【第21話:ファストパス制度の元祖、関所に爆誕!】
関所の渋滞を解消するため、ギャル女将が現代の知識「ファストパス制度」を江戸時代に導入!
ガチガチの役所仕事が、ギャルのアイデアでみるみる効率化していく爽快劇をお楽しみください。
「――ね? お団子食べてお腹が落ち着いたら、次はこの大渋滞を秒で片付けちゃおうよ!」
私はギロリとこちらを睨み据える髭面の関所役人に向かって、これ以上ないほどにんまりと、アゲアゲな笑顔を作ってみせた。
ついさっきまで殺気立っていた検問所の空気は、完全に私のペースに巻き込まれている。
お団子のあまりの美味さに毒気を抜かれたお頭の武士は、未だに口の周りにみたらしのタレをべっとりとつけたまま、まるで狐にでも化かされたかのような目で私を凝視していた。
「……渋滞を、片付けるだと?
お前、公儀の御関所が定めた厳格なる改めの手順を、一体何だと思っている。
これは天下の法度に基づいた、神聖なる公務であるぞ」
「手順が大事なのは超分かってるって! 怪しい奴を通さないためのチェックでしょ?
でもさ、みんなが一時にこの門の前に押し寄せるから、おじさんたちの処理能力もキャパオーバーになるわけでしょ?
だったら、並ぶ場所と時間をあらかじめバラしちゃえばいいじゃん」
「並ぶ時間を、ばらす……?
そんなことをすれば、さらに大混乱を招くだけではないか」
若い定番の役人が、槍を刺股に持ち替えた手元を少しだけ緩めながら、不思議そうに首を傾げた。
その背後で、床に額を擦りつけていた茶屋の茂蔵さんと丸米屋の親父も、恐る恐る顔を上げてウチらの会話を必死に盗み聞きしている。
「バラさないの! 仕組みを作るの!
題して『元祖・ファストパス制度』!
ええと、江戸の言葉で言うなら……『先駆けの時間割り札』ってとこかな!」
「じかんわり、ふだ……?」
お頭の武士が、さらに眉間のシワを深くした。
私はニヤリと笑うと、懐からおじいちゃんの帳場から拝借してきた白紙の和紙を取り出し、その場に広げて墨筆で簡単な仕組みの図面をサラサラと書き殴り始めた。
「いい?
旅人さんが関所に並ぶ前にさ、ウチらの宿場町側で、関所手形に名前の書き漏れとか致命的な不備がないか、あらかじめ『下改め』をやっちゃうわけ。
で、何の問題もなさそうな普通の人には、この『四ツ刻の札』とか『九ツ刻の札』みたいに、お役所を通れる時間を指定した特製の木札を渡しちゃうの」
「何……?
関所の前ではなく、手前の宿場で先に調べるというのか。
そのような越権行為……」
「越権じゃないって、ただの下調べ!
旅人さんはその指定の時間まで、無理に門の前に並んでイライラしなくていいの。
宿場でウチらの美味しいタピオカ飲んだりパフェ食べたりして、のんびりお買い物して待てるでしょ?
で、おじさんたちも、その木札を持った人が順番通りにバラけて来てくれるから、ひと握りの人数でこの大渋滞を相手にしなくて済むわけ。
無駄な待ち時間が秒で消えて、みんながハッピーになる最強の作戦!」
言い終えて、私はふんっと自信満々に胸を張った。
和紙に描かれた円と矢印の奇妙な図面を前にして、関所役人たちは一斉に顔を見合わせた。
張り詰めていた検問所の緊迫感が、戸惑いと困惑のバイブスへと変わっていく。
「ば、馬鹿な!
そのような前例のないやり方、公儀が許すはずがなかろう!
お上の改めは、この門の前で厳粛に行うのが古来よりの仕来り。
宿場ごときに手形の検分を任せるなど、お上の威光に関わる!」
「左様だ!
もしその下調べとやらを擦り抜けて、大罪人が関所を越えたら誰が責任を取るのだ!」
若い定番たちが口々に声を荒らげて反発する。
彼らにとって、これまでのルールを変えることは恐怖そのものなのだ。
だけど、真ん中に座るお頭の武士だけは違っていた。
彼はじっと私が書いた図面を見つめたまま、顎の髭を深く深くさすり、その鋭い目を細めていた。
「……待て。
一時の混雑を排し、あらかじめ小宿の者どもに不備のある手形を弾かせれば、我らの目を通る時にはただの確認で済む、ということか。
押し問答の時間が省けるな」
「そうそう!
おじさんたちの毎日の仕事も、めちゃくちゃ楽になるよ?
