↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/44

【第25話:ハッピータウン完成!でも新たな闇が迫ってる⁉】

第2部、堂々の完結です!

うらびれた街を見事にハッピータウンへ作り替えたギャル女将。

しかし、儲かる街には悪い奴らが集まるもの……。

不穏な影が忍び寄る激動のラスト、どうぞお見逃しなく!

「いらっしゃいませー! 今日も明日も、明後日も、ずーっと最高にアガっていこー!」


ウチの旅籠の広々とした土間には、朝から溢れんばかりの旅人たちの弾けるような笑い声と、活気ある賑やかな足音が心地よく響き渡っていた。

御勘定所代官の鳥居様から直筆の御墨付きを賜ったことで、かつて暗くうらびれて誰も足を止めなかったこの宿場町は、今や幕府も公認する合法的な一大歓楽宿場

――現代人の私に言わせれば、江戸時代最強の「ハッピータウン」へと完全に生まれ変わっていたのだ。

ウチの旅籠はもちろんのこと、周辺にある他のお小宿(こやど)も、茂蔵さんの茶屋も、どこの店に入っても連日満員御礼の大繁盛が続いている。

関所は『時間割り札』の導入によって秒でスムーズに通れるようになり、ただ街道を歩いているだけで、行き交う旅人たちのワクワクした幸福なバイブスが肌を通して伝わってくる。

誰もこの街を地獄なんて思わない、最高にハッピーな空間がここに完成したのだ。


「いやぁ、お咲。本当にお前がここにひょっこり来てくれてから、街が丸ごと、まるで夢のように変わっちまったなぁ」


帳場の奥から大福帳を片手に出てきたおじいちゃんが、目尻に深いシワを刻んで嬉しそうに呟いた。

白髪交じりの頭を優しく寄せ、まるで自分のことのように十歳も若返ったような満面の笑顔を浮かべて、私の頭をぽんぽんと愛おしそうに撫でてくれる。


「もう、おじじ様大げさだってば! 

でもさ、みんなのバイブスが綺麗に合わされば、江戸時代だってここまでアガるっしょ!」


「が、がっつりバイブスじゃな! 

ははは、本当にお前の言う通りじゃ。お前はウチの旅籠の、いや、この街道の福の神じゃよ」


「女将さん! 

お団子の仕込み、今日も午前中で売り切れそうな勢いですよ! 

