【第26話:顔に傷あるイカついお兄さん、襲来!】
第3部「裏社会も解決編」スタートです!
ハッピータウンに目をつけた裏社会の強面ヤクザが襲来。
絶体絶命のピンチですが、我らがギャル女将はいつも通りのバイブスで現場に向かいます!
「いらっしゃいませー! 今日も極上のバイブスでハッピーな一日を!」
きよたちの突き抜けるように明るい声が広々とした土間に響き渡り、ウチの旅籠は朝から旅人たちの熱気と笑顔で満ちあふれていた。
御勘定所代官の鳥居様から直筆の御墨付きを賜り、幕府公認の一大歓楽宿場『ハッピータウン』として生まれ変わったこの街は、まさに栄華の絶頂にあった。
どこのお小宿も連日満員御礼の大繁盛。
ウチの店頭でも、特製のタピオカ風ドリンクや和風パフェを求めて、街道の遥か先まで色とりどりの傘を持った旅人たちの長い大行列ができるのが、今や当たり前の日常風景になっていた。
――だが、その最高にハッピーな空気が、一瞬にして冷酷に叩き潰される最悪の瞬間が訪れた。
バシャンッ!!
きよたちが毎朝ピカピカに磨き上げていた繊細な格子戸が、乱暴な足蹴りによって凄まじい音を立てて内側へと跳ね開けられたのだ。
木枠が悲鳴を上げてきしみ、戸の隙間から不吉な砂埃がどっと土間へ舞い込んでくる。
「ひっ……⁉」
あまりの衝撃と爆音に、土間の縁台で楽しげに談笑していた旅人たちが、一瞬にして身体を硬直させて顔を強張らせた。
「おいおいおい……。
ずいぶんと景気のいい店じゃねえか。
ほんの数ヶ月前までは化け物が出そうなボロ泥宿だったってのによ。
天下のお墨付きとは、随分と大きく出たもんだな、あぁ?」
低く、地を傷つけるように這う、不気味に掠れた野太い声。
入ってきたのは、泥茶色の薄汚れた羽織をだらしなく肩から羽織り、懐にギラリと光る物騒な長ドスを隠し持った男たち
――この近辺の裏社会を牛耳る、凶状持ちの無宿人であり、賭場を開いて街道を脅かす博徒の一団だった。
数人の手下を引き連れ、磨き上げられた床を容赦なく土足で踏みにじりながら、のしのしと奥へ侵入ってくる。
その真ん中を歩んでくるのは、ひときわ巨大な体躯を持つボスの男だった。
昼間のまばゆい朝の光を浴びて、彼の額から左頬にかけて斜めに走る深い刀傷が、まるで抉れた血の跡のように不気味に赤黒く浮かび上がっていた。
男がただそこに立つだけで、周囲の空気が一瞬にして凍りつき、まるで黒い霧のような圧倒的な威圧感が土間の隅々まで一気に広がっていく。
「あ、あ、あんたら、一体どこの……どなたさまでごぜいやすか……」
帳場の奥から、おじいちゃんが腰を抜かさんばかりに全身をガタガタと震わせながら、よろよろと頼りない足取りで前に出てきた。
「どこなの、だと?
すっとぼけんじゃねえよ、爺さん。
この辺りの街道筋で、俺たち『野道の悪党』に挨拶も通さずにこれだけ派手に銭を儲けておいて、タダで済むと思ってんのか?
お上の御墨付きがありゃあ、俺たち裏の住人が指を咥えて見てるとでも思ったかい」
ボスの男は不敵に笑うと、懐から年季の入った真鍮のキセルを取り出し、旅籠の命とも言えるピカピカに磨かれた大黒柱にゴン、と乱暴に打ち付けた。木肌に無惨な傷が刻まれる。
「ここで商売を続けたくば、それ相応の『場所代』……、いや、美味いカスリを毎月きっちり上納してもらおうか。
さもなきゃあ、この綺麗な畳も青畳も、ここに並んでる旅人どもの血で真っ赤に染まることになるぜ?」
「ひっ……ひえぇぇっ……!
