周囲に控えていた手下の博徒たちも、刀を半分引き抜いた体勢のまま、

呆然と口を開けてその光景を見守るしかなかった。


裏社会の秩序を暴力で守り、刃傷沙汰も辞さない冷徹な『お頭(かしら)』の、

誰にも言えなかった密かな趣味であり、隠れたこだわりであるウサギの意匠。


そこに真っ正面から突っ込んできて、大絶賛した人間など、

これまで江戸中、いやこの東海道を探しても一人もいなかったのだ。


手下たちは互いに顔を見合わせ、

「おい、どうするんだこれ……」「お頭のウサギがめちゃくちゃ褒められてるぞ……」と、

完全に武器を構えるタイミングを失っていた。


「形見とか超エモいじゃん! 

親父さん、マジでセンスの神様だね。

そんな素敵なウサギちゃん持ってるお兄さんがさ、

朝からこんなうらびれた小宿に土足で乗り込んできて、

カスリを毟り取るとかダサいこと言ってちゃダメだって! 

そんなことしたら、その刀のウサギちゃんが悲しくて泣いちゃうよ?」


「う、ウサギが泣く……? 

俺の刀の、彫り物が……?」


ボスは自分の腰元の鍔へと視線を落とし、

まるで生まれて初めてその彫り物を見たかのように、

まじまじと見つめ返し始めた。


さっきまで殺気立っていた旅籠の空気は、

私の圧倒的なポジティブギャルバイブスによって、

跡形もなく一瞬にして木っ端微塵に粉砕されていた。


おじいちゃんは涙を引っ込めてポカンと私を見上げ、

きよも佐助も「お、お嬢様がまたおかしなことを始めている……」と、

呆れと安心の混ざった長い溜息を漏らし始めている。


「ほらほら、お茶も冷めちゃうからさ。

一回その刀を収めて、このウチの特製柚子ハチミツ茶でも飲みなよ。

で、そのウサギちゃんの思い出話でもウチにゆっくり聞かせてよ。ね?」


私がにっかりと最高の笑顔を浮かべ、

お膳から柚子ハチミツ茶の器を差し出すと、


裏社会のボスは、完全に毒気を抜かれた様子で、深く長い溜息を吐きながらゆっくりと

刀の柄から手を離した。


ルールも通じない本物の悪党を前に、

現代のギャルマインドが見事なまでの超展開で、

土間の空間をシュールで平和なバイブスへと上書きしてしまったのだった。

ボスのペースを完全に狂わせました(笑)。

ウサギの飾りを褒められて動揺したボスは、一体どうなってしまうのか。

次回、恥ずかしさのあまりに撤退する、ボスの可愛い一面が描かれます!

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