【第22話:お堅い地方役人の襲来!風紀乱れすぎってマジ?】
宿場町のハッピー化を揺るがす、中央からの「お堅い地方役人」が襲来!派手な街の様子を「風紀が乱れている」と大激怒するカタブツ権力者に対し、ギャル女将が真っ向から対峙します。
「いらっしゃいませー! 今日も極上のバイブスでハッピーな旅を!」
関所の『時間割り札』による大改革が始まってから、わずか数週間。
ウチの旅籠を中心とした宿場町は、それまでのどんよりとした曇り空が嘘のように晴れ渡り、まさに天地がひっくり返ったような大賑わいを見せていた。
どこまでも広がる青空の下、街道筋には辰次さんの手による色鮮やかな絵びらが誇らしげにはためき、どの小宿や茶屋の店頭からも、じっくりと煮詰めた黒蜜の甘く香ばしい香りがふんわりと漂ってくる。
ひだ飾りのついた可憐なお揃いの召し物をまとい、ふんわりとした盛り髪を揺らすきよたちが極上の笑顔を振りまけば、長旅で疲れ切っていたはずの旅人たちは、太い竹筒を片手に特製のタピオカ風ドリンクを嬉しそうに啜り、誰もが美味そうに顔をほころばせる。
誰もがこのハッピーな活気の継続を信じ、街全体が毎日お祭りのような盛り上がりを見せていた、まさにその時だった。
「――静まれ、静まれ!
公儀、御勘定所代官、鳥居様のお通りである!
これなるは公儀の御用を預かる御方!
一同、その場に控えおろう!」
街道の賑やかな歓声を一瞬にして切り裂くように、地鳴りのような鋭い怒号が響き渡った。
歩いていた旅人たちが恐怖に顔を強張らせ、蜘蛛の子を散らすように街道の端へと逃れ、次々と冷たい地面に平伏していく。
ウチの宿の前に現れたのは、黒塗りの重々しく厳かな駕籠と、抜身の刀のごとき鋭い殺気を放つ数人の武士たち――中央の幕府から、宿場町の風紀を監査するために突如として襲来した、超がお堅い中央役人、代官の鳥居とその直属の部下たちだった。
「……ふん。
これが噂に聞く、新参の泥宿が始めたという不届きな騒ぎか。
見るに堪えん無礼の極みだな」
黒塗りの駕籠からゆっくりと降り立った鳥居は、贅沢な仕立ての上下を塵一つなく隙なく着こなし、冷酷な眼光でウチの旅籠の建物をねめ回した。
白髪交じりの細い眉を不快そうに吊り上げ、キラキラと光る手作りの髪飾りをつけて給仕していたきよや、店頭の縁台で楽しそうにかん味を食べている旅人たちの姿を、まるで目を汚す穢れものでも見るかのように睨みつけている。
その凄まじい権力の重圧に、街道は水を打ったように静まり返った。
「おい、そこな泥宿の主!
前へ出よ、平伏せい!」
「ひ、ひえぇっ……お、お許しくだされ……!」
鳥居の配下の武士に容赦なく怒鳴られ、帳場の奥からおじいちゃんがガタガタと全身を激しく震わせながら、土間に五体投地でひれ伏した。
慌てて駆けつけてきた隣の茶屋の茂蔵さんも、丸米屋のオヤジさんも、顔を紙のように真っ白にして床に額を擦りつけている。
お上の絶対的な権威の前では、一介の町人など虫ケラ同然に扱われる時代なのだ。
「お、お代官様……。
我が小宿の者どもが、何か公儀に背くような重罪を犯しましたでしょうか……?」
「分かっておらぬか!
身分秩序を重んじる徳川の街道において、このような派手で不謹慎な騒ぎは、お上の御法度をないがしろにする不届き千万な所業!
奉公人に身の程に合わぬ召し物を与えて狂わせ、旅人の心を惑わす妖しげな甘味を売り散らかすなど、言語道断である!」
鳥居の冷徹で重みのある声が、完全に凍りついた土間に容赦なく突き刺さる。
せっかくみんなでブラックな労働環境をぶち破り、全員の努力で手に入れた最高のハッピー。
それが、お上の「ルール」という冷たい言葉一つで、いとも簡単に叩き潰されようとしていた。
オヤジたちは絶望に唇を噛み、ただ震えることしかできない。
「お前たちのやっていることは、宿場全体の風紀を根底から乱す悪行なり。
即刻、あのふざけた絵びらを引き剥がし、髪飾りを捨て、元の静粛な状態に戻せ。
さもなくば、この宿場町ごと取り潰し、主どもはすべて捕縛の上、厳罰、獄門に処すものとする!」
「そ、そんな……!