お、お許しくだされ……っ!」
おじいちゃんは恐怖のあまり歯の根をガタガタと鳴らし、ついに膝の力が完全に抜けてその場に無様にへたり込んでしまった。
目の前の本物の暴力を前にして、居合わせた旅人たちは悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らすようにして外の街道へと逃げ惑い、きよはあまりの恐怖に声を失って涙目を浮かべながら、下男の佐助の広い背中の後ろへと震えながら隠れた。
一瞬にして旅籠の中は楽しい楽園から地獄へと逆戻りし、これまでにない一触即発の、まるで鋭利な刃の上を歩くかのような緊プレした空気に包まれる。
(お上のお墨付きだって、この無法者たちには通じない……。ウチらのハッピータウンは、ここで終わりなの……?)
誰もが絶望し、この圧倒的な暴力を前にしては要求を全て飲むしかない、逆らえば命がないと諦めかけた――まさに、その時だった。
トントン、トントン。
静まり返った旅籠の中に、場違いなほどに軽快でリズミカルな木履の音が、厨房の奥から響いてきた。
「はーい、お待たせ!
朝から随分と元気なお客さんじゃん。
ちょっとお騒がせすぎて、ウチらの店の大事なバイブスが乱れまくりなんだけど!」
いつも通りの全く緊張感のない足取りで、エプロン代わりに前掛けを巻いた私が姿を現した。
私の両手には、なぜか出来立ての白い湯気を優しく立てる、温かいお茶が乗ったお膳がしっかりと握られていた。
そのお茶からは、ほんのりと柑橘の爽やかな香りが漂っている。
「な……なんだ、その妙な女は。
おい、不届き者が、退け!
お頭の前に気安く立つんじゃねえ!」
無精髭を汚らしく生やした手下の博徒が、ドスの柄に手をかけながら、目を剥いて私を激しく威嚇してきた。
背後でおじいちゃんが「お咲、戻れ! 殺される、今すぐ奥へ逃げろ……!」と涙ながらに声を枯らして叫ぶが、私はそんな周囲のパニックを完全にスルーして、へっちゃらな顔のままツカツカとボスの男の目の前、手を伸ばせば触れられるほどの至近距離まで堂々と歩み寄った。
「ちょっとそこどいて。
ウチ、今からこの顔のイカついお兄さんと、じっくりお話しするからさ」
「……何だと、小娘が。
てめえ、命が惜しくねえのか」
ボスはキセルを咥えたまま、冷酷で鋭い眼光で私を上から下までねめ回した。
その圧倒的な殺気の重圧は、これまでの頭の固い仕入れ問屋のオヤジや、関所のカタブツ役人たち、さらにはお代官様とも完全に桁が違っていた。
ルールも通じない、言葉も通じない、一歩間違えれば本当にその場で首が飛ぶ、本物の裏社会の闇。
だけど、私はそんな男のすさまじい殺気を前にしても、フッと笑って、お膳から湯気の立つお茶を彼の目の前へと差し出した。
「ほらほら、お兄さん。
朝からそんな怖い傷のある顔してメンチ切ってたら、せっかくのイケメンが台無しだし、マジで疲れるでしょ?
これ、ウチが新しく淹れた『特製の柚子ハチミツ茶』。
まずはこの温かいお茶でも飲んで、一回ホッと落ち着きなよ。
男の交渉事は、お腹と心を温めてから始めるのがウチのルールっしょ!」
「……てめえ、俺を誰だと思ってやがる。
天下の無宿人、博徒の頭を前にして、その舐め腐った態度は何だ」
「誰でもいいって!
ウチらのハッピータウンに来たからには、どんな悪党でも、全員ハッピーにアゲて帰すのが女将としてのウチの仕事だからさ!」
私はポンと自分の胸を叩き、満面のギャルスマイルを浮かべてみせた。
完全に凍りついた旅籠の真っ只中で、私の放つ現代の無敵のギャルマインドと、裏社会を恐怖で支配してきた本物の悪党のガチな殺気が、真っ向から火花を散らすように激しく激突した。
これまでのどんなピンチよりも危険で、しかし絶対に退けない、宿場町の未来を賭けた新章のバトルが、今まさに最高に熱いバイブスと共に幕を開けるのだった。
お読みいただき感謝です!
ガチのヤクザのボスを前にしたギャル女将。
怯えるどころか、彼女の目にとまったのはボスの「ある持ち物」でした。
次回、緊張感ゼロのギャル節が炸裂します!