ぶっちゃけ、毎日この大渋滞を少人数で相手にするの、だるいでしょ?」
「だ、だるいとは何だ、言葉を慎め……。
しかし……確かに、手形の改めが進まぬのは、文字の読めぬ小作人が不備のある紙を出してきて、門前で長時間の押し問答になるのが大半。
それを手前で弾いておけるのなら、利は大きい」
「お頭! しかし、お定めが――」
「黙れ。一度、この小娘の言う通りに人の流れを差配してみよ。
もし滞りが消えぬのなら、その時はこの娘ごと、小宿の親父どもを即座に牢へ叩き込んで、死罪の沙汰を仰ぐまでだ。
おい、爺ども、やれるな?」
お頭の凄まじい一喝に、定番たちが「はっ!」と居住まいを正した。
床に座り込んでいた茂蔵さんと丸米屋の親父は、ビクッと肩を跳ね上げたが、私の不敵な笑みを見て、ついに覚悟を決めたように力強く頷いた。
よし、トップネゴシエーション、完全成立!
「茂蔵さん、丸米のオヤジさん!
ウチらの出番だよ!
宿場にいるオヤジたちに至急連絡して、今すぐ街道の入り口で手形の下調べを始めて!」
「お, おう!
やってやろうじゃねえか、お嬢ちゃん!
これ以上客を待たせたら、商人の名が廃る!」
「丸米屋の奉公人を総動員して、時間割りの木札を秒で切り出して配りやすぜ!」
さっきまで腰を抜かして震えていたオヤジたちが、現金なもので、売上の大爆発の予感を感じ取って一気に活気づいた。
彼らがダッシュで宿場町へと戻り、数日前に私がタメ口で徹底的に叩き込んだ『ギャル流のシェア精神』をフル稼働させて、街道の入り口に特設の「下改め所」を爆速で立ち上げた。
「はい、お客様!
手形は綺麗ですね!
こちらは八ツ刻の特製木札になります、時間まで丸米屋で美味しいタピオカでも飲んでお待ちくださーい!」
「そこの旅人さん、手形の裏書きが抜けてるぜ!
うちの宿で書き直すから、ちょっと寄っていきな!」
宿場のオヤジたちの、これまでにない威勢の良い笑顔の声が響き、旅人たちに次々と時間指定の木札が手渡されていく。
その効果は、本当に劇的だった。
それまで関所の門前にギューギューに押し寄せていた、あの気の遠くなるような大渋滞が、ものの数十分のうちに、驚くほど綺麗に解きほぐされていく。
旅人たちは殺気立った門前でじっと待たされることなく、指定された時間に笑顔で関所へとやってくるようになった。
「……おい、どうなっている。
もう次の旅人の検分が終わったぞ。滞りが一切ない」
「信じられん……。
いつもなら、この刻限にはまだ山道まで何百人も人が溢れ返っているはずなのに、門の前には誰も滞っておらん……」
文机の前に座る定番の武士は、ササッと流れるように進む手形の処理を前にして、驚愕のあまり算盤を持つ手をガタガタと震わせていた。
怪しい人間を確実に弾きつつ、問題のない一般 of 旅人を爆速で通過させる。
業務が劇的に効率化し、自分たちの見張り仕事の負担がみるみる減っていく現実に、関所の武士たちは完全に言葉を失っていた。
「……お主、ただの泥宿の孫娘ではないな」
お頭の武士が、ゆっくりと高座から立ち上がり、私を真っ直ぐに見据えた。
その目には、さっきまでの小娘に対する侮蔑や殺気は一切ない。
あるのは、ただ圧倒的な軍略の妙を目の当たりにしたかのような、深い畏敬の念だった。
「この淀みのない人の流れ、まるで戦陣における兵站の乱れを、一瞬にして整える名軍師の采配。
お上の役人が何年も頭を悩ませてきた難題を、まさか一本の団子と数枚の木札で解決してみせるとは……。
恐れ入った。
お主のその才、公儀に欲しいほどだ」
「あはは!
軍師とか大袈裟だってば!
ウチはただ、みんながハッピーに効率よく動ければいいなーって思っただけだし!」
私が親指を立ててパチンとウインクを飛ばすと、お頭の武士はふっと破顔し、これまでのカタブツぶりが嘘のように心地よさそうに笑い声を漏らした。
天下の御関所の高い壁が、現代のギャルマインドによって、内側から完全にスムーズな流通インフラへと生まれ変わった瞬間だった。
「へい、いらっしゃい! お待たせしました!」
関所の門をストレスフリーで潜り抜けた旅人たちが、最高のテンションのまま宿場町へと次々に流れ込んでいく。
街の至る所から、タピオカを啜る音や、お洒落なパフェを囲む旅人たちの精度の高い歓声が響き渡り、宿場町全体の経済のバイブスは、今や誰にも止められないほどの猛烈な加速を始めていた。
渋滞を秒で解消し、関所のお侍さんたちともマブダチ(?)になりました。
しかし、街が急速に発展したことで、今度は中央から「お堅い地方役人」が風紀検査にやってくることに。
次回、最大の試練!