お代官様、どうか、どうかお慈悲を……っ!
これらはすべて、旅人の疲れを癒やすための趣向にごぜいやす!」
おじいちゃんが涙を流して土間に爪を立て、何度も何度も額を打ち付ける。
きよはあまりの恐怖に声を失って小さく震え、厨房の奥では下男の佐助や料理長も息を殺して完全に硬直していた。
圧倒的な権力者の暴力的な言葉によって、せっかく光を取り戻したはずの街に、再び濃く、暗い絶望の影が落ちようとしていた。
誰もが「お上には逆らえない」「すべてを諦めるしかない」と、悔し涙を呑みかけた――まさにその瞬間。
「――はぁ?
ちょっと待って。
おじさん、せっかくの威厳が台無しじゃん。
何その的外れなイチャモン?」
静寂をぶち破って響き渡ったのは、場違いなほどに軽快で、アゲアゲな声だった。
平伏して震えるオヤジたちの隙間を縫うようにして、私はすっと背筋を伸ばし、最前線へと歩み出た。
「お、お咲!
何をしておる、控えよ!
お上の前だぞ!」
おじいちゃんが腰を抜かさんばかりに顔を真っ青にして悲鳴を上げるが、私はへっちゃらな顔で首を小さく傾げ、お代官様の冷酷な視線を正面から真っ直ぐに受け止めた。
「何だ、その方は……。
公儀の代官を前にして、頭を上げるとは無礼千万な。
そこな不届きな小娘を、直ちに引きずり下ろせ!」
配下の武士が刀の柄に手をかける。
だが、私は一歩も引かずに言葉を畳み掛けた。
「引きずり下ろす前にさ、ちょっとウチらの正当な言い分も聞いてよ。
おじさんさ、風紀が乱れるとか、身の程がどうとか言ってるけど、ウチらがこれだけ街をプロデュースして大活気を出したおかげで、お上に入る『運上金(税金)』が今までの何倍になってるか、ちゃんとその大福帳チェックした?」
「なに……?
うんじょうきん……?
それがどうしたというのだ」
鳥居は予想だにしない私の容赦なき問いかけに、一瞬だけ鋭い目を丸くした。
「大ありだし!
街が静かで誰も来ない、明日潰れそうなボロ宿ばっかりだった頃よりさ、みんながハッピーに立ち働いて、旅人さんがお金をいっぱい落としてくれる今の方が、ぶっちゃけお上にとっても大黒字で超win-winじゃん。
ルールに縛られて街を干からびさせるのが、本当にお上のやりたい統治のやり方なわけ?」
「き、貴様……っ!
おのれ、お上の統治を金銭の多寡で測るなど、不届きにも程がある!
公儀の威信を侮辱する気か!
その不遜な口、二度と利けぬようにしてくれるわ!」
鳥居の顔が、みるみるうちに怒りで烈火の如く真っ赤に染まっていく。
お堅いプライドを木っ端微塵に刺激された彼は、完全に正気を失いかけていた。
配下の武士たちが一斉に抜刀の構えを取り、土間に鋭利な殺気が渦巻いた。
だけど、私は震えそうになる膝をグッと踏み締め、背後で怯えるおじいちゃんやきよたちの背中を庇うようにして、にやりと不敵なウインクを鳥居に向かって飛ばしてみせた。
「怒るの早すぎだって!
そんなに眉間にシワ寄せてたら、せっかくの偉いお顔が台無しじゃん。
ねえお代官様、ウチらのバイブス、ただの悪ふざけかどうか……その身で直接、確かめてみたくない?」
ガチの国家権力と、世界を変える最強のギャルマインド。
宿場町を元の地獄へと逆戻りさせようとする最大の壁を前に、私の人生を賭けた、本当のトップネゴシエーションが今、熱いバイブスと共に幕を開けるのだった。
せっかく明るくなった街が大弾圧のピンチ。
でも、女将は一歩も引きません。
次回、お堅い役人たちを黙らせるため、街の全総力を挙げた「ギャルプロデュースの大宴会」を仕掛けます!