タピオカの葛粉も、丸米屋さんの蔵からもっと回してもらわないと足りません!」


きよが、手作りのキラキラした髪飾りをシャラシャラと揺らしながら、廊下の向こうから弾んだ声を張り上げた。

重い荷を運ぶ下男の佐助も、厨房で腕を振るう料理長も、今やみんなが自分の仕事に強い誇りと楽しさを持って、自発的に生き生きと現場を回している。

ホワイト化されたウチの旅籠の熱量は、今や誰にも止められないほどの幸福の絶頂にあった。街全体が、未来への明るい希望に満ち満ちていた。

だけど――街が爆発的に儲かり始めたということは、それだけ光が強く、眩しくなったということ。

それは同時に、その眩しい光に引き寄せられるようにして、暗闇の底から利権をギロリと狙う「別の勢力」を呼び寄せることでもあった。

光が強ければ強いほど、その背後に生まれる影もまた、深く、濃くなるのが世の常なのだ。

その日の夜。

昼間の喧騒が嘘のように静まり返った、街の中心街から少し離れた場所。

辻行灯(つじあんどん)の薄暗い光すら届かない、街道の外れの深い暗がりに、数つの不気味な足音がピタリと静かに止まった。


「……ほう。

こいつはまた、ずいぶんと景気のいい街に化けやがったな。

数ヶ月前までは、化け物でも出そうな寂れ方だったっていうのによ」


低く、地を這うような掠れた野太い声。

闇に紛れて、遠くに見えるウチの旅籠の温かい灯りを忌々しげに睨みつけているのは、絵に描いたような凄まじい強面の男たちだった。

誰もが泥茶色の薄汚れた羽織をだらしなく肩から羽織り、懐には物属な長ドスを隠し持っている。

真ん中にどっかりと立つ男の顔には、雲間から覗いた月明かりに照らされて、額から頬にかけて斜めに走る深い刀傷が不気味に白く浮かび上がっていた。

彼らこそ、この近辺の裏社会を這い回る、凶状持ちの無宿人(むしゅくにん)であり、賭場を開いて街道を脅かす博徒(ばくと)たちだった。


「兄貴、噂通りですよ。

あのボロ宿のわけの分からぬ女狐が、妙な甘味を始めてからというもの、街道中のあおし(銭)が全てあの宿場に流れ込んでいやがるんです」


無精髭を汚らしく生やした手下の男が、下卑た笑みを浮かべながら刀傷の男の背後にへこへこと寄り添う。


「大文字屋の藤右衛門の頑固オヤジも、関所のカタブツ役人どもも、あの小娘の美味い菓子に胃袋をガッチリ掴まれて、すっかり牙を抜かれちまったそうです。

へへ、天下の御関所が聞いて呆れやすぜ。女一人の口車に乗せられるたぁな」


「ふん、お上のお堅い役人どもが懐を温めて、俺たち野道の者が干からびるなど、そんな筋の通らねえ話があるかよ」


首領格の男は、懐から手慣れた手つきで火打石を取り出すと、カチリと鋭く火花を散らした。

赤黒い火の粉が火口(ほくち)に吸い込まれ、キセルの先にじわりと真っ赤な火が灯る。

紫煙が夜の冷たい空気の中に白く広がっていく。その煙の向こうで、彼の冷酷で鋭い眼光が、さらに凶悪に引き立てられていた。


「お上のお墨付きが何ぼのもんだ。

守るものが増えた街ほど、脆くて脅しやすいものはねえんだよ。

これだけ丸々と肥え太った宿場だ、少しばかり『カスリ』を毟り取って、俺たちの取り分にしてやっても、バチは当たらねえだろうよ」


「さすが兄貴、目の付け所が違うや! 

じゃあ、さっそく明日にでも手下を引き連れてあの泥宿へ乗り込んで、ガツンと焼きを入れてやりますかい?」


「焦るんじゃねえ。

まずは周囲の弱い小宿から、じわじわと恐怖を植え付けてやるのさ。

あの小娘がどんなに威勢が良くても、目の前で仲間たちの店をめちゃくちゃにされ、親父どもが血を流しやあ、最後には泣いて許しを請うしかねえからな。

楽しみに取っておけ」


男たちは、闇の中でひっひっと低く邪悪な、身の毛もよだつような笑い声を漏らした。

彼らにとって、身分の垣根のないハッピーな楽園など、ただの格好の餌食、毟り取り放題の都合の良い財布に過ぎないのだ。

調停もルールも通じない、暴力と恐怖だけで裏社会の秩序を支配してきた本物の悪党たちの足音が、すぐそこまで迫っていた。


「おい、行くぞ。

あのギャルとかいう調子に乗った女狐に、江戸の本当の地獄、剥き出しの恐怖ってやつを教えてやる」


キセルの火が地面に落とされて踏み消され、男たちの不気味な影が再び深い闇の中へと消えていく。

大宿の嫌がらせをぶち破り、関所をファストパスで解放し、代官までをもアゲアゲに変革してきた宿場町。

しかし、今度ばかりは、これまでの「話せば分かる大人」とはわけが違う。

法律も通じない、お上の威光も恐れない、圧倒的な暴力という名の、これまでで最も危険な闇が、静かに、しかし確実にハッピータウンを呑み込もうとしていた。

第2部を最後までお読みいただきありがとうございました!

街を救った女将ですが、次回からは【第3部:裏社会も解決編】に突入です。

強面のヤクザを相手に、ギャルがどう立ち向かうのか⁉ お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。