【第24話:これぞ真の民の安寧……超・粋じゃん!】
第2部のクライマックス!
ギャル女将のおもてなしに魂を救われたお堅い役人が、ついに号泣しながら「超・粋じゃん!」と大デレします。
権力者をバイブスで屈服させる痛快な瞬間をご覧ください!
「……はぁ、美味い。なんだこれ、本当に美味すぎるぞ……っ!」
大座敷の空気は、数刻前のあの肌をチクチクと刺すような緊迫感が嘘のように、温かくふんわりとした至福の熱気に包まれていた。
御勘定所代官、鳥居は、すでに贅沢な仕立ての上下の襟元を少しだけ緩め、空になったギヤマンの器を愛おしそうに見つめたまま、うっとりとした恍惚の溜息を漏らしている。
その隣では、随行してきた直属の武士たちも、顔を真っ赤に染めながら『タピオカ風ドリンク』の竹筒を両手で大切そうに抱え込み、完全に骨抜きにされていた。
「でしょ?
ウチらの魂を込めたおもてなし、おじさんたちの胃袋にガツンと響いちゃったわけね!」
私が腰に両手を当ててからからと快活に笑うと、鳥居はハッと我に返ったように、慌てて背筋を伸ばして居住まいを正そうとした。
だが、もう遅い。出される料理の圧倒的な美味さはもちろんのこと、彼の冷徹だった鉄面皮を根底から揺さぶったのは、この大座敷を満たしている奇跡のような空気そのものだった。
「お代官様、お酒のお代わりはいかがですか?
冷たい井戸水でキリッと冷やした、ウチの街が誇る美味い地酒ですよ!」
きよが、手作りのキラキラした髪飾りをシャラリと揺らし、満面の笑顔でお銚子を優しく傾ける。
お上の絶対的な権力に怯えて縮こまり、涙を呑む者など、この部屋にはもう一人もいない。
きよも、重いお膳を運ぶ下男の佐助も、厨房で腕を振るう料理長も、みんなが心からの笑顔を浮かべ、目の前のお客を楽しませようと、自発的に生き生きと立ち働いているのだ。
(……信じられん。恐怖からではない。
義務や厳しい縛りでもない。
ただの小宿の女中や下男どもが、これほど自発的に、幸せそうに立ち働くだけで、これほどまでに清々しく、豊かな場が生まれるというのか)
鳥居の切れ長な両目が、驚愕と戸惑い、そして深い感銘に大きく大きく揺れていた。
彼ら幕府の役人にとって、民とは公儀の厳格な御定めと身分の秩序によって、厳しく律することこそが天下を統治する唯一の正しき道である、と固く信じ込まされてきた。
そうでなければ、世の秩序はたちまち乱れ、崩壊を招くというのが公儀の官僚としての矜持であり、揺るぎない価値観だったのだ。
しかし、目の前にあるのは、身分の垣根を越えて誰もが笑顔で命を輝かせている最高の光景だった。
それによって街は潤い、関所の滞りは消え、お上に入る運上金すらも爆アゲしている。
これこそが、この世に現れた、真の平穏なる極楽浄土ではないか。
「……私は、私は今まで、一体何を見ていたのだ……!」
濃厚な黒蜜の甘みと、極上の地酒の力が手伝ったのだろう。鳥居は突然、お膳の上に両手をどん、と突くと、広い肩をガタガタと激しく震わせ始めた。
「お、お頭……!?
いかがなされましたか!
もしや、お体に障るものでも……!」
「違うのだ!
私が、我が公儀のこれまでの政が、根本から間違っていたのだ!
民を厳しき掟だけで縛り、ただ恐怖で平伏させるだけなど、己の無能を隠すための、独りよがりの自己満足に過ぎなんだ……!
これでは民を真に富ませることなどできぬ!」
大粒の涙が、鳥居の日に焼けた頑なな頬を伝って、ポロポロと畳にしがみつくように落ちていく。
天下の幕府代官が、一介の小宿の大座敷の真ん中で、胸を強く押さえて大号泣し始めたのだ。
「お代官様、そんなに泣かないでよ!
ほら、手ぬぐい使いな?」
私が差し出した真っ白な手ぬぐいを、鳥居は震える手でひったくるように受け取り、男泣きに顔を覆った。
「お咲殿……!
お前が命がけで教えてくれたこの活気、この民の笑顔こそが、我ら公儀の目指すべき真の安寧……!
これほど見事な差配、これほど誇らしい民の姿、これこそが――超・粋じゃん!!」
「ぶはっ!
お代官様、まさかのギャル語ラーニングしちゃった⁉
超ウケるんだけど!」
夜の帳が下りた大座敷に、私の大爆笑と、固唾を呑んで見守っていた従業員たちのドッとした嬉しそうな歓声が響き渡った。
随行の武士たちも「お頭が……あのお堅いお頭がギャルになられた……!」と涙ぐみながら、嬉しそうにタピオカをジュボジュボと啜り合っている。
厳格なる風紀検査は、いささかの不審も咎めもなき最高の結果となり、お上の最高権力者がギャル魂に完全降伏するという、これ以上ない大勝利の結末を迎えたのだった。
翌朝、宿場町にはどこまでも澄み渡るような、まばゆい青空が広がっていた。
御勘定所による宿場改めは、大慶の至りとして正式に幕を閉じ、ウチのホワイト化された旅籠のやり方は、お上からも「街道の模範」として直筆の御墨付きを賜ることとなった。
「お咲さん、本当におめでとうございます……!
ウチらの街が、お上から認められたんですよ……!」
旅籠の広々とした土間で、きよが感極まったように大粒の涙を浮かべて私の両手をぎゅっと握りしめた。佐助も料理長も、そして帳場の奥から出てきたおじいちゃんも、みんなが誇らしげに胸を張って私を見つめている。
「ありがとね、みんな!
でもさ、ウチ言ったでしょ?
ウチらの伝説は、まだ始まったばっかりだって!」
私は大きく開け放たれた格子戸の向こう、ひっきりなしに旅人が行き交う、大活気の街道を真っ直ぐに見据えた。
大宿の陰湿な嫌がらせをぶち破り、お堅い関所をファストパスで解放し、最後には幕府の最高権力者までをもアゲアゲに変革してみせた。
現代のギャルマインドを引っ提げた私の世直し劇は、この小さな宿場町を『情味あふれる極楽の街』へと完全に塗り替えたのだ。
「ダサいルールで縛られた暗い時代なんて、ウチらの最強のバイブスで、これから日本中まるごと上書きしにいちゃうよ!」
「「「おおおっーーーーーー!!」」」
雲一つない街道の空へと、みんなの力強い大歓声が吸い込まれるように響き渡る。
新米ギャル女将・お咲のあくなき挑戦と、笑顔に満ちあふれたアゲアゲな江戸の未来は、どこまでも続く青空の向こうへと、今度こそ本当に、最高にハッピーな幕を開けるのだった――。
役人様、最高のデレをありがとうございました(笑)。
これでお上公認のハッピータウンとなった宿場町。
しかし、平和が訪れたのも束の間、次回から第3部突入!儲かる街に「裏社会のヤクザ」が襲来します!




